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愛しの勇者さま  作者: 鈴宮
帰都編
15/22

12/微酔

私は体内(腹)に取り込んだ草を毒や薬として精製することもわけなくできる。

臍の辺りからずぶっと手を突っ込み、草の性質に合わせて魔力を込めて取り出すだけ。

こうして私の身体から出てきたどろっどろの液体を勇者さまが飲みほしているのを見るとなんだか至福の気持ちに包まれる。

ただしそれは人間の構造からは考えられない行為なわけで、どうやって作ったのだとうるさいジェンニの問い掛けはガン無視だ。

「おそろしいほどの即効性だな。さっきまでのダルさが錯覚に思える。助かった」

勇者さまに頭を撫でられて、なんだかたまらなくむず痒い。

私の頭を覆える程度の大きさの手はとても親しみ深くて、巨人の手と違って固くすぎることもない。

ぺたぺたと勇者さまの手を触っていたら、ぱっと手を引っ込められてしまった。

「俺たちは街の調査に行くが、あんまりうろうろしないで大人しくしてろよ?」

な!?

留守番んー!!?

「私も…」

「隊長、リュリュちゃんも連れて行ったらどうですか?」

「はあ? 何言ってやがる」

「だって俺と隊長が二人で歩いてたら庶民からはあからさまに怯えられるでしょ。騎士の制服を着てないですし」

「だからって…」

「いやいやいや、隊長とリュリュちゃんが一緒に歩いてるとなんか微笑ましいっすよ。昨日広場で二人を見た時になんか俺和んだっす。熊とリスみたいな、お父さんと娘みたいな」

「俺は父親なんて年じゃねえ!」

「や、実際19も違うんだから十分あり得ますって!」

「てめえこれ以上調子に乗ると…」

「うわ、隊長、青筋怖っ! すんまっせん!! じゃ、俺先に街の東側の視察に出てるんで!」

「おい、ジェンニ!! ふざけんなよ、てめえ!!」

颯爽と宿を出て行ったジェンニを捕まえることなく項垂れた勇者さまの腕を私はしっかりと握りしめた。

「じゃあ行きましょうか、勇者さま」




 *   *   *   *   *   *   *   *   *   *




「やあお嬢さん、パパとお買いものかい?」

「美人のお嬢さん、彼氏におねだりしていかないか?」

「お父さん、お父さん! 可愛い娘さんにこれなんかどうだい?」

「君さあ、親父なんかほっといて俺とお茶でもどう? 奢るよ!」

「別嬪だなー、うちの店で働きなよ! 給料奮発するぜ」

「おいおいおいおい、美女と野獣かよ? 俺の方が釣り合うと思わねえ?」

「旦那ぁ、うちならどんな嗜好のプレイでも…ごへぁっ!!」



夕方にはこの町の調査とやらは終わって宿に帰った。

町のオスどもは私にひれ伏し、押しつけるように物を貢いできたせいで私も勇者さまも両手が荷物でいっぱいだ。

勇者さまはその騒々しさが不快だったようでずっと眉を顰めている。

私にあてがわれた狭苦しい部屋に荷物を置くと、勇者さまはすぐに部屋を出て行こうとしてしまった。

「勇者さま…!」

勇者さまは振りかえって小さく笑った。

「そんな顔すんな。お前のせいじゃねえし、おかげで怪しまれずに色々と見れた。助かった」

遊ぶように私の鼻をつまんでクリクリ揺らしてる。

「いくら絶世の美少女ったって、まだお前は子供ガキじゃねえか。なあ? ますます…」

言葉を止めると勇者さまは目を細めて首を振り、そして部屋を出ていってしまった。

一人残された部屋が少し寒くなった気がした。




 *   *   *   *   *   *   *   *   *   *




今夜も淫魔の宴の声がする。

私は勇者さまのことが気になって仕方なくなって、部屋を出た。

勇者さまの部屋に辿りつくまでにも、色んな部屋から宴の声が漏れている。

部屋の戸をトントンと叩くと、間を置いて勇者さまが出てきた。

ランプの光は逆光だけど、私の目には関係ない。

鍛え上げられた美しい上半身が晒されていてうっとりして思わず飛びついてしまった。

「おいっ!? ちょっと、待て!」

そのまま抱えられて部屋の中に入れたのはいいけど、勇者さまは必至で私を引きはがそうとする。

でも甘美な存在に酔いしれている私は絶対に離れたくないという本能が最大限に働いているらしく離れられない。

しばらく堂々巡りの押し問答が繰り返されたけど、先に諦めたのは勇者さまで、立ったまま私に問いかけてきた。

「いったいどうしたっていうんだ? 俺は変な趣味は」

「淫魔の宴の声がするから!」

「いっ…淫魔、だと?」

「昨日もずっとしていました。今日の朝は勇者さまはぐったりなさっていて、だから…」

だから、どうしたんだろう。

勇者さまが淫魔の宴を楽しみすぎて疲れたからって、それは快楽の証なわけで、何がどうなるというわけでもないはずで…?

言葉を止めてただ勇者さまを見上げると、勇者さまは自身の口元を手で押さえて気まずそうに目を泳がせた。

「つまり…なんだ、その…心配してくれたってことか?」

…心配…ということなのかな。

でもそれ以外に思いつかないしそうなのかも!

力強く頷くと勇者さまはまた私の頭をポンポンと撫でてくれたけどちょっと力ない感じだ。

「…お前はいいコだよ。頼むからちょっと離れてくれるか」

私は渋々だったけど勇者さまから離れた。

ベッドの脇に脱ぎ捨ててあった服を拾い上げようと勇者さまが屈もうとした時、その肢体が本当に美しく月明かりに照らし出された。

今日は満月だったから、月の光に酔ったのかもしれない。

私は勇者さまをベッドの上に押し倒していた。

「なっ…おい? 何してん…」



ガブっ!!!



勇者さまの血の味は匂い同様やっぱり甘美で、草の汁の青い旨味とはまったく違うとろみがあった。

恍惚として肩口に吸いついていると、鋭く頭を叩かれて引きはがされ、部屋の外に放り出された。

「何が満月でも暴走しないだ! 十分酔ってるだろうが、こんの魔術師が!! 部屋で頭冷やしてこい!!」

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