世界崩壊の真実と嫌われ者 ③
*一週間後・・・
*謎の男が侵略者を撃退してから1週間の時がたつ
『・・・以前、我々は蛮行を繰り返す侵略者に対して手立てが無いというのが正直な意見でしょう・・・』
大型の映像モニターにはアーステラの軍人の姿が映る。
深刻そうな顔つきで言葉を語る男の瞳の下には薄っすらと蓄積されていったような隈が見える。侵略に対し浮かび上がる焦燥感、絶望感は男の顔色を見るだけでも判断できてしまいそうなくらいに明白だった。
『今こそ、未だに《《誰一人》》として侵略者たちの撃退に成功していないこの事実に、向かい合わなければならない時かも知れません・・・』
TVアナ『そっ、それは一体どういうことでしょうか?』
焦燥感を露わにしたアナウンサーの女性が軍人の男に尋ねられると男は深刻そうな顔を俯かせた。男は次の言葉が出せないと言わんばかりに口先を震えさせると、暫くして鈍るような唇を上下させるのだった。
『・・・無条件降伏』
『・・・・・・・』
『被害がさらなる拡大を辿る前に国連は、この言葉も視野に入れるべきだと思います!!』
暫く無言の時間が経過した後、モニターの映像は電源が切れたようにプツンっと消え去るのだった。
「・・・っというわけだ」
男は映像が流れていたモニターに翳していた、自身の人差指につけた指輪を元に戻すと、目の前に置かれた机に両手を開き叩きつける。男は周囲に人でもいるのか、同意を求めるように何度か頷くと辺りを見渡すように首を左右に動かすのだった。
男の左右に動かした視界の先には8人の男女が球体の椅子に着席すると皆が男の顔を見つめる。
「エジさん。おかしくないですかー?」
頭頂部を髪留めで跳ねさせた、目が丸めの女性はエジと呼んだリーゼントの男に問いかけると、自身の顎を机の上で組んだ両手の上に載せた、だらしない格好で見つめる。
「ああ! おかしいに決まってんだろ!! マンチ!!」
エジは多少頭に血が上っているのか、マンチと呼んだ女性に荒い口調で言葉を返すと、机を自身の右手の拳輪で叩く。
ドンッと音がなるくらいの力強さで叩いた机は少しだけ、揺れるように机の置かれていた小物を浮かせる。
「この一週間メインクを殺した《《あの男》》のことが一切報道されていないんだぜ!!」
エジは左手を机に添え、体を乗り出すと自身の太めの眉毛を段違いにしたような皺を眉間に寄せた。荒々しく右腕を横に降った姿からも、皆から見てかなり鬱憤のようなものが蓄積されているように見える。
エジは視線を左右に動かし皆を確認すると、荒い吐息を鼻から吐くのだった。
「僕の作戦ミスで、メインクには悪い事をしてしまったね・・・」
ライオンのような顔中髭だらけの男は発言すると、申し訳なさそうに顔を俯かせた。
顔を俯かせた男に、エジは即座に顔を合わせると口を開く。
「お前のせいじゃねーよ、リカンシ!」
「でも…」
エジは部屋に響く位の大きな声を上げ、リカンシと呼んだ男を庇うが、リカンシは瞼を少々垂れ下がらせたハの字の眉で、悲痛な心境を醸し出すと、エジは怒りを表すように両手の拳を握り、再び机に拳輪を激しく叩きつけるのだった。
「この惑星にあんな奴がいるなんて誰もわかんねーだろっ!!」
エジは今日一番の怒声にも似た大声を部屋中に響かせると皆を大きく開いた眼で見つめる。エジの大声でシーンと静まり返った。
部屋の中は嫌な雰囲気の静寂が包む。静まり返った部屋には小さくな鳴り続ける機械の駆動音だけが響くと、皆が平行に揃えた口で目の前にある机を眺める。
「でもでもー。メインクさんは、私達『エスペラ』の戦闘要員ではありませんからね」
マンチは静寂を切り裂くように自身の掌を上に向けて顔の前に出すと、あっけらかんとした態度で発言する。多少空気が読めないような雰囲気をマンチは醸し出すが、発言を止めていたメンバーもこれを機に発言し始めるのだった。
「・・・確かに。メインク殿は惑星再生班。戦闘要員ではないな・・・」
まるで岩石や鉱石と呼べそうな筋骨隆々とした男は、太い腕を組んだ
堂々とした姿勢で落ち着いた声で発言する。
「「そうですね、私達もそう思います。ラグドーラさん」」
似たような顔つきの男女は机から頭だけを出した小さい体で、同時に同じ内容を
ラグドーラと呼んだ男を見ながら喋りかける。
「キジトとサバトも同意見か・・・」
「「はい。メインクさんは戦闘指数を現すアナリティクスも3000位。我々エスペラの平均値よりは大分下回ります」」
「・・・しかし、拙僧の中ではこの惑星の軍人が武装した状態でアナリティクスは10〜20程度だった。およそ考えれん話ではあるがな・・・」
ラグドーラは不可思議と言わんばかりの物言いをすると深刻そうに瞼を閉じ、分厚い首を左右に何度も降る。
「そうは言ってもねー、ドーラ。現にメインクは撃破され・・・」
恰幅のいい女性はしゃきしゃきとした物言いでラグドーラに声を掛けると、自身の後ろを親指で指し示す。
「亡骸はここにあるんだよ」
恰幅のいい女性が指し示した親指の先には、体格のいい男性が青色の液体に浸かると
目と口を閉じた状態で、微動だにせずに浮かんでいる。
ラグドーラはメインクの亡骸を見ると大きく息を吐くのだった。
「ふーー。・・・そうだな、ヒマラ」
「亡骸が回収できただけでも救いだよ。言い方は悪いけどね・・・」
ラグドーラからヒマラと呼ばれた女性は深刻そうに俯いたラグドーラに声を掛けると、自身の瞳を閉じるのだった。
「もうー、マンチ大変だったんですよー。メインクさんの様子がおかしいから至急現地に迎えってエジさんに言われて」
マンチはまたしても空気が読めないと言わんばかりに多少体を起こすと、両頬を凹ましたような口で自分がいかに大変だったかを説明する。
自分の命令のせいで苦労したと言いたげなマンチに、エジは口を歪ませると顔を合わす。
「お前が一番近くにいたからしょうがねーだろ!」
「でもでもー!行ったらびっくりだったんですよ! マンチ!メインクさん地面に埋もれてるし、人だかりできてるしで、急いで回収したんですからね!」
「ああ。それには俺も感謝してるよ」
エジは顔を尖らせながらもマンチに感謝していると伝えるが、不意に視線を横に逸らすのだった。
「・・・死んでるとは思ってなかったけどな」
エジは机に肩肘をつくと顔を尖らせる。
「でも、いわゆる「プランB」。私達の任務は人類の選別救出ですよ。惑星の住人と争いが起こるのも、こちらが被害を受けるのも言わば想定内の事ですよ・・・」
丸顔の女性は丸淵のメガネを光らせると確信をつくような鋭い意見をエジに返す。その歯に物を着せぬ発言にエジは小さく舌打ちを返す。
「・・・っ」
舌打ちしたエジは丸顔の女性に顔を合わせると不機嫌な自分の面に右手の親指を突きつける。
「あーー、そうだよ、スコティ! お前が言うとおり、俺が発令した「プランB」は言わばアーステラ人類の強奪だ!」
エジはスコティと読んだ女性を睨むと、悔しそうに自身の下唇を前歯で噛みしめた。
スコティは少し俯くと自身の身につける眼鏡を人差し指で持ち上げる。
「・・・そうですね。70億の総人口に対し計算上救えるのは1万人程度。人類の選別なんて創造主に等しい蛮行を私達は行わないといけないんですよね・・・」
スコティの言葉に皆が黙り込む。
皆が口を閉じて俯く中、マンチはお通夜のような雰囲気を嫌ってか静寂を切り裂くように口を開く。
「でも、もうじきアーステラ滅ぶんだから
しょうがなくないですかー?」
マンチの見も蓋もない意見に皆がマンチから視線を反らす。ただ、リカンシだけはマンチの意見に頷くと口を開いた。
「そうだね、マンチちゃん。この惑星。アーステラは星の寿命でもうじき滅びる。それは間違いない事実なんだよね・・・」
皆がリカンシの意見にコクコクと小さく頷くと、エジは両手を机に添え、勢いよく席から立ち上がる。
「俺達の任務にはそういうことは起こり得るんだよ!」
エジは見開いた目で皆を見ると、自身の後ろにある標語のような物が書かれた壁を親指で力強く指差す。
「俺達は《《惑星救出機構 特務機関》》!! 通称『エスペラ』なんだからな!!!」
「・・・そうだね、エジ副官」
エジの言葉にリカンシは頷くと、エジが指差す壁に掲げられた標語じみたものに視線を持っていく。そこには惑星の成り立ちとともに、記号のような奇妙な文字列が並ぶ。リカンシはそれを改めて確認するように目を通す。
「そうだね、僕たちはエスペラ。数多にある惑星を救うのが、僕達の仕事なんだよね」
リカンシの言葉に皆が力強く頷く。
「確かに今回の作戦はアーステラ人類にとって横暴に見えるかもしれない。・・・でも!」
リカンシは力強く振り返ると、改めてエスペラの面々を見返す。
「救える人がいるなら救おう! それが人類側にとって蛮行に取られても! 僕達が救うのは、この惑星の権力者ではない! 住民同士の争いが起こらないよう、僕達は悪役になりきるよ!」
「「「はい!」」」
「おうよ!」
「はーい」
「有無」
「にゃ!」
エスペラの皆が一致団結したようにリカンシの言葉に返事を返す。
皆に少しだけ雲がかっていた雰囲気が消し飛ぶと、雲の合間から明るい日差しがさしたように皆の瞳に光が灯るのだった。
「うん。みんなで頑張ろう」
リカンシは再び頷いた後、エジに顔を合わせる。
「それじゃ〜、エジ副官。プランBについて改めて説明を」
リカンシの声にエジは広角を緩めると、任せろと言わんばかりに頷く。
「おう。リカンシ艦長が言ったように「プランB」で救出者する者の選定条件は、なにもこの惑星の権力者じゃねー!」
エジは大型モニターに自身の指を翳すとを再びモニターが点灯する。
「人格や特異性も重要だが、環境適応の側面や繁殖。言わば他種族との共存の可能性を視野に入れて各々が選定してほしい!!」
エジは大声で皆に説明すると、皆が一斉に頷く。
「わかってると思うが、選別者の調査は各々でするが、合格基準を満たせるのは半数以上の隊員の同意が必要になる!いいな!!」
エジの発言に皆が頷く中、マンチは机に肘をつきながら右手を上げると口を開いた。
「あのー。それで何ですけどぉー」
「なんだぁ! マンチ!」
エジは発言の途中で割り込んできたマンチに顔を合わせる。
マンチ「いやいや。あいつって結局どうなるんです?マンチわかんないんですけど…」
マンチはエジを見ながら首を左右に降った後に、大きく傾ける。なにか納得がいかないのか、しきりに資料を見つめながらエジに問いかけるのだった。
エジもマンチの発言ですぐにマンチが誰のことを言っているのか理解したのか静かに頷くと、両手を顔の前で合わせ瞳を閉じた。
「あ、あぁ…アビー。アビシニアの記録に残っていたメインクを破壊した男・・・」
エジは閉じていた目を大きく開くと、マンチに顔を合わせる。
「ウーガー・S・ラブレスの件だな」
マンチはエジの発言に満面の笑みで何度も頷く。
「うへへへ。そうです、そうです」
マンチは笑い声を上げた後にウーガーと呼ばれた男の資料を皆に見せるように掲げる。
マンチ「だってこいつアナリティクス3万あったんですよね?マンチ的には強ければいいんで、それだけで合格なんですけどー」
マンチは資料にあるウーガーの顔を、強調するように自身の手で何度も叩きながら発言する。
「・・・確かに特異性という面では間違いはないな」
ラグドーラはマンチの意見に瞳を閉じながら静かに頷く。
「でもね、少々危なくないかい? この男・・・」
ヒマラは口元に手を添えると考え込むようにして資料を見つめる。資料を見る目をやや尖らせると改めてエジに顔を合わせた。
「こっちは《《2人》》もやられてるんだよ?」
ヒマラの発言で再び場が凍るように静まり返る。
ヒマラの意見に頷くもの。喜ぶもの。視線をうつむかせたもの。皆がそれぞれの反応をする中、エジは眉間に皺を寄せた多少不機嫌な顔つきになると注目しろと言わんばかりに両手を叩いて音を出す。パンっと乾いた音がなると皆がエジを注目するように見つめた。
「ああー。こちらは二人も被害が出てる。俺も正直言うと、こいつをぶん殴りてー!」
エジは胸の底にある思いを吐き出すように発言すると握った拳を机に叩きつける。苛立っているのが丸わかりの態度だが、エジは眉間に多数の皺を寄せた怒りの形相ながら奥歯を噛みしめると、事実を受け入れたように言葉を続けた。
「だが! 俺らはアーステラの住人にとっては蛮族や侵略者に映る! コイツがやっていることは何も間違いじゃねーぇ!!」
エジの意見に皆が何度も頷く。
「お前らにも見てもらったメインクの残してくれた映像によれば、むしろこいつは、この惑星の住人に
嫌われながらも、何も見返りを求めずに人を助けている!!」
エジは机を両手の掌で叩くと身を乗り出す。
「助けた相手に物を投げつけられようが!」
「罵詈雑言を浴びせられようが!」
「感謝の言葉すら無い状況で、こいつは何も言わずに去っていっている!!」
エジは熱弁した後、多少切れた息を整えるように間を空けると、真剣な顔つきで皆を見渡す。
皆がエジの意見に同意したように頷くとエジは真剣な顔つきで発言を続ける。
「俺は正直こいつは捨てたもんじゃねーとも思ってる・・・」
エジは何度も首を細かく上下させた後に、顔を横に向けると微笑んだ。
「・・・普通できねーよ、大したやつだ」
エジが横を向いて頷くと、スコティもコクンと一度頷く。
「エジ副官に同意します。余程高尚な精神が無いと自分を嫌悪するものを助けるなど、私はできないと思います」
「「ですね。私達もそう思います」」
「有無。アーステラの人類から見れば、普通なら救世主だな」
「英雄視されてもおかしくはないねー」
「マンチは強ければいいんでOKです」
「にゃ」
突然今まで発言しなかった中性的な癖っ気の女性は動物のような
鳴き声を上げる。
「お前もそう思うのかよ、セルカーク」
「にゃ」
エジからセルカークと呼ばれた女性は動物のような泣き声を返すとコクコクと何度も頷く。
「うん。僕もみんなと同じで、そう思うよ」
「全員同意見かよ・・・こりゃー、ウーガーを保護対象にするしか・・・」
「待って下さい!!!!」
皆の意見が一致し、エジがウーガーを保護対象に加えようとした瞬間だった。
エジの声をかき消すように女性の大きな声が部屋に響くと、皆が声がした方向を振り向く。振り向いた先にはよろめきながらも部屋の入り口の壁に手を添え自分の体を支える聡明そうな女性がこちらを見ていた。
「・・・アビシニア」
エジは女性の名を呼ぶとすぐさま女性のそばに近寄り、体を横から支える。
「無理すんな、アビー。お前はまだあいつにやられた怪我が・・・」
「大丈夫です。それより…」
アビシニアはエジに支えながらも体を起こすと皆を見渡した後、エジにしがみつくようにして話し掛ける。
「あいつ。…ウーガーを保護対象にするっていう話は本当なんですか?!」
「・・・ああ、そうだが」
エジはアビシニアの問いかけに首を立てに降る。
エジが首を立てに降ったのを確認したアビシニアは大きく開いた目でエジを見つめる。
「お前もしかして部屋のモニターで・・・」
「ええ。拝見していました! だからここへ来たんです!!」
アビシニアは聡明そうな顔を歪ませるとエジに多少怒気を混ぜた声で返答する。
エジもアビシニアの表情を察すると、アビシニアの腰先に回す手を緩めてしまう。
「私にも発言させて下さい!!」
アビシニアはエジを押しのけるようにして前に出る。
「あいつは・・・」
アビシニアは俯いた顔を震えさせる。そして、怒りに震えるように奥歯を噛み締めた後、勢いよく顔を上げる。
「あいつ! ウーガー・S・ラブレスは英雄などでは断じてありません!!!!」
「「「・・・・・・・」」」
アビシニアの大きく断言した一言に皆が注目する。
アビシニアの事をよく知るエスペラの面々は、珍しく激昂しているアビシニアの表情を察し黙り込むと、ただただ意外過ぎる出来事に時が止まったようにアビシニアを見つめる事しかできなかった。
「私に起こった出来事を、断片的な映像記録とともに説明します」
アビシニアは一枚のカード状のものを上着の胸ポケットから取り出すと皆に見せるのだった。