背骨(バックボーン)を叩き直してやる
「……いい加減、離れてくれないかな。二人とも」
放課後の教室。僕の左右には、二人の美少女が陣取っていた。 左には、僕のこめかみに冷却シートを「強め」に貼り付けようとする神代エル。 右には、僕の首のコリを解きほぐすという名目で、あからさまにチョップの構えを見せる首藤凛。
「ダメよ。鉄男の肘をアイシングできるのは、エルボー特待生の義務なんだから」 「敗北者の掟は絶対よ。私はこの男の首をケアする権利を得たわ」
「……あの、それケアじゃなくて処刑の準備に見えるんだけど」
一触即発の空気。それを切り裂いたのは、校内放送ではなく、廊下から響く「ミシミシ……」という不穏な軋み音だった。
「――どけ。私の背後に立つな」
教室の引き戸が、枠ごと外側にひしゃげた。 現れたのは、制服の背中側が筋肉で異常に盛り上がった、岩のような巨漢。 骸骨掌学園・五体満足が一人、『バックボーン(背骨)特待生』脊山剛だ。
「脊山……! なんであんたがここに来るのよ!」 エルが警戒して肘を構えるが、脊山はそれを無視して僕の目の前に立った。
「肘鉄男。貴様、首藤を負かしたらしいな。だが、『首』は所詮、『背骨』の末端に過ぎん。学園の真の支柱は、この俺の脊椎だ」
脊山がゆっくりと背中を反らせる。その瞬間、彼の周囲に目に見えるほどの重圧が渦巻いた。
「私の背骨は、象の突進すら受け止める。……貴様の肘が、この『大黒柱』に通じるか試してやろう」
「いや、僕は試したくないんだけど……」
「問答無用! 『脊髄震動』!!」
脊山が僕に背を向け、そのままバックで突進してきた。 ただの体当たりではない。背骨の一節一節を高速で振動させ、接触した瞬間に相手の内部組織を粉砕する、攻防一体の超重量攻撃だ。
「逃げて鉄男! それを喰らったら全身の骨がバラバラにされるわ!」
凛の叫び。だが、教室の机が密集するこの場所で、僕に逃げ場はなかった。 (……背中か。なら、そこを支える『要』は一つだ)
僕は右肘を鋭く突き出した。 狙うのは、彼の広大な背中の中心――腰椎の第4関節。 巨大な橋を支えるたった一つのボルトを外すように、僕は自分の肘を「楔」として打ち込んだ。
――ドォォォォォォンッ!!
教室中の窓ガラスが振動でビリビリと鳴る。 背中から突っ込んできた脊山の巨体が、僕の肘に触れた瞬間、ピタリと静止した。
「なっ……!? 俺の……俺の『震動』が、肘一点で……相殺された……!?」
「脊山先輩。……背骨は大事ですけど、腰を反らしすぎると『ギックリ』いきますよ」
僕が肘をグイッと押し込むと、脊山の顔から血の気が引いた。 「……っ、ぐ、あああああぁぁぁっ!? ぬ、抜ける! 魂が腰から抜けるぅぅぅ!!」
学園屈指のタフネスを誇る背骨特待生は、そのまま生まれたての小鹿のように膝をつき、情けない声を上げて崩れ落ちた。
「……また勝っちゃったわね。しかも今度は『背中』を突くなんて……鉄男、あんたって人はどこまでテクニシャンなのよ!」 「変な言い方しないで、神代さん。……あ、脊山先輩。敗北者の掟でしたっけ? 湿布、貼りましょうか?」
「……あ、ああ……。……優しく、頼む……」
最強の背骨を持つ男が、僕の前で丸くなった。 僕の平穏な日々は、また一歩、遠い銀河の彼方へと消えていった。
【第4話 Tips】
■ 新登場キャラクター
脊山 剛
部位: バックボーン(背骨)特待生
特徴: 五体満足の一角。自称「学園の大黒柱」。背後を取られることを極端に嫌うが、鉄男に腰椎を突かれ陥落。実はかなりの腰痛持ち。
■ 用語・必殺技
脊髄震動: 脊山の必殺技。背骨の振動を相手に伝え、内部から破壊する体当たり。
腰椎穿孔: 鉄男が無意識に放ったカウンター。背骨の全振動が集中する一点に肘を置くことで、威力を無効化し、激痛を走らせる。




