11話:ギルドへGO!
「プニのやろー、元気が有り余ってるにもほどがあったぜ」
迷宮の丸っこいの⋯生物か魂か何が何だかさっぱり生態のわからないあの子に、ヒョンがプニと名前をつけたのはまだ数時間前。
「かんっぜんに寝不足だわ」
「吐き気する」
「あっ、あれがオクニ先生じゃねえか」
早朝からギルド登録、しかも集合場所は正門前ときた。寮から遠いんよ。しかし、あまり悪目立ちを避けたいぼくらとしては遅刻するわけにはいかない。
そう思ってたのも数時間前のこと。
「入学早々遅刻ですか⋯グリフィンドールに十点減点、と言いたいところですが、今日は仕方ありませんわね」
巫女服を来たおねーさんが頬に手を当てて微笑む。ガーディアンズのひとり、【印魔のオクニ】だ。
大人感たっぷりに熟された笑顔が怖いっ!
「さて、みなさんおはようございます。
一年生のギルド登録は例年ホワイトスノウ寮から始まるため、休日にも関わらず朝早くの集合になりました。そしてギルドへ行く前に、新入生を紹介したいと思います」
ん?もしかしてぼくたち?入学式出てないから?いやでも、昨日一緒にメープル先生の授業受けたし、いまさら紹介されても?
「ミヤビコさん、前に出てきてください」
違うっぽいな。門の裏から誰か出てきたぞ。
短い黒髪に赤い着物⋯あんまり見ない外見かも。
なにより血の気を感じられない白い肌に線のようなまぶたからのぞく黒目がちょっと気味悪い。
「この子は諸事情でちょっと入学が遅くなりましたが、今日からみなさんと同じホワイトスノウ寮の一年生として生活を共にしてもらいます?
自分で自己紹介できるかしら?」
「ミヤビコ。 クックック。 人形族。 クックック。 趣味は秘密。 尊敬する族長はモモタロウシ様」
「はい、よくできました。 ちょっとお淑やかな子ですけれど、みなさん仲良くしてくださいねえ」
「お淑やかっつーか」
「顔が静かすぎて怖いとゆーか」
「怪しい。 とってつけたような笑い声ね」
ぼくたちのコソコソ話にマイニーも思わず参加しちゃうほどのインパクト。あるよね、あの子。
「だけどいい子だったよ?」マイニーの後ろからひょっこり顔が出た。
「サラちゃん知ってるの?」
「昨日、たまたま廊下で会ったときに先に紹介されたんだっ。
ほら、魔人のわたしと同じで、人形族の子も珍しいから」
「つーか人形族の子供ってすんげえ小せえはずだよな?」
ミヤビコ、オレらとほぼ同じ背丈だぜ?とヒョンが眉を寄せると、
「クックック。 だから入学が遅くなったの」いつのまにかヒョンの背後に立ったミヤビコちゃんが耳元でぼそり。
「――うひぃッ!?」ヒョンがのけぞった。
「はーい静かにしてくださいねえ。 それではギルド登録に行きますので、みなさんついてきてくださーい」
オクニ先生が先頭で旗を振ると、クラスメイトたちはミヤビコちゃんを囲んで歩き出した。
「⋯⋯みんなよくあんな怪しいヤツに進んで話しかけるな。子供ってすげえ」
「うん、たしかに」
ヒョンは第一印象でトラウマを植えられたらしい。
ん?サラちゃん難しい顔してどうかした?
「あそっか!シルくんとヒョンくんも16歳なんだっけ!」
あ、そっか。マイニーが話したんだっけ?
「すごい縁だよね! 年齢詐称組に新入生! みんな同じ寮になるなんて!」
「縁つーかなんつーか」
「確実に大人の汚い糸が見えるけど」
そして大人といえば。ギルドかあ。ここアーチタウンにあるギルドといえば【種族無差別ギルド・トムヤムニンジャ】だけだもんね。
いるんだろうなマスター。寝不足の日に会いたくないかも。
ゼンさんの話は猫舌のマイニーがホットコーヒーをごくごく飲み干せるようになるくらい、無駄に長いんだもん⋯。
*
「――はっはっは! それで私はそのときこう言ったんだよ。『おい先生、それは“授業”じゃなくて“寝かし“つけじゃないか?』とね!」
「ええそうねゼンさん。いまがまさにその状況だわ」
【ギルド職員会議室】の上座のソファー。冷めたホットコーヒーを口に含みながらジョークのオチが飛ぶと、マイニーがうつらうつらとソファーでフネをこぐクラスメイトを見る。
ふわあ。会いたくないなんてごめんゼンさん。おかげでいい夢見れたよ。
「長いのよ!話が!もうここに来て二時間は経つわ! いったいいつになれば本題に入るのよ!」
「それには私はこう答えるだろう。
『おいマイニー、それでは“コミュニケーション“ではなく“時間泥棒“みたいじゃないか』とね!」
だからそう言ってんのよーーーーッ!と吠えたマイニーの声で、クラスメイトたちが一斉に目を覚ました。
「さてホワイトスノウ寮一年生諸君、今日キミたちにはギルド登録の前に個々のランクを決めるための試験を受けてもらう」
「しれっといま始まった感出さないでくれるかしら!」
マイニーも真面目に相手しないで二度寝すればよかったのに。ただでさえ朝弱いのに、声がカスれちゃってるよ。
「ちょっとゼンさん、私にもコーヒー持ってきて貰えるよう伝えてくれないかしら」
「おっと。そこの女子生徒さんのように、ギルドに入れば我が者顔をして備品を要求できると考える者も少なくないのだが、コーヒーのサービスはCランクからと決まっていてね」
これはゼンさんなりのフォローだね。マイニー、いつもの調子で会話しちゃってるし。元を正せば悪いのもゼンさんだけど。
「一般的にギルドに登録するとDランク冒険者として依頼を受けるところからスタートするのは知ってるね?だが、キミたちは学業が本分だ」
そこで力量、情熱、行動力を試験し、適正ランクを与える⋯⋯飛び級制度を用意しているんだよ、と続けるゼンさんは、ちらっとこっちを見た。
「ぼくらもDからBランクにまで上がるの、長かったもんなね」
「Dランクは街の雑用がほとんどでクソつまんねえしな」
「その意味でも飛び級制度はありがたいわね」
そのときコンコンっとノックの音がすると「そろそろ本題に入った頃合いですわよね」会議室のドアが開いて、オクニ先生が入ってきた。
「試験にあたり先生からも補足説明がありますの。
男女ともに、寮のルームメイトが基本のチームメンバーです。他のチームとグループを組むのはよいのですが、ギルドの原則として16歳未満のソロ活動は認められていません」
「規則を破った者には私が誠心誠意をこめて、その大切さをお語りいたしましょう」
無論、興味があればいつでも聞きに来てください、と微笑むゼンさんにみんなが顔を振った。
「それではチーム、もしくはグループに分かれましたら、一階のエントランスロビーでお待ちしてますわっ」
ミヤビコさんはマイニーさんとサラさんのチームに入るように――そう言ってオクニ先生とゼンさんが退室すると、「クックック。 よろしクックック」
「――ッ⁉︎」
⋯⋯よし、なんとか悲鳴は耐えたぞ。




