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第十三話 鬼のシゴキですがやって見せます

 

 クラインとの試合の後、俺は応接間で父上とシュタルクさんと話し合っていた。


「そんな事が……トライド、少しやり過ぎじゃないか?」


「ごめんなさい…」


「トライドを責めるな。多少焚き付けたとは言え、あの馬鹿の至らなさが原因だ」


「まぁ…しかし、王族の権力で聖女をすり替えようとは…」


「甘やかされた弊害だろうに、アルバスにも困ったものだ。あの様な馬鹿を育てた上に、国民のご機嫌取りであんなゴロつき達を近衛兵にして、結果自慢の馬鹿息子を危険に晒すとはな」


 二人は物憂げにため息をこぼした。


 そう言えば、あの後ゲバルトや近衛騎士団はどうなったのだろう?


「事件の後、ゲバルトと事件に関与していた団員達は投獄されましたが、どの様な沙汰となりますでしょうか?」


「馬鹿息子とはいえ王族を殺そうとしたのだ。首謀者のゲバルトは極刑は免がれ無いだろう。ただ…」


「なんでしょうか?」


「彼奴が妙な事を言っておってなぁ…『自分は殺していない、殺そうとしたが殺した記憶が無い』とな」


 やっぱりゲバルトはあの時気を失ってたんだろう。じゃあ、あの魔法はゲバルトのものじゃ無い…としたら一体誰が?


「して、それ以外の団員は?」


「私の配下にした。喧嘩しかしてこなかったゴロつきどもに、騎士道のなんたるかを教えている最中だ」


 『新兵歓迎地獄メニュー』な事だろうか?内容が気になる。


「近い内に我が軍団も更なる拡大が望めるだろう。さすれば以前上がっていた聖騎士団と近衛兵団の統合も必要なかろう」


「まぁ、私としては、管理する苦労が無くなって助かりますが、あのシゴキにスラム上がりの彼らが耐え切れるとは…」


「『耐え切れるか』では無い。『耐え切らせる』のだ」


 なんかとっても恐ろしい言葉に聞こえる。


 ちなみに、父上は聖騎士団長になる前、聖騎士団とシュタルク軍団を掛け持ちしていた事があり、詳しくわ知らないけど10回以上死にかけたらしく、その度にティフェル達のお母さんに治してもらっていたそうな。


「それにしてもトライド、お前クラインと対峙してた時に剣を置いていた様に見えたが?」


「あぁ…実は僕、剣よりも素手の方が戦いやすくて…」


「トライドっ!!それは…」


「なにっ?剣よりも素手が良いと……」


 もしかして、マズイ事を言ったかな?剣に生きてきたシュタルクさんの前で剣を捨てたとあれば、「情け無いっ!!」と叱られるかも…


「いや、そのぉ…」


「シュタルク殿、落ち着いて…」


 俯いているシュタルクさんのオーラで、辺りの大気が揺れている。


「それは……………なんとも面白いっ!!!!!」


「へっ?」


「あの馬鹿の未熟な剣とは言え、徒手空拳が王宮剣術に勝るとは!!実に面白いぞトライド!!お前の力の真価を見たくなったぞ!!おいっ!!!」


「「「「押忍っ!!!」」」」


 再びマッチョ連中が現れた。


「トライドを連れて訓練所に戻るぞ!!『シュタルク愛の特別メニュー』で行くぞ!!!」


「「「「押忍っ!!!」」」」


「え、それ何、いやちょ、父上!!父上ぇええええ!!!!!」


「シュタルク殿!!お許しを!!!というか話し合いはぁあ!!!?!!!?!」


 シュタルク軍団に担ぎ上げられ、あっという間に家の外に連れ出され、父上の声は聞こえなくなった。





 何が何だかわからないまま、俺はいつのまにか修練場に立たされて居る。

 遠くの方では、野太い男達の叫び声が聞こえてくる。

 

 声のする方を見ると、分厚い鎧を着てランニングをする筋骨隆々な男達と、同じく分厚い鎧を着てはいるが、滝の汗を流しながらヘロヘロになり、青ざめた顔でマッチョ達を追いかける男達の姿が有った。


「貴様ら!!まだまだへばっている場合では無いぞ!!根性の無い奴は、追加50周だ!!!」


「お……おぉす………ぜぇ…ぜぇ…おえっ!」


「吐くな!!!吐いたら追加100周だぞ!!!!」


「い……いっそ…殺してくれ……」


 現代の日本では完全アウトなスパルタが繰り広げられている。


「シュタルク様、あれは?」


「うちの者達に、元近衛兵の新人達を鍛えさせている所だ。おい!!走り込みが終わったら『新兵歓迎地獄メニュー』を始めるからな!!」


 既に子供が見たらトラウマレベルの地獄が広がっているというのに、まだ始まっていないとは驚きだ。

 現に俺の隣でトラウマになりかけている男が一人いる。


「な、なんで僕が…こんな…地獄に……」


 先程まで伸びていた筈のクラインが、蹲って震えていた。


「お前のせいだぞトライド!!!」


「いやぁ…そう言われましても…」


 半泣きで俺に食ってかかるクラインの姿に一抹の罪悪感を覚えたが、それ以上に気になる事が。

 クラインの向こうにもう一人姿が有った。元近衛兵団長ゲバルトの息子『ブラス』だった。

 ブラスは相変わらずの無愛想で、周りの事も気にせずシャンと立っていた。

 何故ここに居るのか聞きたいが、機嫌が悪いんだから何を考えてるんだかわからないからやめておいた。


「これより、お前達3人は『シュタルク愛の新兵歓迎地獄メニュー初級編』に参加してもらう!」


 やたらと長いタイトルだが、要するにここでの訓練メニューは一つしか存在しないようだ。

 

「お前達はまだ若い故、基本のランニングはコレを着てやってもらう」


 用意されているのは大人達が来ている分厚い鎧よりかは薄いプレートアーマー。

 子供だから控えめなのだろうが、走るのが億劫になるくらいには充分重い。


「取り敢えず修練場を軽く10周しておこう」


 俺達は言われるがままにアーマーを身につけ(クラインは最後までゴネて、シュタルク軍団に無理矢理着させられた)、学校の校庭くらいの広さの修練場を走り始めた。


「ゼェ…ゼェ…な、なんで…僕が…」


 早くもへばり始めたクラインだったが、一方の俺は良いペースで走れていた。


「ほぉ…流石はトライドだな」


 実は、普段の訓練以外にも、夜にこっそり屋敷を抜け出してランニングを続けていた為、体力にはだいぶ自信がある。


 しかし、後ろを走っていたブラスが突然俺を抜き去って行った。


「アイツも中々根性が有るな…しかし…」


 折り返しを過ぎた辺りで、ブラスの息が途端に上がり始めていた。


「はぁ…はぁ…はぁ……」


 ブラスのペースが落ちて行くが、俺は一定のペースをキープし、ジワジワと追いつく。


「くそっ…くそっ!…」


 そして、遂に俺はブラスを追い越し、一番前に出た。


 最終的に俺はブラスに一周差をつけて10周周り終え、少ししてからブラスも10周終えて、地面に寝転んだ。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


 ブラスはあからさまに俺を抜こうとしてペースを上げた。明確に俺に対して対抗意識を持っている証拠だろう。

 やはり、自分の父親の仕事を奪った男の息子だから、恨みを持っているんだろうか。

 気にはなるが聞ける雰囲気では無く、只々ヘロヘロになりながら走るクラインが10周走り終えるまで眺めていた。


「ハァッ!…ハァッ!…し、死ぬ…」


「だらしないぞクライン!さぁ!次は打ち込みだ!!」


 俺達は並べられた人形に向かって剣を打ち込んだ。


「へぇっ…へぇっ…」


「腰が入っとらん!!!」


 既にHP0のクラインは、打てど響かずといった様子だが、それに引き換えブラスは中々の迫力だ。

 ブラスが打ち込む度にドスッ!ドスッ!と力強い音が聞こえる。

 剣のパワーは俺では勝負になりそうも無い、そう思っていると、シュタルクさんが話しかけてきた。


「どうしたトライド?お前の本領はそれでは無かろう」


「えっ?あ、はい…」


 シュタルクさんはとにかく俺のパンチがみたい様だ。


 俺は木剣を置き、拳を固めた。


『バシンッ!!バシッ!!バシィン!!』


 やはり剣よりもしっくりくる。


「ほぅ…木剣よりも重い一撃…」


 シュタルクさんが興味深そうに俺を見るが、何故かブラスも俺をジッと見ている。

 本当に何を考えているかわからない。


「さて、次は模擬戦だが、我が甥はもう限界の様だ。トライドとブラスの模擬戦と行こうか」


 日陰で気絶しているクラインをよそに、俺とブラスの模擬戦が始まる。


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