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意識

 

 意識

 

昭仁は、診察室の前にあるベンチに座っていた。

 

あの場に居合わせたタクシーのドライバーが案内してくれた病院は小さな個人病院で、恰幅かっぷくの良い中年の医師と、その妻なのか、同じ名前のネームプレートを胸に付けた看護師は凄くフレンドリーだった。

 

ただ、夜勤なのか、一人だけ居た若い看護師はムスッとしていて態度が悪かった。

 

病院へ来た時、3歳くらいの女の子を抱いた若い母親が帰って行き、今は、昭仁達以外、誰も居ない。

 

普通の人なら、閑散かんさんとした雰囲気に、医師への不安を覚えるのだろうが、昭仁にとっては、誰にも邪魔をされない、居心地の良い病院だった。

診察室のドアが開き、診察を終えた女性が出て来た。

 

右足首には包帯が巻かれて、両膝には大きな絆創膏ばんそうこうが貼られた、痛々しい姿だ。

 

診察室内を振り返って会釈をして、昭仁に対して背を向けてドアを閉めた時、鈍い音と、女性の小さな悲鳴が聞こえてきた。

 

見ていなくても、ドアに指を挟んだのだと直ぐに判った。

 

彼女は、ほんの短い時間の間で、幾つものドジを昭仁に見せていた。

 

「大丈夫?」

 

側まで行き、笑顔で女性を見る。

 

振り返った女性は苦笑を向けて、右手の人差し指を握りながら「大丈夫」と答えたが、説得力は無い。

 

片足を引きずって歩く女性に手を貸そうと、右手を差し出す。

素直に昭仁の手を借りようと右手を伸ばしたが、昭仁の手を掴み損ねてバランスを崩した。

 

反射神経の良い昭仁が直ぐに反応して、倒れ掛かった女性を抱き支えた。

 

相手が昭仁でなければ、確実に転んでいただろう。

 

「有り難う」

 

体勢を立て直し、今度はシッカリと昭仁の手を掴んでから体を預けた。

 

ゆっくり歩いて、数メートル離れたベンチまで行く。

 

ベンチに腰を下ろした時、またバランスを崩してよろけた。が、今度は昭仁がしっかりと支えていたので、転ぶことはなかった。

 

ただ、昭仁の不安をあおるには十分な材料だった。

 

女性のドジ振りを見ていると、一人にするのが不安になる。

 

女性をベンチに座らせた時、診察室から看護師が出て来た。

 

「あら、優しいご主人だこと」

 

笑顔で言う看護師は、二人を夫婦だと思ったらしい。

 

「僕達、夫婦じゃ━━」

 

昭仁が慌てて否定しようとしたが、看護師は聞く耳を持っていなかった。

 

二人が夫婦だろうと夫婦でなかろうと、彼女にとっては関係ない。

 

「奥様にも言いましたけど、一週間は安静にしていて下さいね。何より、ご主人のサポートが必要ですよ」

 

自分達をすっかり夫婦だと思い込んでいる看護師に否定の言葉は言えず、苦笑しか向けられない。

 

「痛み止めと湿布です」

看護師から受け取った薬をバッグの中に仕舞う為にバッグを取った時、掴み損ねてバッグを落としそうになった。

 

慌ててバックを持ち直してバッグは落とさなかった。が、逆の手に持っていた薬を落としてしまった。

 

深い溜め息をついて、落とした薬を拾おうと手を伸ばした時、ベンチの上に置いたバッグに手を引っ掛けて床に落として中身を床にぶちまけた。

 

女性は、さっきより深い、苛立ちを含んだ溜め息をついた。

 

「またやっちゃった…」

 

“また━”と聞いて、よくやる失敗なのだと知った。

 

これ以上ドジをしないように昭仁がバッグとその中身を拾おうとしたが、床に散らばっているモノが女性のモノだと、気を効かせた看護師が手際よく全てを拾い集めて昭仁に渡す。

 

「こういう物は、ご主人が持つべきですよ。そうそう、随分濡れたみたいだから、早く着替えて、暖かくしてくださいね」

 

満面の笑みを浮かべて母親の様に言うと、二人に会釈をして歩き去った。

 

二人きりになって、不意に気まずくなった。

 

確かに夫婦に見えなくもないが、否定の言葉も言えず、最後まで二人を夫婦だと思ったまま、あの看護師は行ってしまった。

 

変にお互いを意識してしまう。

 

「行こうか」

 

「はい」

 

このやり取りも夫婦の様だと思い、お互いに苦笑を向ける。

 

昭仁が手を貸すよりも先に、壁の手摺てすりを頼りに立ち上がる。が、手を滑らせたのか、体勢を崩してよろけた。

 

昭仁は予想していたのか、女性の隣に立っていて、よろけた瞬間、直ぐに手を伸ばして女性を支えた。

 

「ごめんなさい。ドジばっかりね」

 

女性の言葉に対して笑顔で応えるが、今までのドジ振りを見ていて、一人で帰すのは不安だと思った。

 

悩みもしないで、自宅まで送って行こうと決めた。

 

「家まで送るよ」

 

「でも━」

 

「一人で帰すなんて、とてもじゃないけど心配で出来ないよ」

 

昭仁の言葉を聞いて、彼女も納得した様だ。

 

赤面しながら、小さな子供の様に、無言でコクりと頷いた。 

 ×××

 

タクシーに乗り込んで直ぐ、女性はバッグの中から名刺を取り出して昭仁に差し出した。

 

「こんなにお世話になってるのに、自己紹介もまだよね」

 

女性の言葉を聞きながら、受け取った名刺に目を走らせる。

 

彼女の名前は、大橋ルリ。

 

職業は経営コンサルタント。

 

ルリの話だと、勤めている会社は小さな会社で、顧客のほとんどが中小企業らしい。が、中には著名人や有名人が居ると聞いて、“小さな会社”と言うのは、ただの謙遜けんそんだと思った。

 

昭仁がルリのことをキャリアウーマン風だと思ったのは、間違いではなかった。

 

一通りルリの仕事の話をしてから、昭仁が自己紹介を始める。

 

「僕は岡野昭仁。職業は━」

 

ルリの耳に、昭仁の声は届いていなかった。

 

酷い目眩めまいに襲われていた。

 

昭仁の声が少しずつかすれて、遠くなっていく。

 

彼の名前は、岡野昭仁。

 

職業は━。

 

ルリの意識は、スイッチを切った様に、そこで途切れた。

 

「━よろしく」

 

ルリを見ると同時に、ルリの頭が肩に乗った。

 

一瞬ときめいたが、直ぐに様子が変だと思った。

 

息が荒く、名前を呼んでも反応は無い。

 

顔を覗き込んだ時、ルリの額が昭仁の頬に触れた。

 

わずかに触れただけなのに、異常に熱いと判った。

 

そういえば、タクシーに乗った頃から妙に大人しくなり、会話と言うより、昭仁の言葉に相槌あいづちを打っているだけだった。

 

病院でのドジも、もしかしたら熱のせいだったのかもしれない。

 

改めてルリの額に触れてみる━酷く熱かった。

 

雨のせいだ。

 

土砂降りの雨の中、カサも差さずに秋の冷たい雨に打たれたせいで熱を出したのだ。

 

異変に気付かないドライバーが、詳しい住所を聞いてきた。

 

タクシーに乗った時、ルリは区名しか伝えていない。

 

「ルリさん?」

 

試しに名前を呼んでみる。が、意識は無い様で、返答は無い。

 

さっきの病院へ戻ることも考えたが、ここからなら自宅へ行った方が近い。

 

ルリが途中で目覚めることを願いつつ、自宅の住所を伝えた。

 

偶然にも、ルリと昭仁は同じ区内に住んでいた。

 


 ×××

 

タクシーが昭仁のマンションの前に停まった。

 

マンションに着いても、ルリは目覚めなかった。

 

ルリを抱き抱えて車から降りて、ルリの軽さに驚いた。

 

小柄でスレンダーだと判ってはいたが、予想よりずっと軽かった。

 

力がある━とは決して言えない昭仁が抱き抱えて歩いても、全然苦にならない。

 

子供を抱いているようだ━と思ったが、流石さすがにそれは言い過ぎだ━と、一人苦笑を浮かべる。

 

部屋に入ると真っ直ぐ寝室へ向かい、ソッとベッドに寝かせる。

 

出会って数時間が経つと言うのに、ルリの服はまだ濡れていた。

 

ジャケットを脱がせて━昭仁の動きが止まった。

 

濡れた服は、全部脱がせた方が良いだろう。

 

自分のベッドが汚れるから━ではない。

 

汚れたベッドは、後でなんとでも出来る。

 

服を着たままでは寝苦しい。それが濡れていれば尚更だ。

 

白いキャミソールに手を掛けて━躊躇ためらう。

 

脱がし方が判らない訳ではない。

 

24歳にもなれば、、それなりの経験はしている。

 

だが、意識の無い、びしょ濡れの女性と二人きりで居るこの状況は初めての経験だ。

 

緊急事態だとは言え、意識の無い女性の服を脱がせるのは気が引ける。

 

暫く悩んだが、寒さと熱で震えているルリを見て、緊急事態だから━と割り切った。

 

下着姿になったルリの体に素早く毛布を掛けて、体を隠す。

 

ルリが目覚めなかったと安堵の溜め息を一つついてから、毛布の中に手だけを入れて、手探りでスカートを脱がせる。

 

素足だったのは幸いだ。

 

ソッと、今度はルリを起こさない様にソッと、額に触れてみる。

 

確実に、さっきより熱が上がっている。

 

毛布の中で丸くなって震えているルリを見て、熱はまだ上がると確信した。

 

先に自分の濡れた服を着替えてから、解熱シートを持って寝室へ戻ってきた。

 

枕元にやって来た昭仁は、ルリの瞳から溢れる涙に気付いた。

 

外見は強く、冷たい女性に見えるが、本当のルリは見た目とは真逆で、女性が持つ弱さと可愛らしさを持った、女性らしい女性だ。

 

昭仁は、ルリの大きなギャップに強く惹かれた。

 

 ×××

 

目覚めたルリは、酷い頭痛に頭を抱えた。

 

ベッドに横になっているのに、目眩がした。

 

暫くボーッとtしてから、額の解熱シートに気付く。

 

目覚めて直ぐに気付きそうだが、元々低血圧の上、体調の悪いルリの頭は、直ぐに活動せず、気付くのに少し時間が掛かった。

 

解熱シートの存在に気付いて、何故自分の額にこんな物があるのかとボンヤリ考えるが、まだ眠っているルリの頭では、答えを見付けられなかった。

 

ダルさと様々な感情が入り混じった溜め息をついてから、部屋に漂う香りが、自分の知っているモノとは違うことに気付いた。

 

自分の香水とは明らかに違う、男物の香水の香りだ。

 

何故男物の香水の香りがするのかと考えながら、横になったまま、眼鏡を探す。

 

眼鏡はケースに入れず、剥き出しのまま枕元に置いてあった。

 

いつもなら必ずケースに入れて、ベッド脇のテーブルに置くのに━と思い、ケースを探してテーブルを見る。

 

ベッドの脇には、ある筈のテーブルが無かった。

 

不思議に思いながら、昨夜の出来事を思い出してみる。

 

最初に恋人との別れを思い出して、胸が痛んだ。

 

転んで足を痛めて動けなくなっていた所を親切な男性に助けてもらった。

 

病院まで一緒に来てくれて、帰りも送ってくれると言ってくれて、一緒にタクシーに乗り込んで━それからの記憶が一切無い。

 

名刺を出して、自己紹介をした。

 

彼の名前も聞いた。

 

彼の名前は、岡野昭仁。

 

彼の職業は━聞いた気はするが、思い出せない。

 

酷い目眩がしたのは覚えている。

 

上半身を起こした時、鈍器で殴られた様な酷い頭痛に襲われて、思わず頭を抱えてうずくまる。

 

痛みが消えてから、眼鏡を掛けて部屋の中を見回す。

 

やっと、自分の部屋ではないと気付いた。

 

間取り、窓の位置、カーテンの色、家具とその配置━全てが違う。

 

ルリの部屋の家具は白を基調にしているのに、この部屋は、真逆の黒を基調にしている。

 

部屋を見回したルリの目に、ギターと大きなステレオが飛び込んできた。

 

ここは男性の部屋だ。

 

化粧品やアクセサリーの代わりにギターやステレオがあるのを見て、そう思った。

 

ルリの部屋にもステレオはあるが、こんなに大きく、凝った物ではない。

 

誰の部屋なのかと考えて、直ぐに昭仁のことを思い出した。

 

慌ててベッドから起き上がり、自分が下着姿だと気付いた。

 

さっきよりずっと酷く慌てて部屋を見回して、誰も居ないと知って安堵する。

 

服を脱がせたのは、確実に昭仁だろう。昭仁しか居ない。

 

濡れた服を脱がせてくれたことに対しては感謝した。が、初対面の男に、決して見られたくない恥ずかしい姿を見られたのだと知って、一人赤面する。

 

もう一度、今度はゆっくりと部屋の中を見回して、着ていた筈の服を探す。

 

服は、ハンガーに掛けられて、壁に吊されていた。

 

急いで、だが、音を立てないように細心の注意を払って着替えた。

 

ベッドを整えてから、そっと寝室のドアを開ける。

 

寝室の向こうはリビングだった。

 

リビングを見回したが、人の姿は見当たらない。その代わり、寝室では見付けられなかった時計を見付けた。

 

時計の針は、5時を指している。

 

開けっ放しのカーテンの向こうの空は、すっかり明るくなっている。

 

雨は降っていないようだ━などと呑気に考えていたルリの耳に、寝息が聞こえてきた。

 

耳を澄ませてみると、目の前に背中を向けて置かれているソファーから聞こえてくると判った。

 

そっと、恐る恐る覗き込む。

 

ソファーの上には、毛布も掛けずに、猫の横に丸くなって眠る昭仁が居た。

 

寒いのだと思ったルリは寝室から毛布を持って戻り、持ってきた毛布を昭仁の体にそっと、起こさないようにソッと掛ける。

 

昭仁はやっぱり寒かったのか、眠ったまま、無意識に毛布を肩まで引き上げた。

 

起きたのかと思って身構えるが、安らかな寝息を聞いて、起きなかったと安堵する。

 

今、昭仁が目覚めても恥ずかしくて、どんな顔をすれば良いのか判らない。

 

ルリは10代の少女ではない。

 

28年間生きていれば、色々な経験をしてきた。が、初対面の男性の前で意識を失い、初対面の男性の部屋に泊まり、初対面の男性に下着姿を見られる経験は、まだしていなかった。

 

安堵の溜め息をついてから、昭仁を見る。

 

子供のように眠る昭仁を見て、可愛いと思った。

 

男性を見て、可愛いと思ったのは初めてだった。

 

昭仁の額に掛かる前髪を、ソッと指先で退ける。

 

もっと触れたいと思ったが、起こすかもしれないと、我慢した。

 

自分から男性に触れたいと思ったのは久し振りだった。

 

何時も触れてほしいと思うだけだった。

 

「有り難う。迷惑掛けて、ごめんなさい。必ずお礼に来るわ」

 

昭仁を起こさないように囁くルリの心の中には、別れたばかりの恋人の存在は無かった。

 

 ×××

 

目覚めた昭仁は、天井を見つめてボーッとした。

 

頭がボーッとするまで眠ったのは久し振りだった。

 

やや暫くボーッとしてから時計を見る。

 

時計の針は、もうすぐ9時になろうとしている。

 

何時間眠っていたのだろう? と考えて、不意にルリのことを思い出して飛び起きた。

 

夕べは寝ずにルリの看病をするつもりだったが、最近、仕事で寝不足が続いたせいで、いつの間にか眠ってしまったようだ。

 

上半身を起こして、毛布の存在に気付いた。

 

ルリが用意してくれたのだと気付き、慌てて部屋を見回す。

 

リビングには、昭仁以外誰も居ない。

 

ソファーから立ち上がって、寝室へ行ってみる。 

ベッドは綺麗に整えられて、誰かが居た形跡も無い。

 

リビングへ戻り、テーブルの上に置かれたメモに気付いた。

 

メモには、くせの少ない、女性的な字で謝罪と感謝の言葉が書かれていた。

 

しっかりした字で、意識が朦朧もうろうとした状態で書いたのではなさそうだ。が、それでも、ルリが心配でたまらなかった。

 

熱は下がったのだろうか?

 

帰る途中で熱が上がり、何処かで倒れているかもしれない。

 

足の痛みは取れたのか?

 

途中で座り込んで、痛みで動けなくなっているかもしれない。

 

ここから自宅まで、無事に戻れたのだろうか?

 

ここが何処か判らずに、迷子になっているかもしれない。

 

そんな悲観的なことばかり考えてしまう。

 

もしかしたら、まだ近くに居るかもしれない━と思って、窓に歩み寄る。

 

10階の窓から見える範囲に、ルリの姿は見付けられなかった。


不安に支配されたが、メモに書かれていた“お礼に伺います”と言う言葉を信じて、待つしかなかった。

 

 ×××

 

無事に自分の部屋へ戻ったルリは、直ぐに服を脱ぎ捨てると、下着姿のままベッドに倒れ込んだ。

 

昭仁のマンションは、ルリのマンションから駅までの間にあり、昭仁のマンションを出て直ぐ、自分が何処に居るのか判った。

 

自宅まではそう遠くないのだが、熱を出し、足を捻挫しているルリにとっては、遠い道程みちのりだった。

 

無理をして歩いたせいで熱は上がり、足の痛みと腫れは酷くなっていた。

 

週末は台なしだわ━そんなことを考えているうちに、また眠ってしまった。

 

次に目覚めたのは、日曜になったばかりの時間━深夜の12時を少し過ぎた時間だった。

 

何時間眠っていたのか、朝なのか夜なのか、全く判らない。

 

ボーッとしながらも、ベッドの下に捨て置かれたバッグの中から携帯電話を取り出す。

 

待受画面から仕入れた情報は、日付けと時間、3件の着信と5件のメールだった。

 

メールや着信の確認もしないで、携帯電話をベッドの上に放り投げる。

 

熱を計ってみると、37度を少し超えた辺りだった。

 

今は、熱よりも鼻水と咳、喉の痛みが酷い。

 

「苦しい…」

 

そう言った自分の声は嗄れて、男の様だった。

 

彼が聞いたらきっと笑うわ━と思い浮かべた顔は、1年半の付き合いの後、婚約までしたのに破局を迎えた恋人ではなく、昨日会ったばかりの昭仁の顔だった。

 

顔を覚えるのが苦手なルリの脳裏に、昭仁の困ったような笑顔がハッキリと浮かんだ。

 

一度しか会っていない人物の顔を覚えているのは、奇跡に近い。

 

何故、こんなにハッキリ昭仁の顔を覚えているのか、ルリにも判らなかった。

 


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