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愛しの勇者さま  作者: 鈴宮
帰都編
12/22

従者の話2/美少女の実態

この世にこれ以上黒い黒はないと思われるような漆黒の髪。

髪色と対照的に誰も触れたことのない新雪か生まれたばかりの真珠のような白い肌。

薔薇の薄紅を乗せたような頬に鮮やかな桜色の唇。

宵を誘うような妖しさを持ちながらもしかし穢れを知らない無垢な深紫の瞳。



 *   *   *   *   *   *   *   *   *   *



一歩職場を離れればロマンチストで詩人体質の副隊長ならばこれくらいのことをさらっと言ってのけるのだろうが、あいにく俺も隊長もそこらへんの感性は無骨なむさい男でしかない。

いずれにしても、末は王妃か皇后か。

成長した暁にはどこぞの国を傾けてもおかしくない程の美女になることは間違いないだろうと誰もが思う少女はもくもくと一心に草を食べていた。

15年間も山に籠もっていたという少女は確かにその行動の端々から非常識さを垂れ流していたが、その雰囲気や仕草には田舎臭さは一切なく洗練された風格がある。

その非常識さが何によるものなのかは知らない。

父親がかの悪名高き魔術師であることや、15年間の山暮らし、彼女自身がかなり強力な魔術師であるらしいことのせいだと思うのだがそれでも補いきれないような奇人ぶりじゃないだろうか。

そもそも彼女が15歳であるのかということにも徐々に疑惑が出て来た。

無邪気な顔で大嘘をついているとは考えたくないので、非常識ゆえの何か大きな勘違いをしているんだと思いたい。

パッと見は15と言われても疑問はない。

個人差のある年頃だし。

とにかく山籠り以上の理由がありそうなほど彼女は風変わりだ。

いずれにしろ人との接し方がおかしい。

人を人とも思っていない節がある。

好き嫌いが激しいというか偏執的といってもいい。

隊長のことが好きで好きで好きでたまらないらしい一方、俺には一片の愛想も寄越さない。

なぜか隊長のことを勇者だと言い張り続け、俺はお付きの従者扱いで下僕か何かだと思っているという態度を隠さない。

数日過ごして俺も隊長も彼女の態度を変えさせることは諦めた。

人の話を聞いているようで全く聞いていないからだ。

それは隊長の言葉に対しても、聞く気はあってもやる気はないようで、気が向かなければ実行してくれない。

結果、俺は権威が覆されることの恐ろしさを思い知った。

それから、よく意識を全く別の世界に飛ばしているのではないかと思うような行動をとる。

誰も聞いていないのによく分からない言葉をもそもそと呟いていたり、馬三頭をものの見事に従わせてみたり、宙を見上げてじっとしていたり、服がいつでも汚れ一つないと思ったら魔力で生成したものだって嘯いたり。

俺のイメージする魔術ってのは詠唱とか印を結んだりとかいうことが必要だったりするから、あれは詠唱の一種なのかと思ってみたりもするが、別に呟きのあとに何かが変わるというわけでもない。



 *   *   *   *   *   *   *   *   *   *



彼女の大きな偏執の一つに偏食があり、一切肉を食おうとしない。

成長期に肉を食わないのはまずいと思うのだが、とにかく徹底して血肉がダメだと言うので俺たちが食事をする時はふらりとどこかへ行ってしまう。

まるで本能のままに生きる野生動物かなにかだ。

「やっぱ、カエルの子はカエルってことなんすかね」

「そうか? 俺は予想外に扱いやすくてほっとしてるけどな」

「そりゃ隊長はリュリュちゃんに懐かれてるからっすよ! 俺なんて完璧下僕扱いっすよ。どことなく人間離れした雰囲気もあるし」

俺の話を聞きながら隊長は肉の焼き加減を確かめている。

こういうことするところが庶民の出なんだってことを思い出させてなんか馴染みやすいんだ。

「魔族の域に片足つっこんでるんだから人間離れしてて当然だろ。女みたいにびいびい泣きださないから本当に手間がかからなくて助かってる」

「それは確かにそうっすね。でも、あの子15歳にしてはちょっと子供っぽすぎやしませんか? 中身が」

「山であのヴィサと二人で暮らしてたってんだから仕方ないんじゃないか? それか、生まれた年を知らないんじゃないか? そうじゃなけりゃ数を知らないとかな」

隊長は魔術師のヴィサは本当に常識知らずの阿呆だと信じているらしかった。

「でも黙ってさえいりゃ、外見はあの容姿っすからね。こっちも随分ご無沙汰してるんで無防備にされるとちょっと困るんすよね~」

隊長の目が本気で鋭利に光っていてちょっと焦った。

「や、冗談っすよ。隊長はちらっとも思わないんすか?」

「まだ子供ガキじゃねえか。…そうか、お前も大して変わらない年だったな。頼むから我慢しろよな、坊主」

「俺までガキ扱いっすか? でも隊長なんて熱視線あびてっから、さすがに何か感じちゃわないかと思ってたんすけど」

「感じちゃうってな、お前。とにかく、何か仕掛けるにしても都に着いてからにしろ」

「うぃっす。…って、いやいやいや、彼女はいいっす、俺!」

そんな話をした日の夜だった。



 *   *   *   *   *   *   *   *   *   *



「隊長ー、交代しま…って何やってんすかぁ?」

俺は思わずジト目で隊長のことを見てしまった。

だが、隊長は本当に後ろめたいことは何もないのか、膝の上で熟睡しているリュリュちゃんの頭を涼しい顔で撫でている。

そういや隊長って動物好きだったよな。

城にいる犬猫に馬とか、山で駆逐した獣とかにもよく懐かれてるし。

勇者っつうより獣使いって称号の方が合ってるんじゃないかと思った。


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