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第十二話 王子相手ですが絶対に勝ちます


 ガルディオン邸中庭で俺は今、第一王子のクラインと木剣を向き合わせている。


「約束通り、僕が勝ったら二度とティフェルと顔を合わせない…いいな?」


「えぇ、勿論です」


「ふんっ!!余裕そうな表情が腹立たしい…僕は王宮剣術の免許皆伝だぞ!!」


「存じております。王子の腕前、存分に振るってくださいませ」


「貴様……そのスカした顔をギタギタにしてやるぅ!!!!」


 相変わらず口上が典型的というか…まぁ、物語の登場人物だしな。

 

 王子の剣筋は確かに綺麗でしっかりと練習しているのはわかる。だけど…


「くっ!このっ!!このぉっ!!!」


 一振り、二振り、何度切りつけても俺に剣は当たらない。

 王宮仕込みの剣術はあまりに綺麗すぎて、剣筋が読みやすい。

 これで師範から一本取ったとは考えずらいが、恐らく王子相手という事で忖度が働いたのだろう。


「なんでっ!!なんで当たらないっ!!!チョコマカ動くなっ!!!」


「いや、これ試合ですから…避けるのは当たり前でしょ」


「うるさいっ!!!!!」


 クラインが思い切り踏み込んで来たところで、俺が躱すとクラインは前のめりに倒れた。


「ぐあっ!!?!」


 俺は倒れたクラインの首に剣先を向けた。


「勝負ありですね」


 正直、以前の俺だったら負けていただろうが、父上が根気よく剣術を教えてくれ、ティフェルという強大なライバルが居てくれたお陰で、この程度の相手にはもう負けない。

 父上やティフェルと比べれば、クラインは月とスッポンの実力だった。


 勝負がついたと思ったその時、クラインはブルブルと震え、起き上がりざまに俺の剣を弾いた。


「うあぁあああぁ!!!!!!!!!」


 クラインは怒りに任せて剣を振り回すが、大振りなせいでどれも容易く避けられる物だった。

 俺はクラインが剣を上段に振り上げたところで、剣先を喉仏に突き立てた。


「ひぃっ!!?」


 半狂乱だったクラインも、危険を察知して動きを無理矢理止め、その結果尻餅をついてしまった。


「流石にもうやめにしましょう、王子」


 見守っていたクラインの付き人達が、クラインの元に駆け寄ろうとしたその時、クラインの手元が激しく輝き出した。


「っ!?やめろっ!!!」


 クラインの手元から水のレーザーが放たれ、俺の真横を通り抜けた。


「この僕をここまでコケにするなんて……でも、ここからが本番だ……手加減無しで……ギッタギタにしてやるっ!!!!」


 クラインは辺り構わず水魔法を撃ちまくった。


「危ないっ!!!」

 

 その内の一発がクラインのメイドに当たりそうになった為、俺はメイドに飛びかかり共に地面に倒れ込んだ。


「お怪我は!?」


「は、はい…申し訳ありません!私のような使用人を…」


「危険が及べば立場など関係ありません」


「勿体なきお言葉…」


 自分の付き人もお構い無しにやるとは…流石におイタが過ぎるな。


「…王子が手加減無しで行くと言うなら…こちらもそうさせていただきます」


 俺は木剣を捨て、拳を構えた。


「剣を捨てるとは……負けを認めたかぁ!!!!!」


 俺はクラインの撃つ水の乱射をステップで躱し、クラインににじり寄って行く。


「くうっ!?このっ!!このっ!!!」


 俺はどんどんクラインに近づき、ついに拳の射程範囲に入り、クラインを睨みつけた。


「ひぃっ!!?!!?!」


「いい加減にしろ…このボンクラ」


 俺はクラインの顔面に思い切り右ストレートを打ち込んだ。


「ふぐぅっ!!?!」


 クラインは後方に転げ、大の字に倒れた。

 彼の所業のせいか、付き人は誰1人としてクラインの元に向かわなかった。


「……ざけるな……」


 クラインはゆっくりと体を起こす。モロにあの一撃を喰らって起きられるとは、意外と頑丈だな。


「ふざけるなっ!!僕は王子だぞっ!!僕にこんな事をして、タダで済むと思うなよ!!ガルディオン家は即刻取り潰しだっ!!!!」


「そこまでだクライン」


 流石にやり過ぎたか、と少し反省していたその時、初老の男性の声が聞こえてきた。


「誰だ!!僕に意見………………お、お、伯父上…」


「えっ…シュタルク宰相!?」


 そこに居たのは、父上と同等、若しくはそれ以上に筋骨隆々な男性、現国王ダルバス・アルベルトの兄、『シュタルク・アルベルト』宰相。

 ドゥームさんと同じ宰相と言う立場ではあるが、国王の兄という事と、本人の剛腕ぶりから、国王と同等に扱われる王国の重鎮。


「ど、どうして…伯父上が…」


「今後の軍事体制について、グラディオと話があってな」


 政治経済を管理するドゥームさんとは別で、シュタルクさんは軍の管理や国防をメインの仕事としている。


「たまたまクラインが居るからと様子を見に来てみれば…なんたる所業だ!!!」


「ひぃっ!?で、ですが伯父上!この者が僕に酷い仕打ちを!!」


「全て付き人達から聞いておる!!取り決めた約束を反故にした上、癇癪を起こして暴れるとは…」


「そ、それは…」


「そもそも、お前が聖女となったハイリーン嬢を気に入らんと散々罵った挙句、その姉のティフェル嬢に惚けて王族の権力で聖女に仕立てるつもりだったそうな!!」


「ち、違うんですっ!!!」


 シュタルクさんは王族でありながら、自らに苦行を課して武を納め、騎士道を極めた達人。

 曲がった事を何よりも嫌い、それは王族の身内であっても関係無しである。


「この事はアルバスに報告するっ!!王位継承にも影響すると思えっ!!」


「そんなぁっ!!!」


「問答無用っ!!おいっ!!」


「「「「押忍っ!!」」」」


 シュタルクさんの後ろから、コレまたガタイの良い男達が現れた。

 彼らはシュタルクさんが個人で率い、訓練をしている騎士団、通称『シュタルク軍団』である。


「な、なんだお前ら!?」


「コイツを連れて訓練所に行けっ!!『新兵歓迎地獄メニュー』でみっちりしごいてやれ!!」


「「「「押忍っ!!」」」」


「は、離せっ!!離せぇえええ!!!!」


 軍団に連れられ、クラインはあっという間にその場から消えてしまった。


「全く…我が甥ながら情けない!!」


「あのぉ……」


「おぉトライド!!久しいなぁ!!!」


 シュタルクさんは俺の顔を見るなり、両脇を抱えてたかいたかいをし始めた。


「ちょ、ちょっとシュタルク様!!おやめ下さい!!」


「何を恥ずかしがっておる!!幼き頃はよくやったであろう!!!」


 実は俺は父上の仕事柄、シュタルクさんとはちょくちょく会っていた。

 シュタルクさんは未婚の為子供がおらず、そのせいか俺の事を実の息子のように可愛がってくれる。


「いや、恥ずかしいわけでは…そ、それよりっ!クライン様にあんな事をしてしまい…」


「なんだ、そんな事気にするな!合意の上での立ち合い。しかも、先に約束を破ったのはあの馬鹿だ!お前は何も悪くないぞ!!」


「シュタルク殿!!!」


 そこに父上が現れ、ようやくたかいたかいから解放された。


「話し合いを始める前に寄り道すると言ってましたが、何をしているんですか…あまりウチの息子をいじめんで下さい」


「何を言っておる!ただのスキンシップだ!それに、馬鹿な甥の躾も出来たしな!」


「甥?そういえば、先程クライン様が泣きながら軍団員に連れ去られておりましたが、何かあったのですか?」


「大した事ではない!」


 シュタルクさんの豪快な笑い声が響き渡る。


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