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第十話 失敗しましたが世界は変わります


 拍手喝采、歓声その中心には、光魔法に目覚めたとされるティフェルの姿が。


 しかし、実際に傷を癒したのはハイリーンだ。


 これを偽れば、ハイリーンはいずれ追放。そして、それによってティフェルは断罪される運命となる。

 しかし、ティフェルのこれまでの聖女となる為の苦労、努力。それを考えた上で、彼女がこの場で真実を告げる事なんて…


「ティフェル…遂に目覚めたのだな!この日を…この日をどれだけ待ち望んだか!」


 ドゥームさんがティフェルの手を取り、ギュッと握りしめた。

 

 ティフェルはそんな父を見て困惑し、しばらく考え込んだ後、ゆっくり口を開いた。



「待ってください!!」



 ティフェルは父の手を払い、堂々とした足取りでハイリーンの元に歩み寄った。


「お、お姉様?」


「ハイリーン…なんでしょ?今の魔法は」



 俺はティフェルの行動に驚いた。小説とは全く違う流れに言葉を失った。


「わ、わかりません…ただ、私は必死に王子様をと…」


「うん…ハイリーンの優しい魔力が、私にはよく見えた。覚えてないけどきっと…お母様と同じなんだよね…」


 そして、ティフェルはハイリーンの手を取り、空に向かって突き上げた。


「クライン王子をお救いしたのは私の妹ハイリーン!!光の魔法に目覚めたのは…ハイリーン・ブライトです!!!」



 ティフェルが高らかに宣言すると、周りの貴族達はどよめいた。


「あの無能の妹が…光魔法を?」


「そんな筈は…次期聖女はティフェル様で決まりじゃ…」


「何かの間違いじゃ無いの?」



 またも周りの大人達の勝手な意見が飛び交い。俺は頭に来て思わず声を上げた。


「皆さん!!ちゃんと話を聞いて下さい!!!何故聖女の決定を、あなた方の望み通りに左右されなければならないのですか!!!」


 俺の言葉で大人達のザワつきが静まった。


「ティフェル嬢の言葉を!!あなた方の勝手な期待や憶測で、間違いだと決めつけ、否定しないで下さい!!!あなた方の心無い言葉でハイリーン嬢どれだけ傷つくか……今、ティフェル嬢がどんな思いで声を上げているのかわからないのですか!!!」


 今までの努力をふいにして妹こそが聖女と宣言する事が、ティフェルにとってどれだけ酷く苦しい事か、それをわかっていればその言葉が誤りだなんて思うはずがないだろ。


「トライド君……ティフェル……」


 俺が喋り終えた後、ドゥームさんはゆっくりと立ち上がり、口を開いた。


「詳しい検証が必要とはなるでしょうが、私はティフェルとトライド君の言葉は信用に値する物だと思われます。よって宣言します!光魔法に覚醒した次期聖女は…ハイリーン・ブライトです!!」


 ドゥームさんが宣言すると、会場内にチラホラ拍手の音が鳴り始め、段々と大きくなり、最終的には会場が割れんばかりの音となった。


「遂に聖女様が!!」


「王子の誕生の日に…なんとめでたい!!」


「聖女様万歳!万歳!!」


 なんちゅう手のひら返しだと思ったが、涙を流すハイリーンと、それを優しく抱きしめるティフェルの姿を見たら、今は拍手するしか無いな。


「お姉様…」


「おめでとう…ハイリーン」






 誕生パーティの翌日、俺は父上とブライト公爵家の面々と一緒に聖教会に来ていた。

 前世の頃の教会に似てはいるが、大きなステンドグラスや美しい石膏像。規模は比べ物にならなかった。


「これが聖教会…凄いところだ」


「綺麗ね…」


「トライドやティフェル嬢達は生まれてすぐに来て以来だからな。覚えてなくても無理はない」


「そんなに滅多に来れる場所では無いんですか?」


「聖教会は王宮と並ぶ国の中枢。普通の教会とは勝手が違う為、頻繁に来るのは聖女か聖騎士の人間、もしくは王家の関係者だけだからね」


「そ、そんなところに僕が来てもいいんですか?」


「まぁ、将来の聖騎士だからな。それに、ハイリーンがえらく緊張しているから、なるべく付き添いは多い方がいいと思ってな。特別に通してもらう事にしたんだ」


 そういえばさっきからハイリーンが一言も喋っていない。


「う、うぅ…」


「大丈夫よハイリーン!今日は光魔法の適性を見るだけってお父様も言ってたでしょ?」


 そう、今日は聖教会にて、昨日目覚めたばかりの光魔法について確認するために来たのだ。


「で、でも…」


「大丈夫。私もトライドも居るから」


 俺とティフェルでハイリーンを挟むようにして手を繋いでいる。その手から尋常じゃ無い震えを感じるが、それ以上に俺はティフェルの心境が心配だった。



「ようこそいらっしゃいました。神官のプライスです」


 見るからに穏やかそうな法衣を纏ったおじいちゃんが出迎えてくれた。


「あなたがハイリーン様ですね?」


「ひゃいっ!」


 声が上ずるハイリーンに、プライスさんは優しく語りかける。


「そんなに緊張しなくても結構ですよ。何も特別なことは致しません。あの石碑に手を乗せるだけです」


 そういってプライスさんが指したのは、一際大きな彫刻、所謂マリア像のような物の足元に置かれた石碑。


「光魔法に選ばれた方がこの石碑に触れると、この聖母像が応えてくれるのです」


 そう言ってプライスさんはハイリーンを石碑の前に呼んだ。


「では早速、どうぞ」


 ハイリーンはプライスさんに促されるまま石碑に手を乗せる。すると聖母の像が優しい光を浴び始めた。


「こ、これって…」


「おぉ…ありがたや…これぞ正に聖母のお導き!ハイリーン様は間違いなく、光に選ばれし聖女様でございます」


「ハイリーン…良かった!…良かった!!」


「お、お父様…」


「おめでとう!ハイリーン!!」


「お姉様…ありがとうございます」


 二人の温かい言葉に涙を流すハイリーンだったが…






 ハイリーンの覚醒がわかった後、プライスさんに誘われてお茶をする事になった。

 

 茶会の途中で俺は席を外し、教会内を散策し、バルコニーで黄昏るティフェルを見つけた。


「いつの間にか居なくなったと思えば、何してんだ?」


「トライド…アンタこそ何してんの?」


「いやぁ…なんとなく?」


「ふぅん…アタシを探しに来たんでしょ?」


 ティフェルはイタズラっぽく俺に笑いかけた。


「………そうだよ」


「な、なんだ…素直に答えるんだ」


 思いがけない返答に、ティフェルは少し顔を赤くした。

 

 少しの沈黙の後、俺は単刀直入に切り出した。


「ハイリーンの覚醒がわかった後、お前石碑に手を置いたろ?」


「なっ!?何言って!!」


「安心しろ。俺しか見てない」


 俺は、ハイリーンの光魔法が確認された後、コッソリと石碑に手を乗せたティフェルを見逃さなかった。


 少し黙り込んだ後、ティフェルは戯けたように笑った。


「あ、あはは…見られてたか…」


「ごめん…」


「べ、別に良いよ……結局、何も応えてくれなかったし」


 また少し沈黙が続いた。


「…白状すると、ハイリーンが光の魔法を使った時、一瞬迷っちゃったんだ…この力…私の物って言っちゃおうかなって」


「そう…だったんだ」


 俺の気付かないところで、危うく断罪ルートに入るところだったんだな。


「でも、やっぱり出来なかった……それをやったら、またハイリーンに八つ当たりしてたあの頃の…大嫌いな自分に戻ると思ったし。何よりハイリーンの為にも、ちゃんと言わなきゃって思った…」


 まさかここまで変わっていたとは。仲直りの為に頑張った甲斐があった。


「…でもダメだね。やっぱり言い訳だ。ハイリーンの力を自分の物だって嘘つこうと思っちゃったんだもん…私やっぱりダメだ…」


「ダメなんかじゃ無い」


 俺が思わず口にした言葉に、ティフェルは驚いた様子だった。


「ティフェルはあんなに必死で頑張ってたんだ。家族の為、国の為、立派な聖女になる為って。魔法も剣も勉強も全部命懸けでやって来たんだ。それがいきなり聖女にはなれない、お前じゃなくて妹だなんて言われて、黙ってられる方が凄いんだよ。普通なら怒鳴り散らして、暴れ回っても仕方ないんだ。心で思うだけで済ませられるなんて、滅茶苦茶すごい事なんだよ!」


「も、もういいよ!そんなに言わなくて!」


 俺が思いの丈の全てを次から次に喋ると、ティフェルはなんだか照れ臭そうに、そして少し嬉しそうにそれを止めた。

 しばらく黙り、ティフェルが口を開いた。


「…アタシって…凄いかな?」


「あぁ、凄いよ」


「アタシって…頑張ったかな?」


「頑張ったよ」


「そ、そうだよね…アタシ…頑張ったんだ…凄く…凄く…頑張ったんだよ…頑張って…頑張って……でも………うぅ……うあぁあああ!!!!!!」


 ティフェルは堰を切ったように涙を流し始めた。今までの重圧、期待、苦悩。そしてそれらが全て消え去った悲しみ。色んな物が涙と一緒に流れ落ちた様だ。

 そして俺は何も言わずにティフェルを抱きしめ、泣き止むまでずっとそばにいた。





「もう大丈夫か?」


「うん…ありがとう」


 泣き止んだティフェルが、ゆっくりと俺の胸から離れた。


「トライドはいつも優しいね…」


「そうか?」


「そうだよ…そんなだと…勘違い…」


「なんて?」


「な、なんでも無い!!!」


 顔を赤くしているが、何か怒らせてしまっただろうか?


「そ、それより!今の事、ハイリーンには内緒にしてね?」


「あぁ、勿論だ」


 きっとこの事を知れば、ハイリーンは聖女に目覚めた自分を責めてしまうだろう。ティフェルは本当に妹想いになったな。


「約束だからね!?ハイリーンが知ったら…抜け駆けしたと思われる…」


「んっ?」


「あ、アタシ戻るから!!」


 ティフェルは逃げるように立ち去った。まぁ元気になったようで何よりだ。





 暗がりの中、二人の男が話し合っている。一人は刀の男の声、もう一人はどこか幼い少年の声だった。

 幼い声の少年が声を荒げる。


「仕留め損ねたのか!!この役立たず!!!」


「も、申し訳ありません!!運悪く聖女が覚醒してしまい…」


「くぅっ!そうか…まぁ今回は良いが、次は無いぞ」


「は、はっ!!」


 立ち去る野太い声の男。


「くそっ!!なんでこうなった……誰かが邪魔に入ったのか?…しかしそんな筈は!!」


 地団駄を踏む少年。


「まぁいい……時間はまだ有る…なんとしても絶対に…絶対に手に入れる…待っていろよ…」

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