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愛しの勇者さま  作者: 鈴宮
帰都編
13/22

10/美しい女

お気に入り登録ありがとうございます!

内容には関わりませんがちょこちょこ修正しました。

目覚めを体感したのは随分久しぶりのことでぼんやりする。

いつの間にか洞窟の中の焚火の横に寝かされていて、入口からは太陽の光が差し込んできていて眩しい。

「おはよ、リュリュちゃん」

「…おはよう、ジェンニ」

覚醒の感覚が慣れなくて、惰性的にジェンニに返事を返していた。

なんで眠ったりしたんだろ。

おまけに場所を移動した記憶もないし。

「リュリュちゃん寝ぼけてる? 珍しいな。水でも飲む? 顔洗ってくる?」

差し出された冷たい水を飲み干すとやっといつもの感覚が戻ってきた。

二人が食事をしている間、外を散歩していると、大きな葉のついた草が一面に生えている所に行きついた。

大きな葉の付け根から淡い赤紫の花が首を垂れるようにちょろんと咲いている。

長い舌を持っていてじゅるっと吸い込まれると出てこれない魔界の肉食植物に見た目は似てる。

みんなそれに食われて食べられている間抜けな誰かを笑いながら見てたんだけど、あー、胸糞悪かったから全部焼き払ったんだった。

こっちは茎も葉っぱも柔らかくてとても美味しそう。

体に入った途端に問答無用で体内に与えられる刺激も悪くない。

特に根っこの方が刺激が強くて、部分によって色々味わえてお得感がたまらなく良い!

人間なら中毒症状でも起こすのだろうけど、あいにく私の身体は人間の身体とは似て非なるものだから味も刺激も十分堪能できた。

これ、持ってこーっと。

身を守るための毒性は私にとっては娯楽的な刺激。

哀れなるかな、根っこから引き抜かれる名も知らぬ草よ。

魔王に気に入られたことを光栄に思うがいい。

はっはっははは!

なんて一人で魔王ごっこなんかをしながら上機嫌で戻ると勇者さまたちも食事を終えたらしい。

「おい、すぐに出発するぞ。って、それは…!」

勇者さまは私の両手いっぱいの草を見て馬の手綱を放り出して走ってきた。

「まさかと思うが食ってないだろうな!?」

食べたけど、食べたって言ったら人間じゃないことがばれるもんね。

にっこり笑って首を振った。

「これをどうする気だ…?」

「毒と薬は紙一重なものですよ?」

私にとったら毒も薬もないんだけどさ。

「隊長? 一体どうしたんすか?」

「これを見ろ」

「あーー! これって……えーっと、確か…あーっと…」

「魔女の草だ」

「幻覚作用とかが出るやつっすよね! 葉の表面の油によってかぶれが起き、体内摂取すると中毒になると重症になりやすく、嘔吐、下痢、瞳孔散大、錯乱、幻覚、呼吸麻痺! 最悪の場合死に至る!」

ジェンニが鼻息荒く主張してるけど勇者さまは見てない。

「これをどうする気だ」

おやつにします。

「持って行っちゃだめですか?」

すっごくおいしいんです。

じっと勇者さまの目を見つめていたら、深い息と共に「これだから魔術師ってやつは」とちっちゃい声で呟いて、束ねるための紐をくれた。

「確か花言葉は沈黙、汝を呪う、男への死の贈り物………」

草を束ねる作業する手は止めなかったけどジェンニは口を閉じて私を見た。

その眼には心なしか覚えのある恐怖の色が浮かんでいたのでちょっと笑いそうになっちゃった。

「欲しい?」

「洒落になってねえよお、リュリュちゃん…」

ジェンニが空笑いをこぼしながら馬に乗せて準備完了。

「隊長~、魔術師と魔女は別物っすよね?」

「…知るかよ」




 *   *   *   *   *   *   *   *   *   *




やっほーい。

やっぱうまーい。

「な…なあ、リュリュちゃん。さっきからその草食ってねえ?」

「別の草」

なんて他愛もない話をしたり、ひたすら馬に乗って歩いて今日は天気が崩れることもなく夜になった。

魔界がどんどん遠くなる。

同時に周りの魔力の気が薄くなっていくのもわかる。

異邦人に困惑する動植物たちが滑稽でついつい笑っちゃう。

周りの戸惑いなんて私には関係のない話で、魔界が遠くなったんだからますます遠慮なく魔力を使うことができる。

今夜の寝床も私が開けた洞穴だけど、良い出来だと思う。

今は魔力のコントロールが効かなくて大体が意図した以上に威力が発揮されるけど、思い通りにいく時もあってほんと気まぐれな力。

本当にいつになったら元に戻るんだろ。

このまま元に戻らなかったら不本意でも魔界に帰らなければならなくなるかもしれないし、そうなるとちょっとばっか面倒くさい。

燃えすぎて濛々と煙を立ち上らせている火を遠巻きにして3人で座った。

「明日の夜には町に着くだろうな」

せめて都に着くまでに戻って欲しい。

「ってことは明日は野宿から解放かー。久しぶりの温かい寝床っすねえ。うまいもんも食えるし、酒もー…」

そりゃあ戻らなくたって大丈夫だけどさ、壊しちゃうかもしれないし。

何をって色々とさ、建物とかぁ、街とか?

「げっほっ!げほっ!ケムいっ!!」

「風向きが変わったか。消さねえと死ぬな」

「消してきます!」

*参考*

ベラドンナ:ナス科の多年草。ヨーロッパに分布。アルカロイドを含む有毒植物。根と葉を散瞳薬や鎮痙・鎮痛薬に利用。名前はイタリア語で「美しい女性」を意味する bella donnaから。

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