04
あっという間だったなと栗栖崎はおもう。
ずっと昔からこの家の子だったみたいに、加西文治は栗栖崎家に居ついてしまった。
夕食後、二階のパソコン部屋とよばれる兄弟共有のデスクトップパソコンで海外の学者とやりとりしたあと、一階の居間に戻ると、文治は居間のソファに母と座っていた。
テーブルには海外の雑誌や新聞紙が広げられている。
栗栖崎と文治が高校一年生のとき、長男周一は海外に渡っており、次男周太は大学生で家を出、家には両親と弟の周介、合わせて五人が住んでいた。しかしその他にも猫や犬や鳥などがつねに数匹家にいる状態だったので、いつだって大人数がいるような印象だった。
この夜、手の分厚い骨格の大きな長身の父、周次郎は不在だった。
空間デザイナーである父は、プロジェクトが立ち上がるたびに事務所や現場に泊まり込む。ましてやいまや子供たちがみなそれぞれ大きくなったので、長期に家を空けるときが多くなっていた。
ラブラドールと何かのミックスである――つねに動物たちは周太が命名する――犬のでんがくとソファに並んで座っていた文治は、ふと振り向き腕をあげた。
「へい、タクシー!」
栗栖崎が入り口で何だと目を見開いていると、家族で一番長身である周介が台所からあらわれて文治に近づき、膝をついて背をむけた。
「お客さんどこまで」
「ちょっとそこまで」
日本代表チームに選出される有望なバスケットボール選手を人間タクシーにした文治は、その背に負ぶわれて居間を出て行った。
文治がこの家にきて一番喜んだのは周介かもしれない。おふざけが好きなのに、三人いる兄たちはあまり構ってくれないからだ。長男は学業と俳優業でめったに家にいなかったし、次男は人間より動物や自然に関心があり、三男はやたらと難しいことに首をつっこんでいた。
その点、文治は冗談には冗談で返し、周介をこき使ったり使われたりして仲がいい。
「周平、八つ橋があるけど食べる?」
雑誌や新聞紙の綺麗な写真を切り取ってスクラップするのが趣味のひとつである唯は、鋏を置いて三男にたずねた。
「いや、まだお腹いっぱいなんだ」
「そんなこといってると、あっという間になくなりますからね」
なにせわが家には食欲魔人である中学生の周介がいた。
母の向かいに腰を下ろすと、唯の膝のうえにいたチンチラと何かのミックスの茶色の猫、こんにゃくはじっと栗栖崎をみつめたあと目を閉じた。何もしていないのに大きな音で喉を鳴らす。