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分身  作者: みやしろちうこ
番外編 その片割れの断片
46/56

01

似た名前の栗栖崎家について紹介簡易表です。


父、周次郎・・・空間デザイナー。

母、ゆい・・・・・活動休止中の声楽家。

長男、周一・・・海外で活動する俳優。

次男、周太・・・ナショナルトラスト、動物保護、活動家。

三男、周平★・・学者。のちに転向。

四男、周介・・・バスケットボール日本代表選手。のちにプロへ。


 窯のなかで炎が轟々と燃えている。

 土が器に変化する。

 自然と科学に手を加える人の知恵。

 火の手が伸びて、ずっとおとなしい明かりとなった。

 暗闇のなかを、光が飛ぶ。そうあれは蛍。

 光の帯が舞っている。

 栗栖崎は寝返りをうち、息を吐いた。

 友人とも家族ともおもった同性を意識しだして、眠れない夜がつづいていた。

 脳裏の闇のなか、だれかが蛍に手をのばし、指にとまった光をながめている。

 その横顔。

 淡い儚い明かりに繊細な顔が撫でられているようだ。

 細い首、まっすぐ人をみる目。

 旋風のように目のまえにあらわれるかとおもえば、ふっと消える。

 指先から蛍が飛んだ。

 見知った顔は闇に消えた。


***


 綺麗な長い黒髪をゆらし廊下を息せき切って走ってきたのは、同学年の北川敦子きたがわ あつこだ。

 目立つ美人であり、成績も優秀で性格も悪くなく、男子生徒たちのちょっとした憧れの的だった。そこを見込まれたのか、教師からの推薦があったのか、生徒会長に当選した能見純一のうみ じゅんいちは、かのじょを生徒会執行部の副会長に選んだ。

「クリス、ブンちゃんがバイクの後ろに乗っているのをみたって子がいたわ!」

 ふたりはいま、栗栖崎家の居候を探していた。


 名前は加西文治かさい ぶんじといって、栗栖崎周平くりすざき しゅうへいにとって小学生のころからの友達でもあり、家族でもあり、それ以上の存在でもあった。


 生徒会役員でもないのに、学校がある日はせっせと通っていた部屋に文治があらわれない。

 HRが終わったとき、職員室に呼び出されていた栗栖崎はいっしょに付いてきてくれるよう文治にいったが、かれの家の居候は拒否した。

「おれ、職員室はきらいだ」

 そうはっきりいわれてしまうと、どうしてもとはいいにくい。

「じゃあ、生徒会室で」

「うん」

 そういうと、教科書もノートも入っていない、空の弁当箱だけが入った鞄をもって、文治はくるりと背をむけて教室を出ていった。

 あっという間に、衣替えしたブレザーの海にまぎれてしまう。

 栗栖崎はちょっと息を吐くと、襟元に指を差し入れネクタイをゆるめた。

 ひとりになると、頭のなかで溜めていた発想が回転しだす。

 おそらくこの学校にいるもので、その速さに付いていけるものはいない。

 栗栖崎は幼少時から他とはできのちがう子だった。ふたりいる兄ともひとりいる弟とも違う。両親とも違う。

 飛びぬけて数学に強く、形而上についてはやくから理解を示した。それは異常ともいえるはやさだった。

 高校一年生となった栗栖崎は、十三才から大学の研究室に通っている。

 とっくに飛び級をして大学生をしていてもおかしくなかったが、ふつうに同じ年頃の子と交流させたいという両親の希望と、友達でもあり目が離せない同居人のことが気がかりだった本人の希望が合致して、こうして高校生活を送っていた。

 大学では特別の籍を設け、この早熟の天才に博士号を取得する機会を提供した。

 十六才の博士は、自分のためではなく同居人のために持ち帰っている教科書の入っている鞄を片手に、ゆっくりと教室をでた。

 一八〇センチを超えているかれは、生徒のあふれる廊下にでても視界は良好だ。

 教師が栗栖崎を賛嘆するためか、経歴をしらないはずの生徒たちもなんとなくかれを遠巻きにしている。

 実際は、話をするうちに相手のただものではない思考力に目敏いものが気づいていくのだ。


「クリスザキはちょっと違う」

「クリスザキはずいぶんと頭がいいらしい」

「クリスザキは桁違いに頭がいいらしい」


 ――だからどうせ、自分たちとは話が合わないだろう。


 両親がせっかく通わせてくれた高校であったが、打ち解けられる友達はなかなかできなかった。

 用事を済ませて二階の生徒会執行部室に入る。

 この秋に一新された役員の面々。栗栖崎もはからずもその役員のひとりだった。

 窓際にある三脚の双眼鏡。そこか長テーブルにいるはずの姿がなく、パイプ椅子に鞄を置きながら栗栖崎は首をまわした。

「文治は?」

「いっしょじゃないの?」

 文治についてはいつも反応がいい北川が書類から顔をあげる。

「ぼくは職員室に用事があって遠回りしてきたんだ。文治はさきにこっちに来ているはずなんだけど」

「探しにいく?」

 すでに席から立とうとしているかの女を手で制して、栗栖崎はいった。

「ちょっと寄り道しているんだろう。小川をみる日課を忘れるともおもえない」

 そこまで話していると、部屋に生徒会長があらわれた。



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