膝(ニー)を突き合わせて相談しよう
「……で、なんでお前がここにいるんだよ、膝丸」
放課後の旧校舎、屋上。 僕、肘鉄男は、地べたに座り込んで深いため息をついた。 目の前では、学園指定の膝サポーターを金色に輝かせた男――膝丸蹴人が、見事なフォームで空気椅子を決めている。
「水臭いぞ鉄男! 親友のピンチとあっちゃ、この『ニー特待生』の膝丸が黙っちゃいない。……まあ、お前が風紀委員長を肘一本で黙らせたって聞いて、ビビって飛んできたんだけどな」
膝丸は僕の数少ない友人であり、この『私立 骸骨掌学園』において、肘と並ぶ屈指の関節武器「膝」のスペシャリストだ。
「ピンチなのは僕の精神状態だよ。神代さんにはこめかみを狙われるし、首藤先輩からは『明日から首のケアをさせろ』って脅されてるし……」
「贅沢な悩みだな。だが鉄男、事態はもっと深刻だ。お前が『五体満足』の首藤を退けたことで、他のメンバーが動き出した。次は間違いなく、あの男が来るぞ」
膝丸の表情が真剣なものに変わる。 「……『右脚特待生』、阿修羅だ」
「阿修羅……?」 「ああ。奴の脚は、コンクリートの支柱をバターみたいに切り裂く。……って、噂をすれば影だ」
屋上の扉が、凄まじい蹴撃によって「紙」のようにへし折られた。
「見つけたぞ。……『肘』の分際で、調子に乗っているという不届き者は貴様か」
現れたのは、異様に長い脚を誇示するように短パンを履きこなした男だった。 彼は一歩踏み出すごとに、屋上の床を陥没させていく。
「待てよ阿修羅! こいつは俺の連れだ。やるなら俺の膝を通してから――」
膝丸が割って入ろうとした瞬間、阿修羅の右脚が「しなった」。 目にも止まらぬ速さのローキック。
「『破砕脚』!」
「ぐっ……!?」 膝丸が咄嗟に膝を立ててガードするが、その衝撃だけで数メートル後退させられる。膝特待生の膝丸が、ガードしただけで膝を震わせている……。
「……膝丸、もういいよ」 僕は立ち上がり、膝丸の前に出た。
「ほう、腰を上げたか。その貧弱な肘で、私の脚を止めるつもりか?」 「止めるっていうか……。放課後の屋上で大きな音を立てると、用務員さんに怒られるからやめてほしいだけなんだけど」
僕は右の肘を、無造作に胸の高さに掲げた。 阿修羅が鼻で笑い、必殺の上段回し蹴りを放つ。
「死ねッ! 肘ごと粉々に砕いてやる!」
空気を切り裂く轟音。 だが、僕が狙ったのは、彼の「足の甲」でも「脛」でもなかった。 蹴りが放たれる瞬間、最も大きな負荷がかかる彼の**「膝関節の裏」**――その一点を、突き出した肘の先端で「突いた」。
――パキィィィィィン!!
「ぎゃあああああああああ!? ひ、膝がァァァッ!?」
阿修羅は蹴りを放つ直前の姿勢のまま、空中で一回転して地面に転がった。 急所に一点の衝撃を逆流させられたことで、自慢の脚力が自分自身を破壊したのだ。
「……あ、ごめん。ちょっと急所すぎた?」
「……鉄男、お前……。今、阿修羅の蹴りを見てから、膝の裏を『迎え撃った』のか……?」 膝丸が戦慄した表情で僕を見る。
その時、背後から猛烈な殺気がした。 「――逃がさないわよ鉄男! 浮気はそこまでよ!」
神代エルが、屋上のフェンスを飛び越えて(?)こめかみエルボーを放ってきた。 僕は反射的に首を傾けて避ける。
「……。膝丸、相談なんだけど」 「なんだ?」 「この学園から転校する方法、一緒に考えてくれないかな」
僕たちの「膝を突き合わせた相談」は、結局エルの乱入によって、ただの乱闘へと消えていった。
【第3話 Tips】
■ 新登場キャラクター
膝丸 蹴人
部位: ニー(膝)特待生。
特徴: 鉄男の親友。お調子者だが、膝の防御力は学園屈指。「肘と膝、どっちが尖っているか」で神代エルと議論するのが日課。
阿修羅
部位: 右脚特待生。
特徴: 五体満足のメンバーではないが、その実力は肉薄する「脚」のエキスパート。自信過剰で短パン愛好家。
■ 用語・必殺技
右脚特待生: 骸骨掌学園において、キックの破壊力に特化した者に与えられる称号。
破砕脚: 阿修羅の必殺技。足のしなりを利用し、コンクリートをも砕く重キック。
ニー・シールド: 膝丸の得意技。膝のサポーター部分を相手の打撃点にぶつけ、衝撃を無効化する防御技。
点穴・肘: 鉄男が(無意識に)放った技。相手の関節の稼働支点に、肘の先端をピンポイントでぶつけることで、相手の力を逆流させる。




