第十六話 ムカつく王子ですが必ず助けます
〜西の山の洞窟 盗賊のアジト〜
「けっ!!家出した王子を捕まえてラッキーと思ったら、コイツ王位継承権奪われてやんの!!」
「完全に見捨てる気満々じゃねぇか!!王家も随分薄情なもんだよなぁ!」
「まぁ、顔はそれなりに整ってるからな。どっか遠方の変態親父にでも売りつけて金にすっか!!」
「…………」
クラインは黙ったまま、これまでの愚行を省みていた。
(そうだ…僕には元々王になる資格なんて無かった…王家の誇りである火魔法の才能も、叔父上の様な剣技も
何も無いくせに、王位継承権一位だなんて…周りからすれば邪魔以外の何者でも無いよな……それに…あれだけ横暴を働いておいて…誰かが慕ってくれるはずも無い……いっそ僕なんて…居なくなった方がいいんだ……だけど…どうせ消えてしまうならその前に、ティフェル嬢とハイリーン嬢に謝りたかった…それに、トライドとブラスにも酷い事を言ってしまった……最後の最後まで…僕は……誰にも……)
「王子…クライン王子ぃ!!!」
「…トライド?…」
「な、なんだコイツら!!?」
その時、洞窟内に筋骨隆々の男達が流れ込んで来た。
「ゆけぇえ!!!盗賊共を一人残らず撃ち倒せぇええ!!!!」
「「「「押忍っ!!!!」」」」
「や、やべぇぞ!!早く逃げぶべらぁあ!!?!」
シュタルクさんの指揮の元、突進するシュタルク軍団に轢かれ、吹き飛ばされる盗賊達。
「な、なんだこれ……」
「王子っ!!!」
俺とブラスは突進するマッチョ集団の上から飛び降り、檻に閉じ込められたクラインの元に向かう。
「大丈夫かっ!?」
「なんで……」
「今出しますからね!…鍵は何処に?」
「知るか。取り敢えずぶっ壊すか?」
「いや無理でしょ…シュタルク軍団の脳筋がうつったか?」
「そんな訳無い…とも言い切れない」
「どうしてお前達!?」
「事情は後で!とにかく鍵…何処かに」
「本当に壊せないか?」
「お前達………おっ!?おいっ!!」
クラインの声に反応して振り向くと、そこには大柄な盗賊が居た。
「あっ…ヤバいかも」
「奥で少し休んでる間に何が起こったと思えば……ガキが忍び込みやがったか…おいっ!!!」
男の声が悲しく洞窟内でこだまする。
「おいっ!!!誰もいねぇのかよ!!?」
「多分…盗賊の頭領?」
「恐らくな」
「まぁ良い…ガキはさっさとおねんねしとけや!!!」
男は手に持っていた大斧を振り下ろす。
「ふんっ!!!!!」
「こ、このガキ!?」
ブラスはその脅威的なパワーを用いて、剣で斧を受け止めた。
「流石ブラス!!そして……シィっ!!!」
「ガバァッ!!!?」
隙だらけの脇腹にフックを叩き込むと、男は体を屈め、こどもの体でも届く所まで顎が降りて来た。
「もらったぁ!!!!!」
「アバァッ!!!!…ガッ…」
男の顎に渾身のフックを決めると、そのまま地に伏せた。
こどもの体でこの巨体が倒せたのは、身体強化のお陰もありそうだ。
「ふぅっ……おっ!コイツ鍵持ってる!」
「檻の鍵みたいだな…よし、開けるぞ」
無事に鍵を使って檻を開け、クラインは外に出た。
「怪我はありませんか?」
「どうしてお前達…ここに…」
「……前にも言っただろ。同じ訓練を受け、同じ釜の飯を食った仲だ。放ってはおけない」
「あっ、結局それ言うんだね?」
「黙れ……」
「お前達……」
すると、俺とブラスの後方で物音が聞こえた。
「ガキが…ふざけんなぁああ!!!!!!!」
倒したと思った頭領が目を覚ましてしまった。
反撃が間に合わない…そう思ったその時。
「『ウォーターバレット』!!」
「あべらぁっ!!?!!?!」
クラインが水魔法を放ち、土手っ腹に食らった頭領はそのまま洞窟の壁に叩きつけられ、再び意識を失った。
「すげぇ…」
「初級魔法のウォーターバレットでここまでとは……お前凄いんだな?」
「水魔法は鍛錬し続けたからな……まぁ、無意味な事だが」
「そんな事は無いです!凄いじゃ無いですか!」
「見直したぞ」
「そ、そうか…って!お前王位継承権が無いとはいえ、僕は王子だぞ!?なんだその言葉遣いは!!」
「こっちはまともな教養が無いんだ、我慢しろ」
「なんだその理論は!?」
「おぉおい!!!!」
すると、先に行っていたシュタルク一同が戻って来た。
「すまんすまん!!お前を見逃して洞窟の奥の奥まで突っ込んでしまったわ!!」
「お、叔父上………僕…」
するとシュタルクは黙ってクラインを抱きしめた。
「何も言うな…兎に角無事で良かった」
「叔父上…」
「なんだ?」
「…し、しぬ……」
「おっと、思わず3割の力で抱きしめたしまったわ!」
全力出してたらクラインの命は無かったな。
シュタルクさんはクラインは離し、クラインの話を聞いた。
「ぼ、僕は叔父上に迷惑をかけている……訓練も投げ出した…それなのに…」
「何を言っている!どんな事があろうと、家族の危機に駆け付けない訳がないだろう!」
「ですが…父上は…」
「あの腰抜けは今頃、後悔の念に苛まれておるだろう」
「…でも…私には…王家の資格が……」
「……噂をすれば、馬鹿どもが今更来おったわ」
洞窟内に大人数の足音と、鎧の擦れる音が響き渡る。
「王子ぃい!!!!ご無事ですかぁああ!!!!!」
大群の中で一際勢いよく父上が走り込んで来た。
すると、シュタルクさんがすかさず父上の前に立った。
「こんの馬鹿者めがあぁああ!!!!!」
「ぶはぁあ!!!?!!!!!!?!!!」
シュタルクさんの拳が父上の顔面にめり込んだかと思ったら、いつ間にか地面に倒れ込んでいた。
「ち、父上っ!?」
「国の第一王子の危機だと言うのに!馳せ参じないとは何事だぁっ!!!!」
「も、申し訳ありません!!!我々も訓練中に寝耳に水で国王からの要請があった為!到着が遅れてしまいました!!!」
「言い訳など聞きたくないわ!!罰として空気椅子!!始めっ!!!」
「押忍っ!!!!」
有無を言わせずに父上に空気椅子をさせる様子を見て、シュタルク軍団の恐ろしさを感じ、若干引いた。
「ち、父上が……助けを……」
「だから言ったであろう。家族を思わぬ家族は居ない。さぁ、顔を見せて安心させてやれ」
「さぁ、行きましょう!」
「立てるか?」
俺とブラスが肩を貸してクラインを立たせ、洞窟の外まで一緒に歩くと、そこには豪奢な馬車が停まっていた。
扉が開くと中から国王が出て来て、一目散にクラインの元に駆け寄り、優しくクラインを抱きしめた。
「遅くなってすまなかった……無事で良かった…」
「父上…」
「本当にすまない……私が間違っていた……国を守る為、王家の為と言って、まず全うすべき父としての本分を忘れ、お前と向き合うこともせず、こんな事に……馬鹿な父を許してくれ……」
クラインに向かって首を垂れる国王の目から、一筋の涙が落ちた。
「謝らないで下さい父上っ!王家の才を持たずに生まれただけでなく!継承権一位の座に胡座をかき!横暴を働いた私の愚行が招いた結果なのです!!謝らなければならないのは私の方です!!」
「クライン……私よりも…ずっと立派になった…」
「父上っ!!!」
「アイツ、あんなにまともな事言う奴だったか?」
「ブラスっ!しっ!」
泣きながら抱き合う親子に、水を刺してはいけない。
「兄上、此度は本当にすまなかった…兄上の拳骨が無ければ、私は大きく道を踏み外す所でした」
「気づける事が重要。しかし、次があった場合は、拳骨では済まないと思え」
「肝に銘じます」
「トライド…ブラス…昨日の夜は酷い事を言ってすまなかった…」
「クライン王子…」
「昨日の夜?なんて言った?俺は寝ぼけてて覚えてないな」
「バリバリに一人で鍛錬しておいて、寝ぼけてたは無理あるんじゃ?」
「寝ぼけながら鍛錬してたんだ」
「……ぶはっ!なんだそれ!」
暗くなっていたクラインの表情が、少し明るくなった。
その後、クラインは国王と共に王城に戻り、俺とブラスはシュタルク邸に戻り(父上が最後まで俺を連れ帰ろうとしたが、シュタルクさんにねじ伏せられた)、俺とブラスの二人で再び鍛錬の日々が始まる……と思ったんだけど…
「ふっ…ふっ…ふっ…」
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
「へぁっ!…へぇっ!…うぇっ!…」
「クライン!!だらしが無いぞ!!走り込みはもっと姿勢を正せ!!」
「ふぁ、ふぁいっ!……」
何故かクラインはまた訓練に戻って来ていた。
訓練を終えてクラインは地面に大の字になる。
「し、死ぬ……」
「あ、あのぉ…王子?」
「な、なんだ…はぁっ…少し……はぁっ…休ませてくれ……」
「なんでお前ここに居るんだ?」
「ブラス……」
「僕は……はぁっ…王位継承を……はぁっ……辞退した」
「えぇっ!!?」
あまりの衝撃に俺は大声を上げ、ブラスは背中に雷が落ちた様だった。
「やはり……僕よりも…優しくて……火魔法も得意な点…ルーイッヒの方が王に向いていると思った…」
「だけど…それなら王子は…」
「だけど…ルーイッヒは優しすぎる……腐ることもなければ……人を疑いもしない……だから……武門でも…学問でも…なんでもいいから…ルーイッヒの……王国のために働ける男になりたい……これは……言わば僕の愚行の贖罪だ…」
「王子……」
「なんでも良いが早く起きろ。腹が減った」
「ブラス……」
スラムで育つと空気も読まなくなるのか?流石に暴論か。
「た、立てない……」
「トライド、そっち持て」
「またこうなるのか…」
「………不覚…」




