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第六話 分からず屋の父親ですが事情があります


 ドゥーム卿がティフェルとハイリーンに対する接し方が変わったキッカケは、二人の母親の死が関係しているかもしれないとゲラートは言った。


「ティフェル達のお母さん…」


「トライド様はまだ幼かった故に、覚えてはいらっしゃらな…いえ、そうですね…」


 そもそも少し前からの記憶が無いからな。もう良いから泣かずに話を続けてくれゲラート。


「ブライト家先代当主であり先代聖女『マリア・ブライト』様は、聖女の名に相応しい優しくお美しいお方でした」


「マリア様が当主って事は、ドゥームさんは…」


「ブライト家は代々聖女様に婿を取らせ、その系譜を繋いで参りました。ドゥーム様は元々優秀な魔術師家系『ザウバーン家』の出で、その代の中でも特に抜群な魔法の才をお持ちでした。若くして王宮仕えの魔術師となり、宰相の座まで上り詰められた後、マリア様とご結婚されたのです」


「いわゆる…政略結婚ってやつかな?」


 俺がそう聞くと、ゲラートはクスッと含み笑いをした。


「そう思われるのも必然ですが、お二人の出会いはそれはそれはロマンチックなものでございます」



〜十二年前〜


 当時17歳のドゥームは、王宮の魔術師として王国近隣の魔物討伐に出向いていた。

 馬に跨ってあちこちを回り、数体の魔物の討伐を済ませ、改めて周りを見回した。


「この辺りにはもう気配は無いか。一旦王国に帰還し……むっ?」


 ドゥームは1キロほど離れた地点に魔物と人の気配を察知した。


「人が三人…一人は怪我をしているようだな。急ごう!」


 乗っていた馬に特殊な魔法をかけ、気配を感じた地点へ急行した。



 到着するとそこには数体のゴブリンと、一匹一際大きなゴブリンが人を取り囲んでいた。


「ゴブリンロード……ダンジョンから出てきたのか?むっ?アレは聖教会の馬車!?それにあそこに居るのは…」


 目線の先には御者と思しき青年と、耳を生やした獣人と思しき少女、その二人を守るようにゴブリンに立ち向かう聖女の姿が有った。


「何故聖女様が!?」


「はぁっ!!」


 聖女は光魔法でゴブリン達に応戦するが、数が多く苦戦している様子。

 すると、一体のゴブリンが獣人の少女に飛びかかって行った。


「あ、危ない!!」


 聖女は身を挺して獣人を守ろうとする。

 ここまでかと思ったその時、燃え盛る火球がゴブリンを焼き尽くした。


「聖女様!!」

 

「あ、あなたは…」


「お話をしている暇はありません!まずはコイツらを片付けます!」


 ドゥームが詠唱すると、地面から鋭い岩の槍が飛び出し、ゴブリン達の体を貫いた。


「グゥウォアアアアッ!!!!」


 しかし、ゴブリンロードは岩の槍をもろともせず、ドゥームに向かっていった。


「ふんっ、ロードとはいえ所詮はゴブリン。無策に突っ込んで来るとはな」


 ドゥームは既に詠唱を始めており、ゴブリンロードの頭上に暗雲が立ち込め、バチバチと雷を蓄える。


「聖女様に危害を加えたのだ。天罰が下って然るべきだろう」


 次の瞬間、ゴブリンロードに雷が落ち、筋骨隆々な巨躯が地面に叩きつけられた。



 ゴブリンを退治した後、聖女は獣人の少女の傷を癒していた。


「聖女様…何故この様な場所に?」


「王宮騎士団の方達が、この辺りで獣人の奴隷商人の馬車が襲われたと聞きまして、まだ生存者が居ないかと思い来たのです」


「奴隷の獣人…下民の為に何故そのようなことを?貴方を失えば王国は…」


 獣人の少女の傷を癒やし終えたマリアは、ゆっくりと答えた。


「人の命に聖女も獣人もありません。傷ついたのが獣人で、癒せるのが私だった…だから動いた。ただそれだけの事です」


 そう言ったマリアの横顔を見て、ドゥームは今まで感じたことの無い熱を感じた。


「おぉおおい!!聖女様!!!」


 すると遠くからガシャガシャと大きな音を立てて大柄な男がやってきた。


「グラディオ様!無事でしたか!」


「ぐ、グラディオ?何故ここに?」


「おぉ!!ドゥーム!!いやぁ聖女様が獣人を助けに行きたいと言われたのだが、国王様に止められてなぁ!!どうにか出来ないかと相談されたから俺が内緒で同行する事にしたんだ!!」


「なっ!?何を勝手に!!」


「しかし、ゴブリンの集団と戦っている最中に鳥獣に捕まって連れて行かれてなぁ!!なんとか抜け出して来た所なんだ!!」


「お前…そのせいで聖女様に危害が及ぶ所だったんだぞ!!」


「そ、それはすまん…」


 小さくなるグラディオを見て溜め息を漏らすドゥーム。


「全く…さぁ、早く後始末をするぞ。長引いたら誤魔化すのも難しくなる」


「だ、黙っていてくれるのか!?」


「面倒に巻き込まれるのはゴメンだ!」


「ありがとうドゥーム!!」


 ワチャワチャする二人を見てマリアはクスッと笑みを浮かべる。


「素直じゃ無い方ですね…」





「…と、この出会いの後、お二人は恋仲となったと旦那様が申しておりました」


「これ父上から聞いた話なの!?」


「旦那様はドゥームさまから幾度となく恋愛相談を受けたそうです。まぁ、大して役に立つお話は出来なかったそうですが」


「息子が言うのもなんだけど、何故よりにもよって父上に…」


「当時のドゥーム様は『冷血の魔術師』と言われていた様で、まともに世間話が出来るのは旦那様くらいしかいらっしゃらなかったそうな」


「お、お父様…」


 自分の父親の赤裸々エピソードの数々で、既にティフェルのライフポイントはゼロに近いようだ。


「その後、結婚した後に二人の御息女が生まれた翌年、重い病によって…」


「その病って、光魔法では…」


「病の進行が早く、既にマリア様の光魔法も効力を失いかけていらっしゃいました」


 全ての人を癒す聖女が、自分を癒す事が出来ずに最期を迎えるとは…なんとも言えない話だな。


「聖女様が居なくなってからこの国は大丈夫だったの?」


「覚醒はしていませんが、既にティフェル様かハイリーン様に光魔法の資質が受け継がれております故、王国に飢饉や魔物の心配はありませんでした。しかし、聖女様が亡くなってから、ドゥーム様はどこか変わってしまわれたように思えます。次期聖女の教育の為とはいえ、あまりに厳しいというか…」


 奥さんの死がドゥームさんの心境にどんな変化を及ぼしたのか。それを確認する為にも…


「ブライト家に行こう」


「今からですか?話の流れからして、トライド様は門前払いかと…」


「その時はその時だよ。とにかくハイリーンの事が心配だ」


「トライド…ありがとう」


 俺はティフェルの馬車に乗り、ブライト家へと向かった。

 屋敷の入り口に到着すると、門番が出迎えた。


「お帰りなさいませ…と、トライド様!どうして?」


「突然すみません」


「お父様は!?」


「先程入れ違いでガルディオン家へと向かわれましたが…」


 例の件で父上に抗議でもするつもりか…だけど都合がいいかもしれない。俺はティフェルに目配せすると、ティフェルは頷いて門番に話した。


「ねぇ、トライドが来た事はお父様には内緒にしてくれない?」


「えっ!?し、しかし…」


「お願い!!」


 ティフェルの懇願に困った表情を浮かべる門番。


「…わ、私は何も見ていません」


「ありがとうございます!」


 俺とティフェルはハイリーンの居る部屋へと向かい、二人で勢いよく扉を開けた。


「ハイリーン!!!」


「お姉様と…トライド兄様!?」


「ハイリーン…ごめんよ。僕らのせいで…」


「トライド兄様は悪く無いです!私が本を落とさなければ…」


「とにかくここを出ましょう!!」


「えっ?出てどうするのさ!?」


「と、とりあえずガルディオン家に匿ってもらって…」


「いや!別にハイリーンを家出させる為に来た訳じゃ無いよ!」


「そうなの!?でもこれからどうする…」


 そんな話をしていると、なんとドゥームさんが戻ってきて部屋の前にやって来た。


「なっ!?トライド君!?」


「ドゥームさん…こ、こんにちは…」


「こんな所で何を…まさかハイリーンを連れ出すつもりか!!」


「ち、違いま…」


 するとドゥームさんはとんでもない剣幕で怒鳴り始めた。


「勝手な事をするな!!ハイリーンはここに居れば良いんだ!!」


 ドゥームさんの様子と言葉に対し、俺は疑問を投げかけた。


「どうしてそこまでハイリーンを閉じ込めるんですか?貴族としてのメンツの為ですか?」


 僕の言葉にドゥームさんは更に激昂した。


「子供のくせに…わかったような口を聞くんじゃ無い!!!」


「自分の子供以上に守る物があるんですか!?貴族のプライドがそんなに大事ですか!?なんで…なんでハイリーンを邪魔者にするんですか!?」


 ドゥームさんは怒りに打ち震えているようだった。


「お前に……お前に何がわかる!!!お前に私の……私と()()の何が!!!」


 アイツ?一体誰の事だ?そんな事を考えている間にドゥームさんが俺に掴みかかろうとしてきた。

 事情も知らず申し訳ないが、ここは上手い事制圧して…と考えていたその時。


「ドゥームゥゥゥゥ!!!!!!私の息子に何をするつもりだぁああ!!!!!!!」


 突然現れた父上がダイナミックなドロップキックをドゥームさんに喰らわせ、ドゥームさんは壁にめり込むほど吹き飛ばされた。


「ち、父上!?」


「トライドォ!!!無事かぁ!?」


「ぼ、僕は大丈夫…というか父上…その…」


 泣きながら俺の肩を握る父上の後ろから禍々しいオーラを感じた。


「あなた?何をしてるの?」


「ふ、フロイル!?い、いやコレは…」


「ドゥーム公爵様になんて事しているんですか!!!!」


「ち、違うんだ!!ゆ、ゆるしてくれぇええ!!!!!」


 父上の悲鳴は、遠く離れた魔獣の森にまで届いたらしい。




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