第九話 最善を尽くしますが事態は急変します
遂にティフェル断罪の原因の一つとなるイベント、クライン王子誕生パーティが始まり、それと同時に俺のティフェル断罪防止作戦も始まるのだった。
断罪の原因は、クライン王子襲撃からのハイリーンの覚醒。そしてそれを自分の手柄としたティフェルだ。
できる限り、俺が転生者であり、ティフェルの結末を知っている事を知られずにこの流れを止める。そう考えて思いついたのは、そもそもの原因となる『クライン王子の襲撃阻止』である。
果たしてそんな事が可能なのか。しかも俺一人で……実は可能なのだ、俺の記憶と、ある人達の協力で。
〜王宮内 近衛兵団屯所〜
室内で一番大きな椅子でふんぞり返り、机の上に足をかけているゲバルト。
「首尾はどうだ?」
「各員配置についております」
「予定通り、機会を見て外部からの襲撃に見せかけてクライン王子を亡き者にするのだ」
「ハッ!」
返事をした兵士が部屋から出ていく。
「警備を担当する近衛兵団全員が口裏を合わせておけば、襲撃は外部の人間の仕業という事になる。これで第二王子派の貴族達に恩を売っておけば、近衛騎士団の立場は更に強くなり、俺も遂に伯爵、いや……侯爵辺りになって、あの厄介な聖騎士連中も黙らせる事が出来る…そしていずれはこの国を…ふふふっ…あっはっはっはっはっ!!!!!!」
ゲバルトが高笑いをすると、足音が鳴り響き、勢いよくドアが開く。
「た、大変ですっ!!!!」
「なんだ騒がしい!!」
「せ、聖騎士団の連中が!」
「何っ!?」
ゲバルトがクライン王子誕生パーティの会場付近に行くと、近衛兵団の側に聖騎士団の姿があった。
「な、何故貴様ら聖騎士団が居るのだ!?」
「グラディオ団長、並びにドゥーム宰相様の指示で、近衛兵団と協力して会場の警備に当たれと」
「なっ!?」
あからさまに焦った表情のゲバルト。
「警備は近衛兵団だけで充分なはずだ!!何故…」
「先程も言っただろう。王家の前で令嬢を口説くような者達に、仕事は任せられんとな」
そこに現れたのは、タキシードでは無く鎧姿のグラディオだった。
「ぐ、グラディオ団長…どうして」
「俺も仕事で来たんだ。というか、聖騎士が近衛兵団と協力する旨は事前に通達があった筈だが?」
「そ、そんな物は!」
「だ、団長!!デスクの上にこんな物が!!」
その兵士が持っていた物は、誕生パーティの警備に聖騎士が参加する旨が書かれた書類だった。
「あ、あぁ…」
「その様子では、ろくに書類の確認も出来てないようだな。忙しくて手が回らんのか?」
「ぐ、ぐぅう!!ご、ご協力…感謝する」
歯を食いしばりながらその場を去るゲバルト。
側近と共にグラディオ達から逃げるように立ち去るゲバルト。
「くそっ!!くそっ!!これでは兵士達は聖騎士達の監視下!暗殺は不可能だ!」
悔しそうに地団駄を踏むゲバルト。
「どうするんですか団長!」
「こうなったら…私が直接出るしか無い!」
「団長自らですか!?」
「運良く私は監視の対象外のようだ…警備の所定の位置から離れた場所…屋根裏側からならなら見つからずに暗殺も出来るはず…お前は私の襲撃後、誰も屋根裏に向かわないよう誘導するのだ!いいな!!」
「は、はい!!」
ゲバルトの指示で走り去る側近。
「…見ておれよ…グラディオ!!」
人目につかない道を選び、パーティ会場の上部へと向かうゲバルト。
「こ、この辺りからなら誰の目にも触れずに王子を討てる…ふ、ふっふっふっ!!!」
いやらしく笑うゲバルト。
「こんなところで何してるんですか?」
「ひ、ひえぇっ!!?」
そんなゲバルトに声をかけたのは…そう、俺だ。
「と、トライド様!?な、何故この様な場所に?」
「い、いや…父上を探してたら迷ってしまって…」
「そ、そうでしたか…(なんでこんな時にこんな場所に迷い込むんだよ!)」
「ところでゲバルトさんはここで何を?」
「そ、それはだね…(かくなる上は!)」
これも外部からの襲撃という事にすれば…きっとそう思ったに違いない。
「し、死ねぇえええ!!バカ息子ぉお!!!!」
ゲバルトが突然放った火球で俺が燃やし尽くされる…とは行かない。俺は身体強化をかけ、一瞬にした姿を消した。
「なっ!?ど、何処に!?」
「ゲバルトさん」
「ふぇっ!?」
ゲバルトに気づかれないうちに懐に潜り込んだ俺。
「少し眠っててね?」
俺は渾身の右フックでゲバルトの顎をモロに捉えた。
「ふぐぅうっ!!?!!!」
ゲバルトは脳震盪を起こし、そのまま床に倒れ込んだ。
「ふぅ…大人相手とはいえ、流石に不意打ちだから上手くいったなな、これで記憶でも飛ばしてくれてたらありがたいけど…」
取り敢えず、これで襲撃を阻止する事が出来ただろう。
一応説明すると、俺は前世の記憶で今回の件が、クライン王子の弟、第二王子派の貴族に唆された近衛兵団による犯行だと知っていた。
そして聖騎士団を警備に参加させるように父上とドゥームさんに促したのはもちろん俺だ。
父上が近衛兵団に不信感があった事も相まって、俺の助言に乗って上手い事動いてくれた。
最後の仕上げに、追い詰められたゲバルトが監視の目を掻い潜り、人目につかないところで暗殺を企てる事を読み、そこを叩いたという訳だ。
「さて、早いところ会場に戻ろうか」
会場に戻るとパーティも大詰めとなっていたが、会場の端でティフェル達が退屈そうにしている。
「あっ!トライド!長いトイレね?ちゃんと手は洗ったの?」
「洗ったよ!」
まぁ、実際はトイレじゃ無いけど。
「それではクライン王子のご退場です。盛大な拍手でお見送り下さい」
会場が拍手で包まれ、これで無事にパーティが終わり、断罪のフラグも立たないと思った……が、その時。
「んっ?なんだ…」
異様な気配を感じると同時に、屋根裏から何か禍々しい物が猛スピードでクライン王子に向かい、そのままクライン王子の胸を貫いた。
一瞬の沈黙の後、女性の金切り声がその静寂を切り裂いた。
「く、クライン王子!!!!」
真っ先に駆け寄ったのはドゥームさんだった。
どういう事だ!?ゲバルトのあの様子ならまだ気絶しているはずだ…まさか本当に外部から?そんなことを考えていると、ティフェルも思わずクライン王子の元に駆け寄って行った。
「あっ!?だ、ダメだティフェル!!危ない!!近寄るな!!!」
俺の声を振り切ってクライン王子の側に座り、手を取って祈り始める。
「お願い…お母様…今私に光の魔法を授けて!」
そして離れた場所でハイリーンが手を合わせる。
「よせっ!!!ハイリーン!!!!!!」
ハイリーンの身体は優しい光に包まれ、その光がクライン王子の元へと届き、王子の傷がみるみるうちに癒えていった。
一瞬のどよめきの後、貴族のうちの1人が声を上げた。
「ティ、ティフェル様が光の魔法で、王子を救ったぞ!!!!」
「あぁ…ティフェル様が遂に!!!」
「王子の誕生日に聖女様が誕生なされたのだ!!!」
「あぁ…なんという奇跡!!」
遅かったか……これでは、ティフェルとハイリーンが……




