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12話:スカートなのに!

「それではチーム・サラの試験内容はこれです。頑張ってくださいね」


 一階エントランスロビーに降りてチームリーダー名を報告すると、オクニ先生が束の中から一枚の紙を出した。


「【ハチミツオウジの蜜採取】⋯⋯ですか?」

「ええ。この街を出て野原をまっすぐ北に歩くとお花畑がありますね?その中央の大樹に、ハチミツオウジが巣を作ったので、その蜜をいただいてくる試験ですわ」


 ハチミツオウジといえばキラービーって魔物が進化した魔人だったはずだけど⋯。


「魔人が、しかも、かつて魔王側に残った魔人が、こんな街の近くに住んでいるんですか⋯?」


 サラちゃんがみんなの気持ちを代弁してくれた。同族のサラちゃんはぼくら以上に気にかかる話だろう。


「どこかの秘境から説得して連れていらっしゃたの。もちろん、そりまちさんがですわ。

 少しずつですが、人間や他種族への恨みを捨て、心を開き始めた魔人は増えているのですよ」


 オクニ先生は柔らかな笑みを見せる。


 ヒョンのジーちゃんのように魔王に反した魔人もいれば、魔王に賛同した魔人もいた。

 その仲をとりもち、さらに他種族との架け橋になることも、ガーディアンズの目的であるってのは聞いたことあるけども。


「ってことは元魔王派つっても、戦いになったりはしねえのな!」


「ハチミツオウジの家に行って蜜を分けて貰うだけの依頼かあ! ラッキー!超簡単だねっ!」


「Cランクの初歩って危険度かしら」


 よかったよかった。学校とギルドが組んだ試験でそんな危険があるわけないとは思ってたけど、想定外に楽そうな仕事だ。


「だけど街の外かあ⋯!怖い魔物とか出ないかな??」

「クックック。超不安」


 それでも、ミヤビコちゃんとサラちゃんは不安らしい。

 自然に存在する野生動物と同じで、猛獣のように牙を剥く魔物もいれば、人懐っこく温和な魔物もいる。

 魔王の時代はその両方が支配下に置かれて他種族と争ったらしいけど、いまでは野生動物と同等に共存している。


 中には魔人に引けを取らない強さの魔物なんかもいるから、不安になるのはわからなくもないけどね。


「このあたりにそんなヤベぇ魔物はいねえって! なっ! 気楽に行こうぜ!」

「う、⋯うん」

「クックック。 わかりやすいフラグじゃないわよね」


 ヒョンが二人の肩を叩いて、ぼくたちはギルドを出た。


 街の門を行き来する人々の一部や冒険者たちが、怪訝そうな目でぼくたち三人を見ては、口々に呟きだしたのはそのときだった。


『おいあの三色⋯⋯トリプルトラブルの弟妹か?』

『パーフェクトフェイセズ⋯⋯顔だけ立派な三人組にそっくりだなあの子供達』

『何!? 悪ガキチェリーが出ただって!? あの三人、今度見かけたらタダじゃ置かないよ!』


「げ、宿のオバアまで出てきやがったぜ」

「今回は可愛いイタズラだったのにね」

「前回の寝起き顔面ケーキの怒りが残ってるみたいね」


 ギルドと大通りを挟んだ斜向かいにある二階建て木造の宿。その店先でホウキを持って眼光をギラつかせている小柄のオバアは、ぼくたちが初めてこの街に来たときからお世話になっている宿のオーナーだ。


 そして、ぼくら三人の本来の姿や年齢を知っている数少ない人物のひとりでもある。昔から宿を借りてはイタズラをして、叩き出されて、と繰り返してる仲だ。


 いつも横並びで逃げるぼくらを見て、【悪ガキチェリー】という言葉が自然と出たんです、普段から素行の悪い子たちでした、なんてオバア(七十五歳)は語ってたことがあるっけなあ⋯。


「ちっ。辛党のオバアに一口で歯が溶ける甘さが売りのケーキは効きすぎたか」

「ちゃんとぼくらが残さず食べたのにね」

「ほんとにね」


 ちなみに今回はトメィトの赤い汁をふんだんに塗りたくったぼくが廊下で倒れているドッキリだったけど、ゴミと一緒にホウキで外に出されたあと、宿も追い出されたっけ。


「ねえねえ、三人とも顔色悪いよ?ぶつぶつ言ってどうしたの?」

「クックック。大丈夫かしら?」


 通行人たちの声がぼくたちを向いているモノだとは露知らず、「有名人がいるのかな?」「クックック。悪名のようだけど」と周りを見まわしていたサラちゃんとミヤビコちゃんが覗き込んできた。


 うう。恥を知るとはこの事だろうか。絶対に知られたくないや。


「な、なんでもないの、気にしないで」

「そう?ならいいけど⋯⋯うーー。それにしても、わたしがリーダーかあ。やっぱり気が重いよう」


 ジャンケンで負けた自分の手のひらに、恨みがましく視線を落とすサラちゃん。

 よかった話題がそれたー。と思ったとき、地面からぽつりぽつりと雨が昇り始めた。


のぼり雨(・・・・)だ! きゃあ!今日スカートなのにっ!」

「のぼり雨は嫌いよ。 オシャレの天敵だもの」


 地面から天に昇る大粒の雨。

 スカートが濡れる前に、ぼくは風魔法で女子三人の足首を中心に雨除けの壁をみっつ作った。


「ありがとうシルくん! よかったあ、初めてのギルド依頼なのに着替えに帰るのやだもんね!」

「ええ、ナイスよシル」

「クックック。ジュエントォルメェン」


 いつもマイニーにしてるから。ほら、マイニーは魔法を使うのにブックが必要だから。

 とりあえず、あははっと後頭部をかく。


「おいシル。 女に媚び売ってねえでオレのズボンも守ってくれや」

「ヒョンは濡れるの気にしないでしょっ」

「まあな。お前に先越されて魔力の行き場に困ってるだけだ」


 指先をマイニーたちに向けていたヒョンが、足元の草に音魔法の小さな雨よけを作る。のぼり雨に浮かされないように葉っぱにしがみついていた虫のように小さな生き物が、ほっとしたように体を休めた。


「おお、それはポイント高そーだね? マイ二ーたちに見えるようにすればいいのにっ」

「ばーか、こっそりするからいいんじゃねえか。 つーかくだらねーこと言ってねえで行くぞ」


 そして取り止めのない話を楽しみながら、三十分が経つころ「おっ、あれじゃねえか?」空に向かうのぼり雨と柔らかな日光にキラめく花々。その中央に立つ大きな木が、見え始めた。

 試験だけど、なんか遠足に来た気分かも。初めてだなこーゆうの。


「うし! んじゃいっちょう、ハチミツオウジさん家にお邪魔しますかー!」


 なんだか楽しくなってぼくが駆け出したのをきっかけに、みんなが走った。試験達成までもう少しだ。のぼり雨がやんだ。


 大きな影が野原を滑りぼくたちの影を飲みこむ位置で止まったのは、花畑まであと一歩のときだった。




 次の異世界は18話からの予定です。

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