4話:ファイティングキム子さん
洞窟の奥から『たすけて』『たすけて』と口々に言いながら、ぴょんぴょこ跳ねるイガグリたち。
「声が頭に直接響いてくるわね」
「なんで言葉がわかるんだろう?」
「この迷宮は不思議だから、じゃね?」
マイニーが丸っこいのを持ったまま、ぼくとヒョンの横に並ぶと、
「ねえ、助けてって何からかしら?」
『インキ!』『ヨウキ!』『同胞!』『魔力抜かれる!』
山のような数のイガグリたちが『ボクたち! 抜かれた!』と一斉に声を揃えた。
「ごめんなさい、代表してあなたが説明してくれる?」
『ボクたちイグリ! イバラの巣で隠れて暮らしてた! インキとヨウキ、ボクたち見つけた! 仲間、まだそこにいる!』
なるほど、このイガグリたちはイグリという生物で、インキとヨウキは敵ね、とマイニー。
「イバラの巣ってこの迷宮の中にあるのかな?」
「わっかんねえ。さっぱりだ」
様々な異世界から魂が来る、って言ってたから、異世界なのかな?って気もするけど⋯。
「そりまちさんどこだろ⋯⋯どうしよう。助けてあげたいけど」
「オレらも急に迷宮に連れてこられて、アラヒメ様がいて、炎に焼かれて、なんでかここにいてだもんなあ」
うん、こっちも助けて欲しいわけだし。おまけに得体の知れない丸っこいのもいるわけだし。欲を言えばいったん寮に戻って寝たいくらいだし。
頭パンクするって、ほんと。
「何にしても判断材料が少なすぎるわ。ねえイグリさん、そのインキとヨウキってどんな外見か――」
――わかる?、とマイニーが尋ねると同時背後の湖の中心に、ドゴーーーンと何かが落下する音がした。
「「「――ッ⁉︎」」」
反射的にそこを向く。水柱のなかに人影がふたつある。しぶきが落ちる。そこには、純白ドレスを着た、頭にリボンをつけた白い肌の二人の女性が、
『うらァッ!』『あっしャアッ!』
お互いの体に拳を飛ばし合ってる――⁉︎
「ホラー!?」「イカれてんぜッ!」「⋯⋯フリルが狂気を増すわね」
「――あれはファイティングキム子さんたちだな」
そのとき、「ふう、間に合ったか」とぼくたちの背後から声がした。
「そりまちさん!ってファイティングキム子さんって何ッ!?」
「おう。 スキを見つけてはこの迷宮の至るところで大暴れしている、厄介な魂なんだが⋯⋯まずいな。
キム子さんたちは小さな魂には興味を持たず、ひたすら二人でタイマンを張る習性を持つんだが。人型を見ると――」
そのとき、キム子さんたちの首がぎゅるりとぼくたちに向かって回った。細い体が、ドレスを裂かんばかりに膨れ上がる。
「――あっしゃあッ!」「うおっしゃあッ!」
「「「こっち来たああああああッ!」」」
水面が弾けた。
「⋯⋯ちっ」同時、そりまちさんがイグリたちから三本トゲを取ると、ぼくたち三人の口にねじ込んだ。
「「「――こっちも来たあッ!?」」」
粉末状に砕かれたそれがノドを通る――もしかして、これが魂のカケラの吸収――?
「話が聞こえたもんでな。インキとヨウキとやらの実力は分からんがキム子さんたちはああ見えてかなり強い。そしてワシのカラダは魔力切れだ。もう一度リスポーンされると探すのがめんどう⋯⋯ワシの本体の仕事に差しさわる」
アラヒメを置いてきたのが裏目に出たか、とそりまちさんは呟くと、
「とゆーわけでお前ら、行ってこい!」
「どこに⁉︎」「異世界だ」「「「異世界ぃ――っ⁉︎」」」
足元に魔法陣が出来た。「その魔法陣はワシのよく知るもんでな、おそらくお前らはイグリの世界で何かを器として活動することになる。いまのお前らならなんとかなるだろう。頑張ってこい!」
ツイン・キム子さんが全力疾走するなか、ぼくたちの体がブロック状に変化していく。
「あっこの子」マイニーが思い出したように丸っこいのを離そうとしたが、しがみつくため「わかったわよ!帰ったら遊んであげるからいまは離れなさいッ!」
と、ぶん投げると同時、キム子さんたちの魔の拳がマイニーの顔があった空間をからぶった。
魔法陣の光がおさまる寸前、ぼくは魂の声をおもいっきり叫んだ。
「これだけは言わしてそりまちさん! キム子さんたちはああ見えて強いって――」
――あの二の腕はどう見ても強いよぉぉぉぉお!
その叫び声を残して、シルたち三人の魂は魔法陣に消えた。
「ん? なんだ? ふむ、遊び相手がいなくなって寂しいのか?
それならお前らも来るか?」
ギョロギョロと獲物を見失ったキム子さんたちがお互いを乱打し始めたのを尻目に、ワシは丸っこいのとイグリたちを連れて水辺に向かった。
余談ですが、キムコ子さんたちは夢で出会ったキャラクターでした。(悪夢ではなかった)
ガラスを素手で破ってました。美人でした。(悪夢ではなかった)
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