0話:イントロダクション
『メっんど〜うメイドっ♪』
『イっつでもいっしょ〜♪』
『ドっこまで行っくの〜♪?』
『『しっ』』
『ミータですぅ』 『キータですぅぅ』
――これはぼくたち三人が異世界を知る数日前の話らしい。
「シルはもちろん、ヒョンとマイニーもその出立から学校に通っとらん。ゆえに、ワシは我が校に三人とも入学させることにした」
天井に仕込んでおいた覗き穴。皇帝様の声が聞こえるです。会議が始まったようです。
『魔王を討伐し、旧・魔王城を魔改造して【アーチタウン魔法学校】を創立した、我らが そりまち校長ですぅ』
『またの名を【ほぼほぼ無休、ほぼほぼ無給、睡眠時間は3時間⋯⋯だけど食事は3食とるもん!】でお馴染みの、【暗黒皇帝ですぅぅ』
そしてミータとキータの雇用主でもあるです。皇帝様はブラック労働だけどキータたちは自由なのですぅぅ。
げ、キータ⋯⋯あの鳥もいるです。
「いいんじゃねえの?おもちゃ⋯新入生が増えるのは賛成だぜっ」
「ワタシの役目は不良生徒を粛清スルコト。 遠慮はシマセンゾ」
「ウルフマン。お前はそれでいい。 問題は形式上、保護者のサインが必要なことなんだが」
鳥人族の英雄ワシードはスルーされてるです。あの鳥は真面目に相手すると長いから正解ですぅぅ。そして、
『マイニーの保護者は【大冒険作家のニィマ・ストロンジ】ですぅ』
『ヒョンキチの保護者は【ひとりめの魔人・ヒョルン・ヌラリ】ですぅぅ』
調べはついてるです。この“情報屋顔負けの情報網を独自に持つほどのウワサ好き”として名を馳せる双子のメイドにとって、ちみっこの素性をさぐることなど朝食前のテーブル拭きより簡単なことですぅぅ。
ミータとキータの目と耳はテーブルクロスについたわずかな歪みすら瞬時にすくいとるです。
たとえそれが、世界中で指折りの者たちしか知らされていない秘密だとしてもですぅぅ。
「ふたりの保護者についてはお前たちをふくめ、ガーディアンズは承知の通りだが、先生方には情報を共有しておくべきだと思ってな」
皇帝様はそのテーブルについた六人の男女を見たあと、末席に座る二人の女性を見るです。それから「まずマイニーの保護者だが」と皇帝様がペンを上げたとき――
嵐のような魔弾丸がガラス窓を粉々に打ち砕いたですぅぅ。
「⋯⋯先に言っとく、ワシはこのババアがすごく苦手だ」
「――誰がババアだってそりまち? あんたもそー変わらん歳だろう」
「桁が違うだろう、美ババア妖怪め」
天守閣にあるバルコニーの“手すりから伸びるヒモ”の先端を片手に、連射型の魔導ギアを片手に、ピンク色の髪をひとつにまとめた反・淑女的熟女が、職員会議室に降り立ったです。
「紹介しよう。 このババアがマイニーの祖母、【ニィマ・ストロンジ】だ」
『別名、【強烈強力な奇人】ですぅぅ』
キータがころころと呟くと同時、マシンガンが天井に向かって火を吹いたです。
「やめろババア、これ以上ワシらの家を壊すな」
「ちょっくら目耳にごあいさつさね。 まあいいさ、先生方初めまして。 これからうちの孫を宜しく頼むよ」
「「よろしくお願い致しますッ」」
ニカッ、と笑うニィマに、ガーディアンズをのぞく二人の教師が直立して頭を下げるです。それと同時、
「――バアッ」テーブルクロスの下から、エメラルドグリーンの髪色をした老人がベロを出しながら顔を出したですぅぅ!
「「――ッ!?」」教師二人が悲鳴を抑えてスカートを押さえるですぅぅ!
「おうなんだっ、かわいげな声のひとつもなしかい? しっかりしたお嬢さんたちだ」
カッカッカッ、と天晴れな声で笑うご老人に、「出たな妖怪ジジイ」とニィマがテーブルごとマシンガンで魔力を撃ち込もうとすると、「よおニィマじゃねえか、わしからすりゃぁお前さんもお嬢さんだ」
その背後から、ご老人がニィマのほっぺたをムギュッと伸ばしたですぅぅ!
「この――ッ」「ストップだ」
そして荒ぶるニィマを皇帝様が手で制したです!胸キュン、皇帝様かっこよすですぅぅ!
それにしてもさすが【ひとりめの魔人】です。
【無振の音動】、初めて見たですぅぅ。
「紹介するまでもなくお分かりだと思うが、こちらがヒョンキチの祖父である【ヒョルン・ヌラリ】だ」
「そしてわしはニィマの師匠でもある。 先生方、うちのチビスケをよろしく頼まあ」
「元だ元、クソジジイッ」
「「よ、よろしくお願い致しますッ」」
元・師弟関係だと強調するニィマと、スカートを押さえたまま頭を下げる教師二人、
「とまあ、はからずも紹介がすんだところでニィマ、ヒョルン。 サインをもらっていいか?」
「むっ、なんだいそりまちこの書類。字が小さくて読めないよ」
「わしもピントが合わん」
「⋯⋯あんたらもか」
ワシも最近ちょっとキとる⋯⋯と老眼鏡を二人に渡す皇帝様です。ちゃんとお手入れしといたですぅぅ。
「先輩あの私、アーチタウン魔法学校に就任して守護者たちや暗黒皇帝を目の当たりにしたときも感動だったんですけど」
「ええ後輩。 このお三方がこの場で横並びになられると、涙がこぼれそうでござんす」
魔王軍との最終決戦時、窮地に陥った皇帝様やガーディアンズ、族長たちのもとに駆けつけた二人の影の英雄。
それがニィマ・ストロンジとヒョルン・ヌラリですぅぅ。
『感涙してるですぅ』『鼻水が汚いですぅぅ』
マシンガンが火を吹いたです。
「んでよぉそりまち。 シルのヤツはどーすんだ?」
「シルのサインはワシが書いた。 あの子の保護者として、アイツらをのぞけばワシ以上に適切な者はおらんだろう」
「まあ、そうさね。 お前の子と言っても的外れじゃあない」
母親候補はできたかい?⋯⋯まだだ。生涯で彼女のひとりもおらん皇帝たあ史上初だろうよ――と三人の英雄がたわいもない話をする前で、ハクハツの女性が手をあげてるです。
「母方のサインが必要とあれば、ぜひこのイチヨが――ッ」
「あーっ! いっちゃんずるーいそれならハトリもっ!」
「善意に感謝するが、サインはひとつでいいんだ。 イチヨハトリ、ありがとな」
お断りする皇帝様に「こりゃあダメじゃ」「ボウヤはボウヤさね」とヒョルンとニィマが顔を振ったですぅぅ。
『皇帝様がボウヤ扱いですぅ』『鼻水垂れたらキータがふくですぅぅ』
マシンガンが火を吹いたですぅぅ。
「ん? まあよくわからんが、本日の職員会議はこれにて終わりだ。
明日はアーチタウン魔法学校、入学式だ。
ここにおらんガーディアンズや先生方をふくめ、みんなそれぞれの職務をまっとうするように。以上、解散!」
皇帝様のパンっと打った手を合図に、深夜の職員会議が幕を降ろしたです。
⋯⋯⋯⋯『さて』『ですぅぅ』
その直後、怪しげな光を目にたたえた水色と黄色髪のメイドが、職務をまっとうするため、新入生たちの眠る寮へと、影を忍ばせた、です。
『『新・ワルガキチェリー! 始まるですぅぅぅ!』』