第十五話 恵まれた家系ですが悩みはあります
クラインの脱走から一夜明けて、訓練所には未だクラインの姿は無かった。
「全く…あの愚か者め!訓練を投げ出して逃げるとは!……しかし、訓練を取りやめるわけにもいかん。お前達二人は、昨日と同じように訓練に励んでくれ!」
言われるがまま訓練には取り組むが、頭の中の片隅にはクラインの事を心配する気持ちが残っていた。
俺は走り込みをしながらブラスに話しかける。
「なぁ…王子は大丈夫かな?結局帰ってこなかったけど…」
「さぁな…」
無関心な物言いだが、どこか上の空のようでもあった。
(才能も生まれも!!最初から決められてるんだよ!!それを覆すなんて出来ないんだよ!!!!)
クラインが悲しげに言い捨てたこの言葉が、俺には漠然と気になっていた。
「そういえば、シュタルク様お抱えの兵士が少ないように見えるけど…」
「なんでも訓練の一環で山籠りをさせられてるらしい。『一人一頭ワイバーンを仕留めるまで戻るな』って」
シュタルクさんは通常運転みたいだな。
訓練を終えて風呂に入り、前日同様ブラスと一緒にマッチョ軍団と味の無い鶏肉を食べていた。
「昨日は水しか渡せず申し訳ないっす!!!!」
「い、いえ、大丈夫ですから」
「今日は特別にコレ!用意してもらったっす!!!」
「なんでしょうか?」
「お茶っす!!!!!」
「……………」
「隣に座らせてもらうぞ」
シュタルクさんが俺の隣に座り、肉を貪り始めた。
「…シュタルク様、クライン王子の事なんですが…」
「あの愚か者がどうかしたか?」
「実は、ココを逃げ出す前に王子とお話をしたんですが、どうにも王子は出自や才能に対して固執していると言うか…それでいて悲しまれているような…」
シュタルクさんは食事の手を止め、考え込んだ後に口を開いた。
「トライドは、アルベルト家の『魔法』については知っているか?」
「えっ?確か…『火魔法』に長けた家系で、家紋にも炎の紋様が……あれ?」
そう言えば、クラインが癇癪を起こして乱発したのは『水魔法』だった筈…
「そうだ、クラインが得意とするのは『水魔法』…というより、水魔法以外使えないのだ」
「えっ?…」
「幼少よりあの子はその事を大層気にしていてな。かも火魔法と水魔法は正反対の属性、周りの大人は王位継承第一位と言う立場もあって言葉にはしないものの、あからさまにあの子を蔑んだ目で見ていた。それが原因で、あの子は自分を馬鹿にする大人達に対し、権力を行使して無理矢理黙らせる事を覚えてしまい、今の横暴なあの子になってしまった…」
「なってしまった?…」
「元は素直で良い子だった。水魔法の才しか無いと知ったその日から、周りを見返そうと必死に得意な水魔法を磨き、苦手な剣も、使えない火魔法もなんとか習得しようと死に物狂いだった…しかし、父親や大人達の評価が変わる事は無く、あの子は段々と腐ってしまったのだ…」
クラインにそんな過去があったとは知らなかった。
もしかしたらアイツは、この世界で一番俺と似た境遇なのかもしれない。
そんな事を考えていると、突然食堂のドアが思い切り開かれ、マッチョが飛び込んで来た。
「申し上げます!西の山の洞窟にて、クライン王子らしき子供が盗賊に捕まっているとの情報が入りました!!」
「なんだと!?」
机を叩いて立ち上がるシュタルクさん。
「シュタルク様はクライン王子を探していたんだ…」
「軍団の山籠りは方便だったか」
「ダルバスには伝えているのか!?」
「押忍っ!!ですが……」
その後の言葉を聞いたシュタルクさんは、鬼の形相で屋敷を飛び出した。
〜アルベルト王城 玉座の間〜
「ダルバァアアアス!!!!!!!!」
「あ、兄上?」
シュタルクはダルバス王の座る玉座まで一直線に歩く。
「シュタルク殿!止まって…と、とま、とまって!あぁあ!!!」
近衛兵やドゥームの制止も振り切り、そのままダルバス王の前に立ったと思えば、全身全霊の右拳をダルバス王に喰らわせた。
「グボォオッ!!!!!?!!?!」
「国王!?」
「シュタルク様!?ご乱心召されたか!?」
「黙れドゥーム!!!!お前、この馬鹿が何をしたかわかっているのか!?」
「なんの事ですか?…」
「ダルバスよ!盗賊に捕まったクラインの救助も向かわせず、王位継承権を第二王子のルーイッヒに渡すとはどう言う事だ!!!」
「なんだって!?国王!そんな話は私も聞いておりません!」
しばらく黙っていたダルバス王は、ゆっくりと口を開いた。
「最早、クラインの助かる見込みは無いと考え、王位をルーイッヒに移したに過ぎない事。何も間違った判断ではありません」
「クラインはまだ生きているのだぞ!!!盗賊など、グラディオ達を向かわせれば造作も無い…」
「わかってくだされ兄上!!!……クラインには元々火魔法も…剣技も…王の資質も無かった。最近では貴族界隈での評判も悪くなった。それなのに、王家の第一子継承権一位というしきたりによって守られてきた…だから…」
「だから、これでクラインを消せるとでも考えたか。煩わしい問題が消えるとでも思ったか!!」
何も言えなくなったダルバスに背を向け、シュタルクは言った。
「あの子に王の資質が無いのであれば…………貴様は国王としても……父親としても失格だ」
ダルバスを一瞥し、そのままシュタルクは立ち去った。
屋敷の扉が勢いよく開き、いつもの大きな声が響いた。
「貴様らぁああ!!!!出陣のじゅん……」
「離して下さい!!僕らだけでも!!!」
「離せ筋肉ダルマ!!!」
「落ち着いて下さい!!シュタルク様の許可無しにそんな事は!!」
「な、なんだ?何があった?」
「じ、実は、シュタルク様が屋敷を出られた後、トライド様とブラス様がクライン王子を助けに行くと聞かなくて…」
「あんな話を聞かされて…ほったらかしになんてしたら胸糞悪いわ!」
「そんな言い方するなよ!同じ訓練をして、同じ釜の飯を食った仲間だろ?」
「おい!それイジるなよ!」
「とにかくシュタルク様!行かせて下さい!!」
シュタルクは難しい顔で答えた。
「お前達はまだ未熟なひよっこだ。本当の殺し合いの場に連れて行く訳にはいかん…」
「そんな…」
すこし考えた後、シュタルクさんはとぼけた顔で言った。
「…しかし!子供を守りながら戦うというのも、良い鍛錬になるかもなぁ…」
シュタルクさんがニヤリと笑い、俺とブラスは顔を見合わせた。
「お前達!!これより盗賊の討伐と、クライン王子の奪還に向かうが!同行するトライド、ブラスに傷一つ付けて帰さない!これを、本日の鍛錬とする!!いいな!!!」
「「「「「押忍っ!!」」」」」
こうして俺達は、クライン王子の救助に向かう事になった。




