第18話 魔王軍がパンツ返せって来たんですけど
ジリリリリリ。
「死ね」
「もしもし」
「死ね」
「ヘルプデスクですか」
「違う」
「あの、昨日の」
「お前か」
「俺です」
「パンツ野郎」
「呼ばないでください!?」
「で?」
「で、じゃないですよ!! 大変ですよ!!」
「ふーん」
「ふーんって!?」
「で、何」
「来ました」
「は?」
「来ました」
「誰が」
「魔王軍」
「ふーん」
「ふーんって!?」
「言ったろ俺」
「言いました」
「来るって」
「来ました」
「予言だな」
「予言です」
「で、何人来た」
「えっと」
「答えろ」
「三千」
「は?」
「三千人」
「お前」
「はい」
「多くないか」
「多いです」
「パンツ一枚に三千人」
「三千人」
「割に合わねえだろ」
「合わない」
「で、お前」
「はい」
「今どこ」
「小屋」
「小屋?」
「スローライフの小屋」
「お前」
「はい」
「逃げてないのか」
「逃げてないです」
「三千人いるんだろ」
「います」
「囲まれてんだろ」
「囲まれてます」
「何で逃げない」
「畑が」
「畑?」
「畑が」
「うん」
「育ってきたので」
「お前」
「はい」
「死ぬぞ」
「死ぬ!?」
「畑のために死ぬのか」
「死にたくない」
「逃げろ」
「畑が」
「畑諦めろ」
「諦めない」
「お前」
「はい」
「スローライフ未練あんな」
「あります」
「初日に終わったろ」
「終わってない」
「終わった」
「終わってない!!」
「ギネス取ったろ」
「取ってない!!」
「最短スローライフ終了」
「祝うな!!」
「パチパチ」
「拍手しないでください!?」
「で、魔王軍」
「魔王軍」
「何要求してきた」
「パンツ」
「だろうな」
「あと」
「何」
「角」
「あ?」
「マント」
「あ?」
「全部」
「お前」
「はい」
「言ったろ」
「言いました」
「パンツだけ返せって」
「言いました」
「角とマントは取っとけって」
「言いました」
「なのに」
「全部要求されてる」
「ふーん」
「ふーんって!?」
「お前」
「はい」
「分かるか」
「分かりません」
「これな」
「これ?」
「魔王軍も気持ち悪がってる」
「えっ」
「ボスのパンツ単体で返されたら気持ち悪い」
「あっ」
「だから全部返せって言ってる」
「あっ」
「お前のせいだ」
「俺のせい!?」
「パンツ剥ぎ取った男のせいだ」
「俺のせい!?」
「気づくの遅えな」
「遅いです」
「で、どうすんだ」
「どうしましょう」
「俺に聞くな」
「ヘルプデスクなのに!?」
「だから違うって」
「俺んち」
「俺んちな」
「お前」
「はい」
「全部返せ」
「全部!?」
「角もマントもパンツも」
「角もマント!?」
「戦利品なのに!?」
「戦利品はパンツだろ」
「いや、角とマントも」
「パンツのおまけだ」
「おまけ!?」
「メインがパンツ」
「メインがパンツ!?」
「お前のコレクションは」
「コレクション!?」
「魔王パンツコレクション」
「コレクションじゃないですよ!?」
「他にもあるんだろ」
「ない!!」
「ない?」
「ないです」
「魔王のパンツ一枚しか持ってないのか」
「一枚しか!?」
「複数前提!?」
「複数前提だ」
「魔王一人しかいないですよ!?」
「あっ」
「あっ、じゃねえよ」
「忘れてた」
「忘れんな」
「で、一枚しか持ってないのか」
「一枚しか持ってない!!」
「貧しいな」
「貧しい!?」
「コレクションって言うなら最低三枚だ」
「魔王増えない!!」
「お前」
「はい」
「魔王育てろ」
「は?」
「畑で魔王育てろ」
「育たない!!」
「スローライフだろ」
「スローライフだけど!?」
「畑で魔王栽培」
「栽培しないですよ!?」
「種は」
「ない!!」
「ボスの遺体から」
「掘り起こさない!!」
「掘り起こせ」
「掘り起こさない!!」
「で、お前」
「はい」
「畑諦めて全部返せ」
「全部」
「土下座しろ」
「土下座」
「『大変申し訳ありませんでした』」
「『大変申し訳ありませんでした』」
「『ボスのパンツを剥ぎました』」
「『ボスのパンツを剥ぎました』」
「『角もマントも』」
「『角もマントも』」
「『ついでに持ち帰りました』」
「『ついでに持ち帰りました』」
「『どうぞお収めください』」
「『どうぞお収めください』」
「これで許される」
「許される!?」
「許されない」
「許されない!?」
「殺される」
「殺される!?」
「土下座しても殺される」
「殺される!?」
「お前」
「はい」
「諦めろ」
「諦めろ!?」
「で、戦え」
「戦う!?」
「三千人と」
「三千人と!?」
「魔王倒したろ」
「倒した」
「三年かけて」
「三年」
「三年あれば三千人倒せる」
「三千人!?」
「一日三人ペース」
「ペース!?」
「楽勝だ」
「楽勝じゃない!!」
「お前」
「はい」
「一日三人なら殺れる」
「殺れる!?」
「魔王より弱いだろ部下は」
「弱い」
「だろ」
「だろ」
「三年で全滅させろ」
「三年!?」
「スローライフ三年延期だ」
「三年延期!?」
「お前」
「はい」
「タイトル更新だ」
「更新!?」
「『元魔王討伐者の俺が辺境でスローライフを始めようとしたら、魔王軍三千人に囲まれたので一日三人ペースで三年かけて殲滅し、その後ようやくスローライフを始める予定の男の物語』」
「長い!?」
「予定の男」
「予定!?」
「お前まだスローライフ始まってない」
「始まってない」
「予定の男だ」
「予定の男!?」
「永遠に予定」
「永遠!?」
「お前のスローライフは予定で終わる」
「予定で終わる!?」
「あ」
「何」
「あと」
「あと?」
「お前死ぬ可能性ある」
「ある!?」
「三千人だぞ」
「三千人」
「一日三人なら大丈夫だが」
「だが?」
「初日に三千人来てる」
「来てる」
「ペース崩壊だ」
「崩壊!?」
「お前死ぬ」
「死ぬ!?」
「初日に死ぬ」
「初日!?」
「ギネスだ」
「ギネス!?」
「最短スローライフ後死亡」
「祝うな!!」
「パチパチ」
「拍手しないでください!?」
「お前」
「はい」
「あれだ」
「何ですか」
「電話の向こう静かだな」
「あっ」
「あっ、じゃねえよ」
「静かです」
「三千人どこ行った」
「えっと」
「答えろ」
「畑見てます」
「は?」
「畑、見てます」
「お前」
「はい」
「何で」
「分かりません」
「分かれよ」
「分からないんですよ」
「三千人で畑見学か」
「見学です」
「観光地か」
「観光地!?」
「魔王軍が観光してる」
「観光!?」
「敵地で観光してる」
「観光!?」
「お前」
「はい」
「畑に何ある」
「えっと」
「答えろ」
「キャベツ」
「うん」
「ニンジン」
「うん」
「あと」
「うん」
「魔王のパンツ干してます」
「お前!!」
「干してます」
「干すな!!」
「天日干し」
「天日干しすんな!!」
「だから三千人見てる」
「見てるんじゃねえよ!!」
「魔王軍が」
「うん」
「ボスのパンツが」
「うん」
「敵地の畑で」
「うん」
「天日干しされてるのを」
「うん」
「無言で見てる」
「無言で見てる」
「お前」
「はい」
「異世界最大の地獄絵図だ」
「地獄絵図!?」
「魔王軍三千人」
「三千人」
「無言」
「無言」
「目の前にボスのパンツ」
「ボスのパンツ」
「風になびく」
「なびく」
「お前」
「はい」
「畳め」
「畳め!?」
「今すぐ畳め」
「畳みます」
「干すな」
「干さない」
「絶対干すな」
「絶対」
「これ拷問だ」
「拷問!?」
「魔王軍にとって拷問だ」
「拷問!?」
「お前」
「はい」
「強いな」
「強い!?」
「精神攻撃で三千人黙らせた」
「黙らせた!?」
「物理じゃない」
「物理じゃない」
「パンツで」
「パンツで」
「お前」
「はい」
「天才かもしれん」
「天才!?」
「パンツ天才」
「異名増えた!?」
「『パンツ天才』」
「異名七つ!?」
「で、続き」
「続き?」
「三千人どうしてる」
「えっと」
「答えろ」
「一人」
「うん」
「泣いてます」
「は?」
「泣いてます」
「お前」
「はい」
「やりすぎだ」
「やりすぎ!?」
「魔王軍泣かせるな」
「泣かせた」
「ボスのパンツ天日干しで泣かせるな」
「泣かせた!?」
「鬼か」
「鬼!?」
「お前は鬼だ」
「鬼!?」
「異名追加だ」
「もういらない!!」
「『パンツ鬼』」
「ダサい!?」
「『魔王軍を泣かせた男』」
「もっと酷い!?」
「異名九つ」
「九つ!?」
「八つじゃないですか!?」
「数えてんな」
「数えてた!?」
「お前」
「はい」
「もう諦めろ」
「諦めろ!?」
「異名コンプリート目指せ」
「目指さない!!」
「で、畳んだか」
「畳みました」
「魔王軍は」
「えっと」
「答えろ」
「帰っていきます」
「は?」
「帰ってます」
「全員?」
「全員」
「無言で?」
「無言で」
「お前」
「はい」
「勝ったな」
「勝った!?」
「無傷で三千人撃退」
「撃退!?」
「物理ゼロ」
「ゼロ」
「パンツのみ」
「パンツのみ」
「歴史に残る勝利だ」
「残らないでください!?」
「『パンツの戦い』」
「やめて!?」
「教科書に載る」
「載らないで!?」
「『紀元前後、辺境にて、パンツを天日干しした男が魔王軍三千を退けた』」
「歴史改竄!?」
「改竄じゃない」
「事実です」
「事実かもしれないですけど!?」
「お前」
「はい」
「スローライフ再開しろ」
「再開!?」
「魔王軍帰ったろ」
「帰った」
「畑に戻れ」
「戻る」
「キャベツ収穫しろ」
「収穫」
「あと」
「何」
「パンツ干すな」
「干さない」
「絶対干すな」
「絶対」
「次干したら世界滅ぶ」
「滅ぶ!?」
「魔王軍が本気出す」
「本気!?」
「次は十万人来る」
「十万人!?」
「対パンツ部隊」
「対パンツ部隊!?」
「お前殺すために編成される」
「殺される!?」
「だから干すな」
「干さない」
「タンスにしまえ」
「しまう」
「絶対出すな」
「絶対」
「これ約束な」
「約束」
「破ったら十万人」
「十万人」
「分かったか」
「分かりました」
「切るぞ」
「あの」
「何」
「ありがとうございました」
「礼はいい」
「もう一個だけ」
「何」
「畑のキャベツが」
「うん」
「魔王軍に踏まれてました」
「お前!!」
「踏まれてました」
「三千人観光しに来たんだろうが」
「観光」
「踏むだろ畑」
「踏むか」
「気づくの遅えな」
「遅いです」
「キャベツ全滅か」
「全滅です」
「スローライフ終わったな」
「終わった!?」
「キャベツないスローライフはスローライフじゃない」
「じゃない!?」
「お前」
「はい」
「もう一回最初から畑作れ」
「もう一回!?」
「種から」
「種から!?」
「で、また三千人来る」
「また来る!?」
「無限ループだ」
「無限ループ!?」
「お前」
「はい」
「人生終わったな」
「終わった!?」
「パンツ剥いだ日に終わった」
「終わった!?」
「切るぞ」
「待っ」
ガチャ。
受話器を置いた。
パンツで魔王軍三千人を撃退した男。
畑は全滅。
俺の知ったことじゃない。
あいつまた干すんだろうな。
俺の知ったことじゃない。
十万人来ても俺の知ったことじゃない。
ジリリリリリ。
出ない。
ジリリリリリ。
出ない。
ジリリリリリ。
「死ね」
出た。
「また見られました」
胸の女だった。
「今度は誰」
「対パンツ部隊の隊長です」
「お前」
「はい」
「世界繋がってんな」
「繋がってます」
「殴れ」
「殴ります」
ガチャ。
短い電話だった。




