0/旅立ち
リュリュは居心地の良い自分の家をほっぽりだして森の中を歩いていた。
彼女の周りの者は鬱陶しいと思ってしまうほど彼女を甘やかして、それはそれは大事に育ててくれた。
生まれて10年、一度たりとも何かに不自由したことはない。
だが不満はたくさんあったのだ。
まず彼女は自分の長ったらしい名前が嫌いだった。
だが誰もその名を呼ばないことがさらに嫌だった。
彼女が苦心して考えた愛称すら呼ぶことを良しとしないのだ。
彼女は肉が嫌いだった。
臭いにまず耐えがたい吐き気を感じ、その感触はさらに食欲を減退させ、結局一度も食べられた試しがない。
出されたものを全て食べきることができないというのは彼女の自尊心を著しく挫いた。
さらに彼女は自分の家とその庭から一歩も外に出たことがなかった。
誰もが危険だからやめろと言うのだ。
飽きが来るほど全て見つくして景色は彼女の心を刺激しなくなっていた。
他にも枚挙すればいとまはない。
家を彩る全体的な色合いや、空気や、においがあまり楽しくなかったし、周りの者達が楽しむ娯楽も彼女には全く楽しいと思えなかった。
また、自分が出掛けることもがないだけでなく、客が来ることもないので、新たな出会いというものは皆無に等しかった。
リュリュは新しいものを見てみたかった。
自分が欲深い贅沢者だということは百も承知だ。
周りの者達にはとても申し訳なく思ったが、彼女は自分の欲求を抑える事ができなかった。
これが業というものかとちょっと悲しくなったが、結局彼女は置き手紙一枚を残して家を出てしまった。
リュウガル=ロゴ=エンデオル=セイ=ヌハル=ペルスト=アシアトリスラ・クマリホスエルベスニムノスニムオルラムダルトブア魔王陛下が忽然と姿を消したことにより、魔界の魔王城で起きている大山鳴動の騒ぎが収まるまでにはまだ少しかかる。