14話:カラクリ人形
「シルヒョンマイニーはBランク、それは出来レースだしきみたち二人は⋯⋯」
ギルドに戻って依頼の品を納品したあと、ゼンさんがぼくたち五人の目にうつる記憶をのぞきながら頭をかいた。
「んー困った。魔物をどう対処するのか見るつもりだったんだけどね。ヒョンの威嚇咆哮で全部逃げちゃってるから」
「オレのせいか⁉︎」
「うん、お前のせいだね」
⋯⋯先に言っといてくれや!とサラちゃんとミヤビコちゃんを申し訳なさそうに見るヒョンは さすがに焦ってる顔してるけど。
「うーんだけどそうだね。三人の影響もあるだろうけど、あのエンライクーンを前にして正気を保ててるのは評価できる」
結果はいかに⋯!
「Cランクだ。これから宜しくね」
「「はい!宜しくお願いします!!」」
合格だーーー!引き出しから出した指輪受け取ったサラちゃんとヒヤビコちゃんが深くおじぎしてる。
横でヒョンが、
「依頼を受けるときはこの指輪を持って受付に行くんだぜ?」
「魔力を流すとね、ランクと本人確認が出来るんだよ!」
「さっそく先輩風吹かせるわね」
ぼくものったけど、これだけは言っとかないと!
「ゼンさんの固有魔法は今回みたいな予想外のときだけだから!安心していいからね!」
「それな! 毎回このオッサンに記憶は見られねえからよ!」
「それにはワタシはこう言いたい。『おいシルヒョン!それでは“調査”ではなく“ノゾキ見”みたいではないか!』と」
指先をぴしっと伸ばしてあとゼンさんは「そんな便利な魔法でもないからね。一定条件下⋯⋯たとえば依頼に関係した記憶しか見ることは出来ないんだよ」
「それでも便利な魔法よね」
マイニーの目が目を怪しく光った。
「ねえゼンさん?ちょっと魂のカケラわけてくれない?」
「きみが言うと冗談に聞こえないんだよマイニー!」
ゼンさんとマイニー以外のみんなが爆笑した。
「それでさ、ぼくたちもそろそろミヤビコちゃんの秘密知りたいな!」
「それな! オレらの魂の話までマイニーがしちゃってんだし聞く権利はあんじゃねえの?」
こくっ、とミヤビコちゃんが頷く。ぱかっ、とミヤビコちゃんの頭が割れた。
「「われたぁぁぁあ――ッ⁉︎」」
「私も同じ反応したわ」「二回目でもびっくりしちゃうよねっ」
ほう、とゼンさんがコーヒーを口に含みながら興味深そうに割れた頭をのぞきこむと。
「や、やっほー」
頬を真っ赤に染めた、明るいメッシュの髪に赤い着物を着た手のひらサイズのミヤビコちゃんが⋯!
「ミヤビコ・ミヤビだよっ! 人形族のミヤビコちゃんはこれがほんとの姿なのでした〜〜っ!」
ダブルピースで出てきた⁉︎
「お、おお⋯恥ずかしいなら無理すんなよミヤビコ」
「言わないで! アーチタウン魔法学校に来るまで、人形族以外の子どもなんて会ったことなかったんだもんっ!」
手のひらを小さな顔の前でひっしにふるミヤビコちゃん。大きさ的にはそりまちさんヌイグルミの半分くらいかな。あっちと違って、なんかかわいいかもだけど、
「それでその⋯⋯無表情な大きな人形に入ってたの?」
「ううん、この小さな体だと、みんなと一緒に暮らすのは大変だし危ないから」
「この大きな体は魔導ギアなのよ」
照れ屋さんらしい。ミヤビコちゃんが下を向くと、マイニーが言葉を継いだ。
「魔法学校に入学を希望する人形族の子供には、同年代の平均身長に合わせた器を作ってくれるんだって。イチヨ様のお手製よ、カラクリ人形魔導ギアというらしいわ」
羨ましそうに人形を見るマイニー。次はサラちゃんが続きを話してくれるらしい。
「それでね、ミヤビコちゃんにそっくりなカラクリ人形が用意されてたんだけど、自分の顔だと恥ずかしいからって作り直して貰ったんだよね?」
「うん⋯⋯だから入学が少し遅れることになったの」
「かわいいのに」「なっ?」「やめて見ないでえーーーーーーーッ!」
ヒョンとぼくが近寄ると、ミヤビコちゃんが赤面した顔を手のひらで隠した。
「変態ね」背後からマイニーに言葉を刺された。
「あははごめんね、だけどこれ魔導ギアなんだあ。 操縦するの難しくないの?」
「全然!すっごいんだよこの魔導ギア! 魔力を流しながら指を動かすと、その通りに動くの!」
こんなこともできるよ!とクツを脱いでバレリーナのようにつま先で回転するミヤビコちゃん。
「すごいよねっ、カラクリ人形って知らないと絶対わかんないよねー!」
「さすがとしか言いようがないわよ。 一度、イチヨ様の脳内をのぞいてみたいわ⋯⋯」と恍惚と頬に手を当てる危ない顔をしたマイニー。
「変態だ」「変態だね」頭にブックの角が落ちた。解せぬ。
「うんほんとすごい! ところでキミたちはいつまでギルドマスターの部屋でくつろぐつもりだい?」
そのときゼンさんがコーヒーカップを置きながら言った。
「いつも無駄話でオレらの時間奪うんだからいいだろ?ちょっとくらい」
「だーめー! 私は忙しいのだよ!」
ゼンさんがぼくらの背中を押すとこんこんっとドアをノックする音がした。
「ほら! ブラックサブマリン寮の一年生が会議室で待ってるから! 帰った帰った!」
「そっか、五寮もあるからまだの子らもいるのか」
「オッサンの無駄話が長いせいじゃね?」
ヒョンに痛いところを突かれたのか、力を強くしたゼンさんに押し出されるようにして、ぼくたちはギルドマスタールームを出た。
*
「今日は楽しかったねー。 びっくりがいっぱいで疲れちゃったけどっ」
「ね」
女子寮の一室、露天風呂から帰ってきたサラちゃんと私は温風魔導ギアの風を髪にあてながらベッドに座る。
シルたちの部屋は畳張りの和室?らしいけど、こっちは白いシーツのベッドにカガミのついたドレッサーがあるお姫様風なのよね〜。
入学前に選択できるらしいけど、サラちゃんがこっちのタイプを希望してくれていてよかったわ。
「だけどミヤビコちゃん、お部屋でもあの姿だと窮屈だろーなあ」
「そうねえ。 お風呂にも一緒に入れなかったし」
防災対策はばっちりみたいだけど。オクニ先生に呼び出されちゃったから。明日は一緒に入れるといいんだけど。
サラちゃんが「大丈夫かなあ」と天井を見上げたとき、ドアをノックする音が聞こえた。
「はーい! カギはあいてるのではいってくださーい!」
侵入者の末路はワシードが身をもって教えてくれたから。この部屋に来るのは必然と女生徒かオクニ先生になるのよね。だから眠くなるまでカギは開けっぱなんだけど⋯⋯
もしかして。
「ミヤビコちゃんっ!」「オクニ先生の呼び出し⋯お話は終わったの?」
「うん⋯あの。あのね」部屋に入ってきたミヤビコちゃんはなぜか俯いたままで、その声は震えている。先生に怒られるようなことあったかしら⋯?
「ほら、ホワイトスノウ寮の一年生って、女の子10人だよね? だから、あの、あたし、あの、遅れてきたから。 三人部屋に」
「――えええ! もしかしてミヤビコちゃん、わたしとマイニーちゃんと一緒の部屋になったの!?」
サラちゃんがドライヤーをベッドに置いて駆け寄った。
「う、うん、まあその、もしも、二人が嫌じゃなかったら⋯」
「大歓迎だよっ! うわあ、めっちゃくちゃ嬉しいな!」
「もちろん、私も大歓迎よ」
ギルドで同じチームだったから、もしかしたらと思ってたけど。家具がふたつしかないから。でも、大歓迎に決まってるわよ。
「サラちゃん⋯⋯!マイニー⋯⋯!」
ドアが閉まると、カラクリ人形から飛び出したミヤビコちゃんが、顔を真っ赤にして抱きついてきた。小さな手をおもいっきり伸ばして、私とサラちゃんの腕をつかんだ。
「あら、その姿は恥ずかしいんじゃなかったの?」
「いじわるマイニー! いまは、こうしたいのっ!」
「それはよかったわ」
えへへっ、と笑うサラちゃんと笑みがこぼれた私の首の間で、ミヤビコちゃんが「ありがとう」と呟いた。




