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愛しの勇者さま  作者: 鈴宮
帰都編
10/22

8/お月さま

人によっては軽く敬遠する話かもしれません。内容は題名からお察しください、すみません。

「すげえ、快適空間…」

「間違ってねえか……?」

土砂降りの中どうしたかというと、土石や植物に魔力を与えて崩れた洞窟を頑丈に穿ち直し、といっても岩山は貫通して向こう側への近道ができてしまったけれど、即席の洞窟を掘り開けて万事解決。

今は濡れた服を乾かすための休憩中。

もちろん、私は魔力を使って服を乾かすことを提案したけれど「それは勘弁してくれ」という勇者さまの一言で却下してしまったので、今はジェンニがつけた焚火を三人で囲っている。

「それにしてもさすが天才の娘って感じだよな」

「ずっと失敗ばかりで、完全に判断を誤ったかと思ったがな」

「小技よりも大技の方が安定して魔力を使えるみたいです」

「普通逆じゃないのか?」

「んーと、事情があって当分魔力が不安定なので、細かいところにまで神経を張り巡らせるような魔力の使い方ができないみたいなんです」

火を見ているとなんだか魔界を思い出す。

魔力も安定するような気がして魅入られていると、勇者さまの視線を感じた。

見上げると勇者さまが顔を顰めていた。

「事情というのは? 身体に変調でもあるのか」

「変調といいますか、気にすることもないような一時的なことです。避けられない必要なことですから」

「避けられない必要なこと?」

なんて説明したらいいんだろう。

変態のことを説明したら魔族だってばれちゃうし。

「隊長~、あんま深くつっこまないほうがいいんじゃないすか?」

「あ?」

「女の子が自分の身体について婉曲な言い方するって言ったら一つしかないっすよ。避けられない必要なこと」

訳知り顔のジェンニの説に納得したような勇者さま。

「気が利かなくて悪かったな」

そのうえ謝られちゃってさっぱり訳が分からない。

「ええ? 勇者さまが謝られるようなことは何もないと思いますけど」

なぜジェンニはそうも知ったような顔をしているのか。

「いや、まだ子供とはいえ成人した女に対して失礼だった。だが、これは一応聞いておくが、旅に支障はないんだな? 必要なものとかないのか? …布が足りないとか」

「布?」

「その、なんだ。血の始末とか」

「血? 私は怪我などしていませんよ?」

怪我なんて生まれてこの方した覚えはない。

一度、ケルベロスに容赦なくじゃれられた時くらいか。

あの時は傷に猛毒唾液が入って顔とか身体の一部が溶けたりしたからヴィサが怒り狂って、そっちの方が大変だった。

ケルベロスを始末するとか言っちゃって。

「怪我じゃなくてだな、血が出るだろ?」

「出ませんよ!」

怪我もしていないのに血が出るなんて気持ち悪い。

勇者さまとジェンニはちょっと気まずそうな顔をして私を見つめた。

「話が食い違ってるよな?」

「すみません、俺、なんか間違えましたかね?」

勇者さまとジェンニは二人で顔を見合わせて勝手に納得しちゃったみたい。

「お前、今は月のものの時期じゃねえんだな?」

「月のもの?」

なぜ月が出てくるんだろ?

「月経だ、月経! どこまで疎いんだお前は!」

「しょうがないんじゃないすか。代わりモンの親父と二人で暮らしてたわけですし…」

げっけい…月けい…月桂樹……?

あれは薬草の苦味みたいな味で好きじゃない。

「…あれ、なんか…リュリュちゃんまだ分かってませんって顔してるけど…ごめん、もしかしてまだ、とか?」

「まだ? 何?」

問いかけてきたジェンニも横にいる勇者さまも神妙な顔をしている。

「たしか歳は15と言ってたよな?」

「はい。15ってもう子供を産める年だと思ってましたけど違うんですかね?」

「知らん。俺もそう思っていたんだが…女の身体はよく分からねえ」

「え、飾り窓の通りじゃなかなかの評判だって聞いてるっすよ」

「そういう話じゃねえだろ!」

「すいません。でもこれってやっぱ父親が…」

勇者さまはものすごく凶悪な形相で舌打ちをした。

「めんどくせえ! 問題ないならこの話は終わりだ!」

「そうっすね!」

なんだか強制的に終わってしまったので、説明する必要がなくなってちょっと安心した。




 *   *   *   *   *   *   *   *   *   *




「でも月は確かに魔力に関わりがないこともないですよ」

変な沈黙が落ちてきて、二人とも押し黙ってしまったのでなんとなく口を開いてみた。

「魔族の中には満月や新月の時にいつもとは違う行動に出る者だとか、力が増したり逆に使えなくなったりする者もいます。人間でも魔力の質によっては変わる者もいるらしいです」

勇者さまはちょっと興味を持たれたような顔をした。

「お前はどうなんだ。もうすぐ満月だろ」

今までそんなことを気にしたことはなかった。

魔力を使うのにこんなに気を使ったのは今回が初めてだし、それに月が関わっていると思ったことはないけど。

満月の日はエイネの様子が最高潮に変なのだ。

だから覚えているのだろうけど、少しその日はいつもより血肉の臭いが平気だったりして。

「そういえば満月の時は少しテンションが高かったかも?」

そう言ったら二人はちょっと身を引いたみたいだった。

「あのさ、リュリュちゃん。魔力が暴走するとかはない?」

「魔力が暴走? そんなのなったことないけど」

二人はちょっとほっとした顔つきになったけど、今は魔力が不安定だからどうだろう。

自信ないなー。

そんな話をしていたら勇者さまが「用を足す」と言ってどこかに行ってしまった。

「リュリュちゃんも後で行っておいで」

「どこに?」

「だから…花摘み」

「花は食べないけど」

「これも通じないのか! だからさ、おしっことかしたいだろ?」

「ああ」

人間は排泄をしなきゃいけないんだった。

魔族の中には排泄を必要としないものが多くいる。

食べた物を魔力に還元しているからとからしいけど、とにかく必要がない。

もし体内から何かを出したくなったら腹に手を突っ込んで掻き出せば事足りてしまう。

でも人間のフリは必要だから後で行ってこよ。

それにしても人間はどうして隠語をよく使うんだろう。

どうせさっきの「月のもの」も大したことないに違いなかった。

「ジェンニ、月のものって何?」

「へ!? あ~…、月経って言っても分からないんだよな。つまり子供を産めるようになると女の子は定期的に出血するようになるんだよ、たしか」

だから怪我してないけど血が出るって話になったのか。

うげぇ…定期的に出血だなんて耐えられないに違いない。

あ、でも自分の血も嫌いだったか覚えてないや。

自分のなら大丈夫なのかなあ?

なんにせよ人間じゃなくてホント良かった。

「リュリュちゃん、まだなんだろ?」

これからなることも絶対にないけど、魔族が繁殖できるようになるのは成育してからで、発育途上の私にはまだ生殖機能がないから「うん」と答えておいた。


*飾り窓:花街のことです。

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