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9話:帰還

「こんな日が、こんな日が来ることを夢に見ていたのです」


 湖でちゃぷちゃぷ、ばじゃばしゃと遊ぶ子供イグリたちを見ながらヒゲさんが涙をぬぐった。


「このたびは我らイグリをお救いいただき、ありがとうございました」

 

 ピノがくんできた水しか見たことなかったんだって、子供達。これからはいっぱい外の世界を楽しんでくれるといいなあ。


「――さあみな! 勇気を与える者マイニー様に⋯⋯ッ!」


 ――ハッ!と、安心するぼくらをよそに、天啓を得たように目を見開くヒゲさん。なんだ?


「――ゆゆ、勇者!この響き! 勇者マイニー様だ!」


 なるほど、マイニーが眉をしかめた。


「イグリ一同! 勇者マイニー様とそのお仲間おふたりに心よりの感謝を――!」


「「「「「勇者マイニー様! シル様ヒョン様! ありがとうございましたあーーーーッ!」」」」」


 ピノを筆頭に、魂の迷宮から帰還したイグリたちが解放されたイバラの巣で声をそろえる。

 たった一日ちょいの付き合いだけど、「イグリはこーじゃねえとな」「ねっ」


「⋯⋯勇者は勘弁して欲しいわね」


「ねっ? マイニーはどっちかってゆーと賢者ぽいもんね?」


「おう、賢き者と書いて賢者、だよなあっ?」



「「「「「「――ッ⁉︎ 勇賢者マイニー様ぁぁぁぁああああッ!!!!!!」」」」」」



「悪化させてどーするのよ、わざとねあんたたち」


 マイニーがわりと真顔でそっぽを向いた。でも、すぐに頬が緩んだ。なのになぜか、下を向いた。


「⋯⋯お礼を言うのはこっちよ。 あなたたちのおかげでわたしは人並み以上の魔力をいっときでも持つことができた。

 ブックが、魔導ギアがなくても魔法陣が描けた。この数時間⋯⋯ずっと夢のようだったもの。

 それに、大切なことを学んだわ」


 それは澄んだ水のように、爽やかな声だった。


「ありがとう。あなたたちのそのキレイな心はきっとこの先誰もけがせない。ヒゲさん、ピノ、子供たち⋯ありがとうございました」


 それは激流のように荒くぼくは声を荒げた。


「――ツンデレ勇賢者マイニー! 


 ここに爆誕だっ!」


「大切なことを学んだわ。それはきっと、永遠の美よりも増えていくコジワ――って落ち着けマイニー! 


 イグリの魔力で火球の魔法陣展開は世界が滅亡するぞッ!」


 大規模と化した魔法陣をトゲ先に展開したマイニーは言う。「ヒョンあなたいま、全・異世界中の女性を敵に回したわよ」


「⋯⋯美の前じゃじょーだんも言えねえのかよ」


「ふんっ」


 魔法陣が消えると同時、ブックの角がヒョンの頭に落ちた。


「ふん!」そしてマイニーがもう一度鼻を鳴らすと、

「魔法陣展開――――【魔力よ戻れ!(リターンマジック)】」


 ブックとマイニーのカラダから、魔力が子供イグリたちに戻った。


 ぼくたち三人の足元に、見覚えのある魔法陣が浮かんだのはそのときだ。


「あなたたちに戻したインキとヨウキの魔力をこのカラダ(・・・・・)に送るための魔法陣は、抜け殻の山だった場所に残してあるわ」


 だから⋯⋯ごめんね、怖かったと思うけどこれで――「みんなで遊べるわね」――マイニーが子供たちをみながら言ったとき、ぼくたち三人のイグリ体から水がこぼれ落ちるように魂が魔法陣に吸収されていく。


 消える寸前、大人イグリよりも声をデカくしたのは子供イグリたちだった。


「「「「「「「「――おねーちゃん! ぼく、あたしたち、おねーちゃんみたい、大きくなる!」」」」」」」」



「⋯⋯――あら⋯⋯? イグリの子供たちはほんと」


 急に、大きくなるんだから――


「マイニー! また会うのーーーーー!」


「ええ、必ず」


 マイニーが耳の下のトゲを真っ直ぐに伸ばしたとき、視界は薄暗い魂の迷宮に戻った。


 *


「――おっ、ぶじ帰還したようだな」


「おい!いねえよな!? ファイティングバタコさんたちッ!?」「キム子さんよ」


「あーーー、疲れた」


 そりまちさんの顔を見た途端、疲れがどっと出た。ヌイグルミだけど。魂の迷宮だけど。そんなに親しみのある景色じゃないけど、帰ってきた〜って感じがめっちゃする。


「二日ぶりだねそりまちさん!」

「こっちは10分くらいしかたってないがな」


 そうなの⁉︎まあ、時間の流れが違うくらいいまさらか。キム子さんたちがいなくてほんとよかった。いま襲われたら何もできないや⋯と思ってたら、何かがマイニーのお腹に飛びついた。


「――あそぶっ! あそぶっ!」

「おっと、もう変顔はうんざりよ。 ⋯⋯てあなた、いつのまに話せるようになったの?」


 ほんとだ? この丸っこいのもイグリみたく、膨大な魔力を体に内包しているとか⋯?


 ん?体に内包?


「どうしたシル?」

「⋯⋯なんかぼく⋯【分身】」


 体内に何かを感じたぼくがその魔法の名を唱えると、ぼくが三人に増えた。


「何⁉︎【分身】!【分身】!【ぶんしんんんッ!】⋯でねえぞオレ!」

「【分身】⋯私もね」


「イグリの固有魔法はシルの魂に適合したようだな」


 やっぱり、そうゆうことだよねそりまちさん?


「ソウルマジックを使って魔王の洗脳支配から解き放った魔物たちから、そりまちさんが⋯暗黒皇帝が魂のカケラを貰って強くなった逸話は本当だったのね」

「おう。 一部とはいえ魂を共有するわけだからな。固有魔法もまた、共有されるわけだが」


 今回はそれがシルにだったわけだ、とそりまちさん。


「ズリィなおい! どうせならオレらにもくれりゃいいのによ!」

「ワシに言うな。 三人にシェアされる時もあれば、一人の時もあるだろう。魂次第だ」


 そうか、三人一緒に固有魔法を手に入れられる場合もあるのか。うん⋯⋯でもこの感じ⋯ごめんヒョン。じつはぼく⋯。


 もうひとつあるんだ。


「⋯⋯⋯【拡大(エンラージ)】⋯⋯⋯【縮小(シュリンク)】」


 暗黒皇帝くんヌイグルミに指先を向けて唱えると、ヌイグルミがポンっと大きくなり、次の瞬間しゅんっと元のサイズに戻った。


「――⁉︎なんでシルがその魔法を⁉︎」

「どうゆうことかしら?倒した敵の魔法まで継承されるってこと?」

「む?⋯⋯そんなはずは⋯いや、異世界渡航自体がイレギュラーだからな、副産物として考えられなくも」


「ううん!じつはぼく、果汁を塗る時、一本トゲについてたんだ!」


 何が?と三人が眉を寄せた。その顔がおかしくて、ぼくはつい あははっ、と笑ってから。


「髪の毛! ヨウキが朽ちていくとき、そこから抜けてきた魂を飲んでたんだあ! ほら、そりまちさんの逸話を思い出してさっ!」


「まじかよ! 超絶ナイスじゃねえかシル!」


 抜けたばかりだったからか。髪の毛一本にまで魂が宿るものなのかはわからないけど、ぴゅるっとカケラが出た時はびっくりした。魂は見慣れてるからよかったけど。


 とはいえ今回ぼくとヒョン何もしてないから、マイニーにすっごく申し訳ないんだけど。


「そんな顔しないでいいわよシル。イグリの魔力が器を広げてくれたのかしら。


 私、なんだか魔力が増えた気がするの」


 微笑んだマイニーが、胸のなかに温かい何かが流れるように、そっと手を当てた。


「⋯⋯」その顔をじっと見つめるそりまちさんヌイグルミ。

「ま、なんだ。今回はワシが褒美をやらんでも学んだものはたくさんあったみたいだな」


「オッサンギャグかよ」「ま、なんだと学んだ、サブっ」「シル、あなた近いところあるわよ?」


 まじで⁉︎


「ワシの扱いにも慣れたようだな」


 ああつい。色々衝撃すぎて。このひとが世界の頂点とか忘れてました。まあいいか。なんか長い付き合いになりそうだし。まんざらでもなさそうに頬吊り上げてるし。


「さて、これで吸収した魂のカケラは二つになった。完全回復にはまだまだといったところだが、お前たちの魂も少しは安定するはずだ。


 そういや1cmくらい、背も伸びてるんじゃないか?」


「まじで!?」「まじかオッサン!?」「ほんとうかしらッ!」


「おいおい、そこで一番喜んでんじゃねえかよ」


 苦笑するそりまちさんとそれを真似して「おいおいっ、おいおいっ」っと声を弾ます丸っこいの。


 静かな迷宮が、殷賑(いんしん)としてきた。


「あははっ、にしてもマイニー、イグリたちの魂が戻ってくるかは賭けだったけど。うまくいってよかったねー」


「勝算はあったのよ。イグリにとって魔力が生命力、もしくは精神や意識を司るものだとすると、あのカラダにはなにか⋯⋯核のようなものが残ってるんじゃないかってね」


「⋯⋯⋯⋯⋯幽体離脱してたてきな?」


 本来の魔力が核に戻ることで、乾いたスポンジが水を得たように復活した⋯⋯ってところかしらね、とマイニー。


「まっ、分析もいいが深く考える必要はないぞ。 お前らにとって当たり前でも、魔法ってのは不思議なもんなんだ。 それにここは」


「「「魂の迷宮、何が起きても不思議じゃない場所だ」」」


「そーゆうこった。 とにかく、ひとつめのミッションクリア、おめでとうでいいんじゃないか?」


「そうね」「そうだねっ」「だなっ」とそりまちさんにさとされ、ぼくたち三人は顔を綻ばす。


「んじゃ、今日はゆっくり⋯⋯と言ってやりたいところだが。


 マイニー」


「なにかしら?」


 口元をおさえてあくびをひとつするマイニーに、そりまちさんが「約束は守らないとな?」


「約束?」


 ――あっ、とマイニーの眠たげな目が、丸っこいのを見て全開した。


「しぃらねっ。オレは関係ねえし帰って寝るからなっ」

「そうだねっ、ぼくたち約束してないし」

「残念だがここは魂の迷宮、連帯責任だ」


「「こじつけじゃねえか!(こじつけじゃんかッ!)」」


 さっそうと逃げるように水辺を離れるヒョンとぼくの首根っこを、そりまちさんヌイグルミが指のない丸い手でつかむ。


「あっでも!明日学校休みじゃなかった?」

「それだ!いいこと思い出したなシル!寮生活に慣れろとかなんとかで、明日から三日休みっつってたよな!ならいいや!


 おい丸っこいの!お前が飽きるまで遊んでやるぜーー!」


 いえーーーーい!とハイタッチをして小躍りするぼくとヒョン。だが、


「あなたたち、部屋に届いてたプリント読んでなかったのね?」

「「――ッ⁉︎ ⋯⋯プリントだと?」」


 それってあの【ホワイトスノウ寮主任教師・オクニより】から始まる白い紙のこと?それなら【読み終わったら丸を】って書かれてた【確認しました】のところに、ヒョンが速攻で丸してワープしていったけど⋯。


 え何が起きるか気になって読む暇ないでしょ普通⁉︎


「明日は初めての休日だから、朝からクラスみんなでギルド登録に行くのよ」

「「――聞いてないそんな話ぃぃィイイッ⁉︎」」


 聞かないヤツが悪い、とそりまち校長がぴしゃり。


「つーかオレらもう登録ずみだぜ⁉︎」

「それは青年姿でしょ?せっかく魂が回復してきたのに、また同じミスを繰り返すつもり?」


 マイニーがとどめをさしてくる。ぐうの音もでませんわ。


「さて、そりまち校長。約束は守るべきでしたよね?」

「おう。いい顔になったなマイニー。すごく腹黒い笑みだ」

「どうも。てことでヒョン――」


 ――飽きるまで遊んであげるのよ?とマイニーは丸っこいのをヒョンに差し出した。


「まじかよ」


 そして、がっくりと肩を落とすヒョンの手の中で、「まじかよー! あそぶっ! あそぶっ!」っと丸っこいのが声を弾ませ、「ぼくはどっちも約束してないからねっ!」「連帯責任っ! 連帯責任っ!」と丸っこいのが繰り返し、「あら?とても聡明ねこの子」とマイニーが腹黒い笑みを深めたところで。


「んじゃ結界貼っといてやるから。迎えにくるまで遊んでやるよーに」とそりまちさんヌイグルミは姿を消す。


「「「ブラック皇帝⋯⋯!」」」


 魂の迷宮一層目。そこで長くゆっくりとした時間を過ごしたぼくたち三人が解放されたのは、それから5時間後のことだった⋯⋯。



「あそぶっあそぶっ! ばう、ばう、ばうわあーーーーー!」



 全然読まれない⋯。面白そう、ふたつめの異世界どうなんの?ってちょっとでも感じていただけましたら、ブクマ登録、⭐︎評価、ご感想等よろしくお願いいたします⋯!

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