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私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした  作者: 迦陵れん
第一章 旦那様と仲良くなりたい

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舞踏会への招待

 私がヘマタイト公爵夫人になって、一ヶ月程経ったある日のこと。


 待ちに待った舞踏会への招待状が届けられたと、侍女のポルテから報告があった。


「まあ! 漸くなのね。招待主は誰? 規模はどれぐらいなのかしら?」


 招待状を嬉しそうに差し出してくるポルテに、次から次へと質問をぶつけてしまう。


 リーゲル様の婚約者時代は舞踏会なんて大嫌いだったけれど、晴れて公爵夫人となった今では全く逆。寧ろ楽しみで楽しみで仕方がない。


 結婚してから今日まで、リーゲル様とせっかく同じ家に住んでいるというのに、家の中ではお互いに関わらないという契約のせいで、顔すら見ることが叶わなかった。


 どんなに嫌われていようとも、疎まれていようとも、同じ家にいたら必然的に顔を合わせることぐらいあるだろうと楽観的に考えていた私を嘲笑うかのように、彼は私を徹底的に避けまくってくれたから。


 それがただの偶然によるものなのか、故意に避けられているのかが、私には分からなかったけれど。


 たかが邸宅。されど公爵家の豪邸。


 離れではなく同じ棟に住んではいるものの、公爵家はとにかく広く、お互いの部屋の階数が同じであったとしても、普段それほど顔を合わせることはない。だというのに、私とリーゲル様の部屋は更に階数すらも違う為、格段に遭遇する確率が低かった。


 しかも、リーゲル様はお仕事がお忙しいため、朝が早くて夜が遅い。その上頻繁に外出までする。


 そして当然ながら、私に彼の予定は知らされないため、私が何とかしてリーゲル様に会おうと早起きして食堂に行ってみても、既に朝食を終えられて執務室に行ってしまった後であったり、ならばと夜遅くまで食堂で時間を潰してみたら、出張中で帰宅しなかったりと、そんなことばかりで。


 結婚したら毎日リーゲル様のご尊顔が拝めると思っていた私の思惑は、完全に外れてしまったのだった。


 だけれども、舞踏会に出席するということは──。


 淑女としての嗜みを忘れ、ついにやりとした笑みを浮かべてしまう。


 それに素早く気付いたポルテが、私と同じような笑みを浮かべると、こう言った。


「奥様、お気持ちは痛いほどに理解できます。舞踏会は多くの人が集まる場所ですから、普段はお顔を見ることすら難しい旦那様と、人前で、堂々と……」


 わざとらしく言葉を区切るポルテを見、ゴクリと唾を飲み込む。


 そんな私に彼女は一瞬思わせぶりな視線を向けると、次の瞬間、満面の笑みを浮かべて、大きな声で言い放った。


「仲睦まじくイチャつけるということですねっ!」

「きゃあああああああああっ」


 あまりの嬉しさに私は叫び声をあげ、悶絶した。


 ヤバい、嬉しい、どうしよう。


 形ばかりの夫婦となった超絶美形の旦那様と、人目を憚らずイチャイチャできるなんて。


 舞踏会が終わったら、幸せすぎて死ぬかもしれない。ううん、いっそのこと死んでもいい、というか死にたい。


 大好きなリーゲル様とイチャイチャしまくって死ねるなんて最高すぎる。舞踏会が終わったら誰か殺してくれないだろうか。


 ついそんなことを思ってしまうほど、心は舞い上がっていく。


 婚約してから今日までずっと、リーゲル様には塩対応されっぱなしだった──と言うほど会ってない──けど、今度の舞踏会で初めて優しく接してもらうことができるのだ。


 何故なら、他家の方々に仲睦まじく思わせるということは、リーゲル様自身もある程度は疑われないような行動を、率先して行なってくれるということなのだから。


 外では仲睦まじくと仰ったのは彼の方なのだし、だったらちゃんとしてくれるよね?


 これまでの対応が冷たすぎたため、一体どんな風に扱ってくれるのか想像もつかないけれど。


 お相手は他ならぬリーゲル様なのだから、きっと絶対的な王子様対応で私を天国へと導いてくれる筈。


 そう考えると、公爵夫人として初めて舞踏会に出席するという不安より、期待と喜びの方が断然大きくなってしまう。


 しかもしかも、人前で堂々とイチャつくって──。


 と、そこまで考えた時、ふと私は重大なことに気付いて、勢いよく顔を上げた。


「お、奥様? どうかされましたか?」


 驚いたようにポルテが声をかけてくる。だけど私は、とてもじゃないけど返事をできる心境じゃなかった。


 だって、気付いてしまったから。とても重大なことに。


 気付かなければ、きっと幸せなままでいられただろう。でもそうしたら、それはそれで後から追い詰められていたに違いないから、今気付いたのは僥倖だったかもしれないけれど。


「だけど、どうしたら……私、どうしたらいいの?」


 呻くように言い、頭を抱える。


 そんな私を心配してくれたらしいポルテが、目の前にしゃがみ込んだ。


「奥様? 急にどうされたのですか? 一体何が……」

「ポルテ……どうしよう。私、私……」


 恐らく真っ青になっているであろう顔でポルテを見つめ、どうしよう、と繰り返す。


 どうしよう、どうしたらいいのか分からない。


 ついさっきまで幸せの絶頂にいたのに、今更になってこんなことに気付くなんて。


 ポルテに理由を言ってしまいたいが、内容が恥ずかしすぎるため、中々口にする勇気が出せない。


 どうしよう? でも、こんなこと相談されてもポルテだって困るかもしれないし。かといって、自分だけで解決するのは絶対に無理だ。


 一体どうしたらいいの……?


 頭を抱えたまま項垂れると、そんな私の耳に、ポルテの力強い声が響いた。


「奥様、ご安心下さい。このポルテ、例え何があろうとも、必ず奥様のお力になってみせます。ですから、気兼ねなく全てをお話になって下さいませ」


 神よ……!


 瞬間、私は思わず目の前のポルテを拝みそうになった。


 まさか、こんなにもすぐ近くに神が居られたなんて。


 いや、神というより天使ね、天使。


 ポルテはきっと神様が私に遣わせて下さった天使に違いない。


 この不甲斐ない私に遣わされた、たった一人の可愛い天使。


 この可愛らしくも力強い天使なら、私の悩みを払拭してくれるかもしれない!


 ポルテの優しさに後押しされ、私は祈りを捧げるように両手を組むと、先程頭に浮かんだ恐るべき不安を口にした。


「ポルテ……私、イチャつき方が分からないの!」

「えええ……っ!」


 慈愛の天使の表情が、驚愕によって塗りつぶされた瞬間だった。






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