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優しく滅べよ世界たち  作者: 虎太郎
2/5

世界崩壊の真実と嫌われ者 ②

「メーデー。メーデー。メーデー」                                    


 武器を構えた男は必死の形相で通信機に手を触れ叫ぶ。男の声は震え、男の形相からは完全に血の気が引いている。必死で繰り返す叫びは自身の生命が危機にひんしているようにも見え、明らかに自らの状況に絶望しているように見えるのだった。


「ば、化け物共め!!」


 男は通信機に触れていた手を離すと、素早く銃を構える。


 男の周りには男と同じような軍服を着用した者たちが無惨にも地面に這いつくばると、男の周囲は爆弾でも投下されたかのように無惨な傷跡が爪痕を残す。


 地面は隆起し、木々は燃え、街の形をした物は破壊されると、男の周囲では震える人々が列をなす。この惑星の文明は一切機能せず移動するための手段も全てが停止するのであった。


 男は人々を振り返ると覚悟を決めたように一人立ち上がる。男は両手に構えた銃のトリガーに手を掛けると震える指先で標的に対しトリガーを引いたのだった。


「うわぁああああ」


 男の叫びとともに銃口からは乱射されたような玉が前に飛ぶ。男はトリガーを握る指先を決して離さずただ、固定したような人差し指を握り続けた。だが、男の銃口の先が向いた相手は、男の視界から瞬時に消え去ると、男は何が起こったかわからないという表情で、キョロキョロと周囲を見渡す。


「ど、どこ―――」


 男の声は最後まで発せられる事は無かった。

 発している言葉の途中で男の意識は途絶えると、力の抜けた体は白目を向いて地面に仰向けに転がる。地面に転がった男の周りには、背の低い人物と大柄な人物が並んだように突っ立つ。

両方とも自身の瞳以外を隠すような服に身を包むとその服は微光な光を発し輝く。


「 aksjdienfdenhd」                

                             

 不意に小柄の人物は、大柄の人物を見上げるようにして顔を合わせると、この惑星の言語ではない言葉で語りかける。


「jdjddheud,ksjdjdiujjh」               

                             

 小柄な人物に喋りかけられた大柄の人物は、自分の首を横にし、小柄な人物に顔を合わせると見下ろすようにして返答した。


 二人の周りにはパニックとなった人だかりが蜘蛛の子を散らしたように逃げまとう。

 大柄の人物は、その光景を見て、自身の頭を項垂れさせると申し訳なそうにも見える態度で、後頭部を何度もフードの上から掻くのだった。


 小柄の人物はパニックになった人々を見ながら腰に手を当てると、片方の脚を少々外に開いた。


「jhjuh、あ、あ、ああ」              


 不意に小柄の人物は、この惑星の言語に聞こえる言葉を喋りだすと、確認するように暫く単音を繰り返す。そして、なにかの準備が整ったのか、自身の頭を覆うフードの上から人間の耳の部分に片手で触れると頷くのだった。


「そっちはどうです?」              


 小柄の人物はこの惑星の言語を、女性と思われる声で呟く。

 数秒後、小柄の人物の周囲に男の声が響く。


「ああ、お前らの陽動のおかげで無事成功だ」    


 周囲に響いた声に小柄の人物は自身の体を少しだけ跳ね上がらせる。


「あっやば!・・・いえいえ、スピーカーにしてただけですよ」  


「お、お前なー・・・」             


 周囲に響いた男の声は明らかに女の言動に対し

 落胆しているのが分かる程だった。


「うへへ。っま、人もいないしこのままで大丈夫です」   


「・・・はぁー、まあいい。お前らのおかげでこっちは対象の確保に成功したんだ。その位のこと大目に見てやるよ」


 女は男からの返答にまるで喜ぶように瞳を瞑ると口角を緩めた。

 

「さすが伊達にリーゼントじゃないですね。話がわっかるーー」


小柄な女性は喜ぶように拍手を繰り返す。


「うるせー。用がないなら、もう切るぞ…」 


「あっ。本当に切れた…ま、いっか」    


 小柄な女性は通信が切れると、見上げるように頭上を眺める。暫く頭上を眺めた後

再び前を向く。以前小柄な女性が見渡す光景は、地獄絵図のように人の群れが織りなす叫びが木霊する。小柄な女性はその光景に溜息を漏らす。


「ふーー。・・・あっ、何て言うんだけっけ? こういう時」  


 小柄な女性は考えるように口先に人差し指をつけると、目線を下に構えた。


「・・・あっ、そうだ!!」         


 小柄な女性は、まるで思いついたと言わんばかりに自身の体を跳ねさせた後、パニックとかしている光景を再び見つめる。


「無駄な努力ご苦労さまです」        


 小柄な人物は呟きながら、両手を人体の膝の部分に添え、瞼を閉じると、綺麗な所作でお辞儀するのだった。


「jddhfddfh、fjdjddf・・・」        


 大柄な人物は小柄な人物の所作と声を聞き、頭上を見上げると、やりきれない思いでもあるのか、自身の瞳を閉じると片手で覆い尽くしたのだった。


                      

『以前、突如アーステラに現れた、外宇宙生命体による人攫い行為、破壊工作の被害は後を断ちません』

 

 シェルターのような閉鎖された空間に備え付けられた大型テレビからは

臨時のニュースが流れる。

 周囲にはここに逃げ込んできたであろう人々が集まると、皆が一心不乱に

モニターを眺める。

 アナウンサーの男はその内容の深刻さに顔を尖らせると、吹き出るような汗を

ハンカチで拭った。

 モニター眺める集団の中にはまだ年端もいかない子供もいる。

 一人の子供は母親と身を震わせるようにして、お互いが寄り添いあうと、母親に

声をかける。


「…こ、ここにも来るのかなー?」   

 

 年端もいかぬ子供の怯える声に、母親は首を横に向けると顔を合わせた。


「大丈夫よ。ここなら、大丈夫だからJくん」  

   

 母親は怯える我が子に寄り添うとそっと我が子の頭を何度も撫でる。我が子に安心してほしいと思っての行動だったが、我が子を撫でる母親の手は恐怖からか微かに震える。


TV『何故、彼等はこのような蛮行を繰り返すのでしょうか?現地からお伝えします』


 テレビモニターの映像がアナウンサーの男から切り替わる。切り替わった映像には先日起こった悲劇が繰り返し放映される。

 壊れていく街、逃げまとう人たち、蛮行を繰り返す外宇宙生命体と戦うアーステラの軍人たち、そして、その原因を作っている侵略者の姿。


 そのモニターには理不尽しか映さない。


 明るい話題もなく、ただただこの惑星の驚異として、侵略者の姿を恐ろしくも、

大罪を繰り返すテロリストともとれるように放映し続ける。


「あいつらは泣き叫ぶ私の子を無理やり連れて行ったわ・・・うっ、うっーーー」


 我が子をさらわれたという女性は泣き崩れるように、膝を折る。


「自衛隊は何をしているんだ!!何も対策できていないじゃないか!!」


 男はこの惑星の軍事に関わることに文句を言うと、体を怒りから震わせる。


「・・・私の婚約者は先日あいつらに攫われました。・・・なんで」


 悲痛な面持ちの男は生気を失ったような顔でボソボソとつぶやく。


「なんでこのような事ができるのでしょう?・・・私には、理解がぁ、できません・・・」

 

 最後には言葉が詰まるとぐったりとした様子で項垂れた顔に涙を浮かべる。


「我々人類はこの驚異に対し、一丸となって望まなければならない」


「未だ解決の糸口が見えない問題に対し、各国が協力する姿勢を崩さない事を誓う!!」


 力強く言い放った国の代表者だが、未だ侵略者に対し、防衛も撃退も出来たことがない事実に、どこか悲壮感が漂うのだった。


 シェルターに備え付けられたモニターを見つめる人達全てに、希望なんて言葉は存在しない。人々は身を震わせ、この事実を受け止めなければならなかった。


 泣く、怒る、悲しむ、全てにおいて負の感情しか浮かんでこず、侵略者に対し、「絶望」と言う2文字だけが皆に浮かんでくるのだった。


「恐いよ、お母さん!!」

「大丈夫!! 大丈夫だから!!」


 抱きついてきた我が子を母親が抱きしめると、お互いに芯から震えるような恐怖を共感してしまうのだった。


 一組の親子が互いに恐怖に震えた、その時だった。


 シェルターに轟音とともに衝撃が走る。


 轟音と共に突如鳴り出した警告音もシェルター内にいる人々に恐怖を伝染させると、皆が叫び声を上げ始める。


「「「きゃあぁぁーーー」」」             


 シェルター内に轟音と衝撃がはしった数秒後。

 シェルターの壁だったものは、大きな丸形にくり抜かれると、消し飛ぶようにして

砕け散った。


 そのくり抜かれた穴から、遂に人々が恐怖する大柄の侵略者が一人姿を現す。

 大柄の侵略者は情報媒体で見た姿のように自身の身を微発光するスーツで覆い隠すと、隠していない目だけを動かし周囲を見渡す。

 シェルター内の人達は目を見開くと、侵略者の行動に皆が注目する。


「ddjiwdwdh,sniqsi」           


 侵略者が聞き慣れない言語で喋った瞬間。

人々の恐怖は臨界点に達すると皆が叫びを上げ逃げまとうのだった。


「!!!!!!!(叫び声)」      


 大柄の侵略者は人々が逃げまとう光景に少しだけ顔を俯かせるとため息を吐くような仕草を見せた。息を吐いた数秒後、意を決したように頷くと右足を前に出し、両足で地面を踏み抜いた。

 大柄の侵略者が先程までいた箇所の床は消し飛ぶと、後ろに瓦礫が舞い散る。

姿が消えた次の瞬間には、大型の侵略者は一人の少年の体を両手で捕まえると、母親から引き離すようにして自身の脇に抱えるのだった。


「隼君ぅぅ!!!!」

「お母さーん!!」


 侵略者に引き離された親子はお互いを求め、腕を伸ばし合う。

その光景に大型の侵略者は自身の頭頂部を指先で掻くのだった。


「誰かぁ! 誰かぁ! 誰か助けてぇ!!」


 子供は泣き叫びながら、侵略者の脇で暴れる。母親は子供を取り戻すように体を乗り出すが近くにいたものが母親を取り押さえるようにしてその行為を止める。

お互いの手も、想いも、重なることはなく引き離された思いからお互いが叫ぶと救世主を願った。


「だれかぁああ!! たすけてぇええ!!」


 子供が大声で叫んだその時だった。


 シェルターのドーム型天井に轟音が響くと、シェルター内が大きく揺れる。衝撃は皆を揺らすと、轟音が響いた天井から一人の男が姿を表す。男はまるで隕石でも降ってきたかのようにシェルター内の床に着地すると、轟音と衝撃は瓦礫を巻き上げ降り注いだ。


「・・・・・・・」                     


 突然現れた男は、自身をフード付きローブに身を包み半身で侵略者を無言で見つめた後、自身の被るフードをおもむろに右手で外した。


 獣の柄のような剃り込みを入れた両方の側頭部から、長く流れた毛先を揺らすと、男の平行になった口は一切開くことはない。ただただ、獣のように鋭い眼光を光らせると侵略者を睨むのだった。



「jdjiedfdi!!」                      

「・・・・・・」                     


 お互いが見つめ合い侵略者が驚くような声を上げた時、獣のような目つきの男は脚に力を込めると両足でシェルターの床を踏み抜く。


「sw!!!!」


 侵略者が短い悲鳴にも似た声を漏らす。

 一瞬で移動した獣のような男は侵略者の脇に抱えた少年を片手で引き離すと、空中で左足の蹴りを侵略者に放っていた。

 侵略者は吹き飛ばされ壁に激突するとシェルター内が衝撃で揺れる。


「・・・」                      


 侵略者が沈黙している隙に獣のような男は片手で掴んだ少年を床に下ろすと手を離す。


「・・・・・・」                     


 手を離された少年はお礼も言わずに母親の元へ走っていくと、親子は泣きながら抱き合うのだった。


 獣のような男は再び自身が吹き飛ばした侵略者に視線を合わせる。


「・・・bthduf」                   


 侵略者は頭を何度も降るようにしてゆっくりと立ち上がると、ダメージがあるのか足元をふらつかせる。侵略者は再び頭を大きく降った後、獣のような男に向けて身構えるように左手を前に出した。


 獣のような男は以前変わらぬ半身の姿勢で首だけを横に向けると侵略者を睨む。


「・・・・・・」                   

「・・・・・・」                   


 両者が互いに牽制しあうと、暫く膠着するように時間が流れるが、不意に獣のような男は自身の右の拳を顔の前でギリギリと握りこむと、拳に備えられた4本の拳頭を浮かび上がらせた。右拳には筋が浮かび上がると、拳の筋肉は隆起するように形を変えた。


右拳を握りこんだ男に対し、侵略者は突き出した左手を右手で捻るように回すと、左手の掌を獣のような男に対し開いた。


次の瞬間。


 辺り一体を爆発的な光量で包み込むと、侵略者の左手から青白く輝く光線のようなものが男に放たれる。一瞬で獣のような男の姿は光に包まれると男の後ろの壁は消し飛ぶ。

 侵略者から光が放たれ続ける中、侵略者の視界に徐々に現れたのは獣のような男のシルエットで、その影は徐々に大きくなっていくと侵略者が姿を完全に捉えた時、獣のような男は握りこんだ右拳を頭上から振り下ろすと、侵略者の胸に斜め上から叩き込んだのだった。


 その衝撃は凄く、シェルターを地震のように揺らす。


 右拳を叩き込まれた侵略者は体を折り曲げながら床に背中からめり込む程で、侵略者は暫く床からはみ出した脚を痙攣させていたが、時間が立つにつれその動きは弱まっていくと最後は完全に沈黙するのだった。


「・・・・・・」                     

「・・・・・・」                     


 動きを止めた侵略者を、獣のような男は自身の髪を右手でかき上げながら見た後に、ゆっくりと踵を返すと再びフードを被るのだった。


 誰もなし得なかった侵略者の撃退を、男は己の拳一本で成し遂げると無言で去っていく。


男の存在は最早人々にとって

夢や幻、

希望、

救世主のように映り

男に対し称賛が飛び、喝采が上がる・・・はずだった。


だが、男に浴びせられたのは勝利の美酒でもなんでも無かった。

飲みかけのジュースの瓶が男の頭に直撃すると、浴びせられるのは

罵声。

怒声。

憎しみの声だけで

「ここから出ていけー」

「消えろ」

「死ね」

汚い言葉の罵詈雑言。

自分が助けたはずの少年も、その母親さえも男を睨むと

嫌悪するように近くにあった物を男に投げつけるのだった。


 フードを再び被った男はその自分を嫌悪する声を、飛来物を、決して物を言わぬ平行にしたままの口で受け続けるのだった。


 男は無言で去っていく。

 人々の態度に決して反論も反撃もぜず怒ることもしない。ただただ無言で、その行為を受けながら去っていくのだった。


ゆっくりとした足取りで男は出口へ向かう。


*この男ほど                                             


男はようやく収まってきた民衆の罵声に

少しだけ平行にしていた口の口角をわずかに緩めるのだった。       


*理不尽に愛された男は何処にもいないように見えた・・・        

                          

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