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分身  作者: みやしろちうこ
第1部
4/56

04

 グランドで練習する野球部を観賞するのに、なかなかいい位置にあるのは、二階にある生徒会室だ。

 そこにはそなえつけの双眼鏡や、望遠レンズ付カメラまであって、小川の表情をアップで見たいときなどには重宝する。


 なんどか放課後に、野球部の練習を栗栖崎といっしょになってグランドで見ていた。大路学園での野球部の位置は、他の運動部と大差ないようだったが、ギャラリーの数はじょじょにのびていた。

「小川くーん」

 と声をかけるものもいるが、たいていはとても行儀良くフェンスのそとから練習にはげむ小川を見ている。

 小川が素振りや、マラソンをおえて、たまにフェンスに視線をやり照れたようなはにかんだ笑みをうかべると、フェンスをとりかこんだ彼女たちにさざなみのような反応がおこる。そして多くはそれで満足しているようだった。

 なにせ小川貢はみんなのものだったから。




 第何代目かはしらないが生徒会選挙において、一年の後期にさっさと立候補して、その冷たい容貌からとても対抗馬に勝てそうもないといわれていた能見純一は、自身の応援演説において、小川貢を登場させた。

 体育館の舞台で、マイクをまえにしてブレザーすがたの小川はいった。


「彼、能見純一くんとは中学からのつきあいですが、彼ほど有能で、先をみとおした行動者を僕はしりません。

 中学においても生徒会会長をつとめた能見くんは、この大路学園においても経験をいかし、きっと学園に貢献してくれるでしょう。僕はそう信じてやみませんし、会長になった彼にたいして応援をおしまない気持でいます」



 とうぜんのごとく能見純一は勝利して、生徒会室の主となった。


 その主に呼ばれて、わたしと栗栖崎は生徒会室にいた。まだ選挙結果がでて三日しかたっていなかった。

 折畳式のテーブルのむこうに、能見と、副会長のおなじく一年生の北川敦子がすわっていた。

「じつはね加西くん、われわれは小川貢ファンクラブを発足させることにしたんだ」

「小川の?」

 栗栖崎のよこに居心地わるくすわっていたわたしは、小川の名前にすぐ反応した。栗栖崎がなにかいいたそうな顔をした。


「そう、僕が会長で、こちらの北川さんが副だ」

「――なぜわざわざ、会長と副会長が発足を? それに文治と僕を呼んだのは?」

 と栗栖崎。

 苦々しいような、先がわかっているような口調だった。

「小川はこれからこの学園第一の有名人になる。来年には学園内だけのものではなくなるだろう。中学のときもそうだったんだが、あいつを見に、他校の生徒が放課後やってくるのは日常茶飯事だったよ。

 小川に熱をあげる人間がおおくなるだろう。あこがれたり恋したりするのは仕方がないが、規制がなければおたがい不幸なことになる。だから、先手をうつんだ」

「ルールをしいて、抜け駆けなしにしよってことなのよ」

 北川敦子がわたしにむけて笑顔をつくった。肩まであるストレートの黒髪。ちょっとおとなっぽい顔立ちをしていた。


「学校のほうには話をもうとおしてある、クラブ会員の募集は来週にも発表するんだが、このクラブを運営する手伝いがほしい」

 能見のメガネごしの目がわたしを見た。

 色の白い、運動とは縁がなさそうな肌をしている。十六才であるのに、とっくに大人の目をしていて、冷たくて、静かな色だった。


「加西文治くん、やってみる気は?」

「――お、俺……?」


 わたしは視線を栗栖崎にむけた。わたしを見下ろしている栗栖崎はちょっと首を左右にふった。

(そうだよな……運営のお手伝いなんてな……)


「いまなら会員ナンバー三を進呈するよ。クラブの部室はここだ。ここならグランドで背伸びして野球部を見なくてすむし、奴はたまにここに遊びにくる」

「ぜひ、お手伝いしてちょうだい加西くん」

 能見の冷ややかな表情からはっせられるとはおもえない、魅力的な内容と、北川敦子の魅力あふれる笑顔。


「えー……すごいなぁ……いいなぁ……」

 それがわたしの素直な感想だった。

 ここから毎日、小川の練習がたっぷり見れる。しかも会員ナンバー三! もちろん、もちろんお手伝いという未知な部分もあるのだが。

 わたしはいきおいよくよこを見上げた。

 栗栖崎はこちらを見ており、苦笑をしている。


 わたしが放課後ここにいりびたるということは、必然として栗栖崎も来室することを意味した。

「ファンクラブはいるの? 文治」

「……はいりたい」

「そうか」

「はいるよ」

「わかったよ」



*****




 週があけて募集ポスターがはられると、さっそく入会希望者が続出した。わたしにはお手伝いとして、会員名簿の作成をもうしわたされたが、もちろんパソコンのあつかいなどしらない。

 

 放課後は、生徒会室のテーブルで名簿作成に手をつけながら、小川の練習風景をながめるのがわたしの日課となった。

 テーブルのよこには栗栖崎がすわっており、わたしの名簿作成を手伝いながら、さらに生徒会の案件について能見と北川敦子と、他の生徒会メンバーとよくはなしあっていた。

 いつのまにか栗栖崎は、空席だったというふたりめの副会長に就任していた。


「……まぁ、どうせ生徒会室にいるついでだとおもってね。会長の作戦勝ちだな……」


 副会長になったんだ、といっしょに下校しているときに問うたわたしに、茜色の雲をみながら栗栖崎はそういった。



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