第八話 破滅の始まりですがどうにか阻止します
ブライト公爵家の仲直りを手伝ってからはや四年。俺は父上の元、本格的に武術等の指南を受けるようになっていた。
屋敷の中庭で拳を握りながら深く呼吸を取る。
「…ふぅ………」
今何をしているかと言うと『魔法』の訓練である。体の内に流れる魔力を意識し、魔力を一箇所に集中させたり流れる速度を早めたりする練習をしている。
その様子を、例の大人達は遠目で見ている。
「流石、俺の息子だ!日頃共に行ってきた鍛錬の成果だけで無く、俺の才能も引き継いでいるな!」
「いえいえ、魔力の扱いは私が日頃密接に触れ合いながら教えてきたもの……つまり、私とトライド様の深い深い深過ぎる絆の証」
「あらあら、私が朝にご用意した特製オムレツのお陰に決まってるじゃ無いですか」
気が散るから黙っててくんないかな。
ちなみに、俺が生まれたガルディオン家というのは、王国内でも有数の魔法適性がほとんど無い家系らしく、俺も術師に診てもらったところ、魔法の才能はほとんど無いとのこと。
だとすれば何故魔法の訓練を受けているかというと、ガルディオン家でも唯一使える魔法『身体強化』と『チャージ』を身につける為である。
身体強化とは、文字通り力を強くしたり、体を頑強にしたり、足を速くしたりする魔法の事で、チャージは魔力を溜め込んで、一定の攻撃の威力を上げる魔法。どちらも物理戦闘が基本のガルディオン家には欠かせない魔法なのである。
しかし、折角剣と魔法のファンタジー世界に来たのだから、何かしら火や雷を出す様な魔法も使ってみたかったが、魔法の才能は生まれ持ってのものらしく、こればかりは努力ではどうにもならないようだ。
実際、小さい頃から必死に魔法の練習を続けてきたハイリーンも、結局身を結ぶ事は無かったしな。まぁ『光魔法』に目覚めたら話は変わってくるだろうが…
「トライド!」
「トライド兄様!」
そんな事を考えていると、遠くからいつもの二人の声が聞こえて来た。またいつも通りウチに遊びに来たんだろう。
「ふにゃっ!?」
「あ、ハイリーン!?」
二人がこちらに駆け寄るも、ハイリーンが庭のくぼみに躓いてしまった為、ティフェルがハイリーンに手を貸す。
「大丈夫?もう、そそっかしいんだから」
「うぅ…ありがとうございます」
「ハイリーーーーン!!!!!!!!!」
すると今度は大きな声と共に男性が猛スピードで駆け寄ってくる。
「大丈夫かハイリーン!?怪我は無いか!?どこか痛い所は!?」
「お、お父様…私は大丈夫で…痛っ!」
どうやらハイリーンは転んだ拍子に膝を擦りむいたようだ。うっすらとではあるが血が滲んでいる。
「血が出ているでは無いか!誰か!!医者を呼んでくれ!!!」
「ど、ドゥーム様……傷は大した事は有りませんから」
若干引き気味のベティが声をかける。
「おぉ!ベティ!すまないが大至急王宮から医師を呼んで来てくれないか!?」
「だから大袈裟な…」
「そうだぞドゥームよ。このような傷、唾をつけておけば問題ないぞ!」
「お前のような筋肉ダルマと私の可憐な娘を一緒にするな!」
「筋肉ダルマだと!?…ふっ、悪くないな」
誇らしげに鼻を擦る父上、何喜んでんだよ。俺はみんなの元に行こうとしたが、突然力が抜けて座り込んでしまった。慣れない魔力を使ったからだろうか?
「と、トライドオォオオ!!!?!」
すると父上は俺の元に走り込んで来た。
「どうしたんだ!?具合でも悪いのか!?」
「いや、少し疲れて力が入らないだけで…」
「なっ!?魔力欠乏か!!」
「いや、そんな大した事じゃ…」
「ベティ!!至急王宮の医師を!!!」
「だから……」
「ハイリーン!!私が必ず助けるからな!!」
「トライドォオ!!!トライドオォオオオオ!!!」
「いい加減にしろおおおおお!!!!!!」
ベティの叫びは屋敷の外まで響いたらしい。
広間にてベティに傷の処置をしてもらうハイリーン、お菓子と飲み物でエネルギー補給をする俺、そして怒りのオーラを纏った母上の前で正座をする父上とドゥームさん、それを頬杖をついて眺めるティフェル。
「あなた達は何をしているのですか?ただの擦り傷とちょっとした魔力切れであんなに大騒ぎして周りを困らせて」
「す、すまないフロイル!」
「ドゥーム様も、もう少し落ち着きのある方だと存じておりましたのに、なんですかあの狼狽え方は」
「め、面目ない…」
あの一件以来、二人に対して過剰に厳しく接する事は無くなったのだが、反動なのか今度はちょっと過保護な父親になってしまった。
元々娘を思ってから来る行動だったから、こうなるのは必然だったのかも知れないけれども、まぁ前よりはマシだと思いたい。
「そういえば、もうすぐクライン王子の12歳の誕生パーティよね?」
「あぁ…そう言えば」
俺はその言葉に一気に憂鬱になった。何せクライン王子の誕生パーティは、ハイリーンが光魔法に目覚めるきっかけ。
そして、ティフェル破滅のきっかけになるイベントだ。
何者かの襲撃によって傷ついたクラインを、光魔法に目覚めたハイリーンが癒し、その功績をティフェルが自分のモノと偽る。
こうして偽聖女の誕生、ハイリーンの国外追放、真実が公になり断罪…
「トライド?何暗い顔してるの?」
「い、いや、なんでも無いよ…」
「なんだトライド?もしかして久しぶりのパーティに緊張してるのか?」
「そういう訳じゃ…」
「心配無いよトライドくん。君のお父さんは図体がデカいだけに見えるが、それなりに社交マナーも心得ているし顔も広い。困った事が有ればそばについていれば問題ないさ」
「ははっ!!任せておけ!」
こんなわかりやすい嫌味にも気付かない時点で心許ない。
「それに、万が一の事態には王宮の近衛兵達が動いてくれる」
「それは流石に心配しすぎじゃ無いのか?」
「王族の行事って、やっぱりそれ程警戒が必要なんですか?」
「やはりトライド君はお前よりもずっと賢い。王子の誕生パーティともなれば、いかなる事態も考えられるとよくわかっている」
「成程!流石私の息子だ!!」
有事の際には近衛兵が…の筈なんだけど。
大きな広間に煌びやかな装飾と豪華な食事。その場にいる人も皆豪華な衣服を身に纏い、優雅に会食をしている。
「うわぁ…流石は王家の誕生パーティ。かなりの規模ですね」
「なんせ王位継承候補第一位のクライン王子の誕生パーティだ。気合いも一層だろう」
只の息子の誕生パーティだけでなく、国の一大行事という事か。
しかし、珍しくキッチリ燕尾服を着てる父上…似合わな過ぎる。まぁそんな事を考えてる俺も自信はないけど。
そんなことを考えていると、ズンズンと音を立てながら父上と同じぐらい大柄な男性が近付いてきた。
「これはこれは!!聖騎士団のグラディオ団長殿ではありませんか!!」
「ゲバルト団長…久しぶりだな」
「聖騎士団団長殿は、『王宮勤め』の我々『近衛兵団』とは会う機会がありませんからな!今日も王子の誕生パーティの護衛任務ですからな!」
『王宮勤め』をやたら強調してるが、煽ってるつもりなのだろうか。父上は怒りでは無くウンザリした表情で溜息をついている。
近衛騎士団…小説の中にも出てきたが、国王が貧民向けの職業斡旋の政策として、武術大会を開き、優秀者には爵位を授け、それらの人間を集めて作られたのが『近衛騎士団』である。
その大会で優勝し、出場者の中で唯一『子爵』を授与され、団長となったのがこの『ゲバルト』である。
「おや?そちらはご子息ですかな?」
「は、はじめまして、トライド・ガルディオンと申します」
「これはこれはご丁寧に!『ゲバルト・ローデン』と申します!トライド様はおいくつになられますかな?」
「12歳です」
「ほぉ!ではクライン様と同い年ですか!実は私にも12歳になる息子がおりましてな!」
そういうと、ゲバルトの後ろから顔立ちは良いがやたら目つきの悪い男の子が現れた。
「息子の『ブラス』です!ほら!挨拶しなさい!」
「………ブラスです」
目も合わせず、嫌々言ってる感満載の挨拶。
「はっはっはっ!なにぶん人見知りでしてな!お許しくだされ!しかしグラディオ団長!こんなに可愛いご子息がいらっしゃるとは!!それならご家族の時間をもっと大事になさった方がよろしいのでは?」
「…何が言いたい?」
「聖騎士団のお仕事があれば、ご家族との時間も中々取れないでしょう!いっそ…聖騎士団のお仕事も、我々近衛騎士団に任せるというのは…」
近衛騎士団はどうやら聖騎士団の存在…というより、貴族そのものを敵対視しているようだ。貧民出のコンプレックスや恨みなのか。
この手の作品は貧民が正義とされがちだが、この作品の近衛騎士団は常に上流階級の人間達を挫こうと暗躍する、生粋の悪人である。
「…なるほど…それも一理あるな」
「ほう!それでは…」
「しかし、王子の誕生パーティの場で、しかも任務中に堂々と婦人を口説こうとする団員達に、我々の仕事は任せられんな」
「ふえっ?」
疑問符を浮かべるゲバルトに対し、父上はスッと彼の後方を指差す。そこには貴族令嬢をナンパする近衛兵の姿があった。
「がっ!?あ、アイツら!!す、すみませんが話はまた今度で!」
ゲバルトが焦った様子でナンパ男達の元にかけていく。後を追うブラスは、一度こちらの方に振り向き、フンッ!と機嫌悪そうに鼻を鳴らしてから走り去った。なんか嫌われる事したかな?
「はぁ…市民のご機嫌取りの為とはいえ、あのような連中を側に置くとは……」
スラム出身の荒くれ者集団。貴族になっても品性に問題があるみたいだ。
「トライド!」
「ティファル、ハイリーン」
すると、いつもよりもかなり豪華なドレス姿で二人が現れた。
小説ではハイリーンは誕生パーティには召使いのテイで連れていた為、見窄らしい格好で来ていたと書かれていたが、今はティフェルと並んでも遜色ないドレスを着ている。その姿を見て俺は少し感慨深くなった。
「なんだかアンタの燕尾服も珍しいわね?」
「着慣れないから窮屈だよ」
「でも、とっても似合ってます」
「それよりどう?このドレス?」
「うん、二人ともとっても綺麗だよ」
「そ、そんなに直球で言われると…」
「て、照れちゃいます…」
二人はモジモジしながら顔を赤らめる。貴族令嬢の割に褒められ慣れてないんだな。
「そ、それより!さっきのブラスよね!アイツ会う度に馴れ馴れしくしてくるから嫌いなのよ!!」
ブラスはティフェルの事を口説こうとしてたんだな。親が親ならって感じが。
「トライドも大丈夫?なんか言われなかった?」
「いや、別に何も?」
「なんか言われたらお父様に言いつけとくからね?」
宰相に告げ口とは、冗談では済まなそうだな。
そんなやり取りがあった後、会場内に件のドゥームさんの声が響き渡る。
「それでは本日の主役『クライン・アルベルト』第一王子のご登場です。皆様盛大な拍手でお迎え下さい」
階段の上の大きな扉が開かれると同時に、会場が歓声と拍手で包まれた。
扉から現れたのは金髪青眼の美少年、まさに全ての人が思い描く王子様像そのものだった。
さぁ、ここからが本番だ。
ティファル第一の破滅フラグ、折らせてもらう!




