告白
リーゲル様の腕の中で気を失い、そのまま朝まで気持ちよく眠ってしまった私。朝食の席でリーゲル様に平身低頭謝罪をすると、彼は笑顔で「これから慣れてくれたら良いよ」と口にした。
慣れるって、一体何に!?
と内心で思ったものの、口に出すことはできないままに朝食を食べ終える。そのまま部屋へ戻ろうとすると、極自然な動作で手を取られ、リーゲル様の私室へと誘われた。
「昨日、私達の婚姻契約を見直そうという話をしたよね?」
「は、はい……」
あの時の私は動揺しすぎて、正直それどころではなかった。けれど、そういえば、そんな話をしたような気がする。
何故今更になって契約を見直したいのか、結婚生活を続けていく中で折り込みたい条件が増えたのか。であれば、無理のない条件でありますように! と願うしかない。
最近は色々と問題続きだったし、私には予想もつかないような内容だったらどうしよう……。
不安に押し潰されそうになりながらも、勧められたソファに腰を下ろす。と、隣に座ったリーゲル様に、ふわりと膝の上へと乗せられた。
「あああああの、ちょっと、リーゲル様!?」
驚いて声をあげるも、彼は動けないよう私の腰に腕をまわし、拘束してくる。
どうしてこんな事をされるのか、まったく意味が分からない。
「リーゲル様、手を──」
「これが新しい契約書になるのだが」
抗議しようとしたのに、それを遮るかのように一枚の紙を渡された。
ん? 何故に一枚? 最初の時は、それこそ本かと思える程に、分厚い塊だったよね?
「あの、契約書って……これだけですか?」
だからつい、聞いてしまった。結婚当初に渡された契約書とは、あまりにも枚数が違いすぎていたから。
契約更新する際は、普通だったら以前と同じままの要項であっても、新しい契約書に書き記すのが定石だ。なのにこれだけ枚数差があるということは、大半以上の要項が省かれ、書き記されていないということだろう。なのに──。
「契約書はそれ一枚だけだ。そこに必要なことは全て書いてある」
リーゲル様はそう言って、契約書の中心部分を指差す。
え? ここ?
そこに書かれていた内容は、『浮気をしないこと』『不貞は死んでも禁止』の二つだけ。公爵夫人としての云々カンヌンは綺麗サッパリ消去されている。
「これって……どういうことなんですか?」
尋ねるも、リーゲル様は「不明点はないか?」と聞いてくるだけ。
え? まさかの無視?
不明点はいっぱいあるといえばあるけど、取り敢えず書類上の不明点はない。だから私が「ありません」と頷くと、家令にペンを渡され、流れるように署名させられた。
「確かに。これでお二人は、只今より通常の夫婦とおなりあそばされました。使用人一同、心からお喜び申し上げます」
「へぇっ!?」
どういうこと!?
お辞儀と共に告げられた一言に、私は瞳を丸くするしかない。
通常の夫婦ってなに? 私が今サインしたのは、契約結婚の更新書類よね? 間違っても婚姻証明書とか、そんなものではなかった筈。
驚愕する私の疑問に答えることなく、家令が部屋から退出していく。呆然となってそれを見送った私に、リーゲル様は拘束を強めると、囁くようにこう告げた。
「初夜で君に言った言葉を訂正する。私は君を愛してしまった。今日からは普通の夫婦として、私と生きていって欲しい」
「ええっ!?」
そんな、まさか。
リーゲル様が、私にそんなことを仰って下さるなんて。
とても現実とは思えず、私は一心にリーゲル様を見つめてしまう。
「本当ですか? 今のお言葉……本当に?」
ここで嘘だと言われたら立ち直れない。どうか、どうか認めて下さいますように……!
祈るような気持ちでリーゲル様の言葉を待つと、彼は私を見つめ返して優しく微笑み、しっかりと頷いてくれた。
「グラディス、愛してるよ。君は私のたった一人の大切な妻だ」
「リーゲル様……!」
滲む視界の中、彼の美しい顔がゆっくり近付いてくる。
動く人形と化した彼との結婚式では、当然口付けなどしなかったけれど。
私はこの時、リーゲル様と初めての口付けを交わした──。
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ここまで長かった……けど、まだ終わりじゃないです!
まだ終われないいいいいい
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!




