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私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした  作者: 迦陵れん
第六章 旦那様の傍に居たい

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謝罪

 リーゲル様が、王女殿下の傍に片膝を付く。


 彼はそのまま、王女殿下の手首の縄を解こうと手を伸ばし──。


「待てっ! 勝手な事をするな!」


 止めようとするエルンスト様を華麗に躱すと、その替わりとばかりに、リーゲル様は手に持った何かを彼にそっと渡した。


「お前にやる」

「ん?」


 不審気に渡された物を見るエルンスト様。リーゲル様はそんな彼の肩を軽く叩くと、此方へと戻ってくる。


 あら? 王女殿下は? 縄を外された様子もないし……。


「ちょっとリーゲル! わたくしを助けてくれるのではなくて!?」


 怒って声を荒げる王女殿下。


 そうよね。私もリーゲル様が王女殿下を助ける為に其方へ行ったと思ったのだけれど──。


「残念だったな。リーゲルは、僕があんたを連れて行きやすくしてくれただけみたいだぞ」


 エルンスト様が先程リーゲル様に渡されたらしき物を、見やすいように王女殿下の方へと差し出す。


 どうやらそれは長いロープのようで、よく見ると、王女殿下の手首を縛るロープへと繋がっている。あれを引っ張れば、連れて行く時にいちいち王女殿下の身体に触れなくても、引っ張って行けるみたい。


 でも、どうして態々そんな事を?


 疑問に思ってリーゲル様を見ると、彼は私の気持ちが通じたかのように、ふっと笑った。


「嫌がらせだよ」

「嫌がらせ?」

「嫌がらせって、どういうことなんですの!? 貴方はわたくしの婚約者でしょう!?」


 刹那、その場にいた全員の目が、王女殿下へと集中した。


「「「は……!?」」」


 王女殿下は今、なんて仰ったの?


 婚約者? 婚約者って発音で、違う意味の言葉ってあったかしら? こんやくしゃ、こんやくしゃ……。


「婚約者……こん、やくしゃ? こんや、くしゃ……」

「こ、ん、や、く、しゃ。どこで切っても言葉にならないような……今夜、くしゃっと……違う、字が多いな」


 うん、全員の混乱が見て取れるわ。


 エルンスト様ならともかく、既に私と結婚してるリーゲル様が婚約者って、ありえないものね。


 何をどうしたら、そんな考えに行き着くのかしら?


「奥様、あまりにも脳内お花畑すぎて被害が半端ないので、王女殿下の口を塞いでしまいましょう」


 言うが早いか、私の返事を待つこともなく王女殿下の口に、見事な早技で猿轡を噛ませてしまうジュジュ。見事すぎる。


「これで奥様の耳が腐ることはないかと存じます」


 一仕事終えた、と言いた気にパンパンと両手を叩き、その後は私の視界から王女殿下を隠すかのように仁王立ち。


 本当にこれ、不敬罪で訴えられたりしないでしょうね?


 心配する私をよそに、エルンスト様が王女殿下を無理矢理立ち上がらせた。


「んんん! んん~! ん~!」


 なにやらエルンスト様に文句を言っているようだけど、猿轡のせいで何を言っているのか全然分からない。


 エルンスト様も、殿下が何を言っているのかなんて興味がないみたいで、リーゲル様に渡されたロープの端をしっかり握りしめると、私に向かってにっこりと微笑んだ。


「取り敢えず僕は仕事を終わらせないといけないから、今日のところはこれで失礼するよ。グラディス嬢、君のことは必ず助け出すから、もう暫く待っていてくれ」

「奥様は助けられるような状況にはございません!」


 怒ったジュジュの声に追い出されるようにして、エルンスト様は王女殿下を連れ、その場から居なくなる。


 最後に彼が言った言葉の意味がよく分からなかったけど、一体何が言いたかったんだろう?


 私を此処から助け出す? でも、リーゲル様もジュジュも一緒にいるから、特段エルンスト様に助けてもらわなくても問題はない。じゃあ、どこから……?


「リーゲル様、さっきのエルンスト様の仰られた言葉の意味……分かりますか?」


 リーゲル様に聞いてみると、彼も私同様首を傾げた。


「いや、さっぱり分からない。それ以前に、陛下がアダマン侯爵令息に王女殿下の捕縛を指示したことについても理解不能だからな」

「そうですよね……」


 王女殿下は王宮に住んでいるんだから、父親である陛下が捕まえようと思ったら簡単に捕まえられる筈なのに、どうして王宮内では捕まえなかったんだろう?


 エルンスト様の口振りでは、王宮外で捕まえなければいけないようだったし……。


 何が何だかサッパリ分からないけれど、エルンスト様の先程の様子からしたら、近いうちに私に会いに来てくれそうだから、その時に聞けばいいか、と考えを放棄した。

 

 分からないことに拘って、いつまでもそれについて考えるのは、時間の無駄だ。


「私達も、そろそろ帰るか」

「はい、そうしましょう」


 リーゲル様にエスコート宜しく手を差し出され──そこで、彼は「あ」と言って動きを止めた。


「す、すまない! 君も手首を縛られていたんだな。気付かず、本当に申し訳なかった」


 此処で漸くリーゲル様が私の状態に気付き、縛られた手首を自由にしてくれる。


 今日一日で、何度彼に謝られたか分からない。そんなに謝罪しなくても、私はまったく怒ってなどいないのに。


 でも結構な時間縛られたままでいたからか、私の手首にはくっきりと縄の跡が残り、皮膚も擦れて傷になってしまっていた。その為、それから無事に公爵邸へと帰り着くまで、私はまたリーゲル様にしつこく謝罪されたのだった。


 



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