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私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした  作者: 迦陵れん
第六章 旦那様の傍に居たい

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震える病気

 私が目を覚ました時、真っ先に目に入ったのは見慣れない天井だった。


「ここは……どこ?」


 すぐには状況が把握できず、私は起き上がって室内を見回す。


 ガランとした室内には誰もいない。意識を失う時、私はリーゲル様と一緒にいた筈だけれど、彼はどこへ行ってしまったんだろう?


 取り敢えず私をここへ寝かせて、王女殿下の所へ戻ったのかしら?


 だとしたら悲しいな──と考えていたら、ガチャリと音をたてて部屋の扉が開いた。


 そこから顔を覗かせた人物に、私は瞳を輝かせる。


「リーゲル様!」


 入室してきたリーゲル様は、手に水差しとグラスを持っていた。


「良かった、目を覚ましたか。突然意識を失うから心配したぞ」

「申し訳ありません……」


 リーゲル様に心配してもらえた事が嬉しいやら申し訳ないやらで、私は小さくなって頭を下げる。


 そんな私にリーゲル様はグラスを差し出すと、水差しから冷えた水を注いでくれた。


「一先ず水を飲め。私が無理矢理君を早足で歩かせたせいもあるかもしれない。すまなかった」

「そんな! リーゲル様は何も悪くないです!」


 ただ私がリーゲル様の匂いと温もりに興奮しただけ──なんだけど、さすがにそれは言えないから、代わりに水を一気に飲み干す。


 そうだ、良い考えが浮かんだわ。


「今日の外出が楽しみすぎて昨日あまり眠れなかったので、その疲れが出てしまったのだと思います。でも今少しだけですけど意識を失ったお陰で眠れましたので、もう問題はありませんわ」


 自信満々に言い訳をして、どうだ、とばかりにリーゲル様を見つめる。


 我ながら、最高に出来の良い言い訳が出たわ。私ってば天才かも?


 と思っていたのだけれど、何故かリーゲル様はぽかんとした表情をしていらして。


 あら? 私何かおかしなこと言った?


 分からず首を傾げると、リーゲル様は凄い速さで横を向き、ぷるぷると震え出した。


「え、リーゲル様……?」


 なんだか最近こうして震えるリーゲル様をよくお見かけする気がするわ。何かおかしな病気だったらどうしよう?


 心配になり、寝台から下りてリーゲル様にそっと近づく。


「リーゲル様、大丈夫ですか?」


 全身震えているから、リーゲル様がお持ちになっている水差しの中の水も激しく揺れているのだけれど、これはどうしたら良いのかしら?


 なんとなく水差しを両手で押さえてみるも、それを持つリーゲル様が震えているから、揺れはどうにも収まらない。グラス一杯分の水は減っているけれど、ほぼ満杯に入っているから、このままだと水が溢れる危険があって。


「リーゲル様、水が溢れてしまいます!」


 大きな声でそう言うと、リーゲル様の震えはピタリと止まった。


 え、凄い。発作って、こんなにいきなり収まるものなの?


 驚きつつも見つめていると、私と水差しを順番に見たリーゲル様は、そっと水差しを寝台の横にある台の上に置くと、今度はまるで糸が切れたかのように、その場に崩れ落ちた。


「えっ!? ちょ、だ、大丈夫ですか?」


 水差しを置いた台に縋り付くようにして蹲っているリーゲル様の横に、寄り添うようにして私はしゃがみ込む。


 リーゲル様は健康だと思っていたけど、実はどこか悪い所があるのかしら? 時々全身を震わせるのは、ご病気による発作だったり?


「リーゲル様、あの、何か私に出来ることがありましたら、遠慮なく仰って下さいね?」


 苦しいのかもしれないと思い、震えるリーゲル様の背中を摩る。


 ああ、こんなにも全身を細かく震わせて……私にしてあげられることがあればいいのに。


 心配で堪らなくて、背中を摩りながらリーゲル様の顔を覗き込む。否、覗き込もうとしたら、何故か体の向きを変えられ、私から顔を隠された。


 どうして!?


「リーゲル様、どうして顔を……? もしや顔に何かあるのでしょうか?」


 発作による湿疹が出てるとか、顔色が悪いとか、そういった理由でもあるのかしら?


 だとしても、今はそんなことを気にしている場合ではない筈。


「私だったら大丈夫です。リーゲル様のお顔が病気でどうなっていたとしても、そんなもの気にしませんわ」


 だからどうか、安心して私に顔をお見せになって──。


 と続けようとしたのだけれど。


「私は病気になどなっていない!」


 勢い良く立ち上がったリーゲル様は、ハッキリとした声で言い切った。


「え? で、でも、もの凄く震えていらっしゃったから……」


 病気ではなかったの? ではあの震えは一体なに? そして、私から顔を隠したのは?


「震えていたのは……その、なんというか……君があまりにも面白……い、いや、ええと、君が……」

「私が?」


 なにやらモゴモゴ言っているリーゲル様の声は、殆ど私に聞こえては来ない。


 さっきはあんなにもハッキリとした声で仰ったのに、今はどうしてしまったのかしら。


「あの、リーゲル様──」

 

 やっぱりどこかおかしいのでは? と尋ねようとした時だった。


「君が可愛すぎて震えが抑えられないんだ──って言えばいいんですよ」


 そんな声が窓の方から聞こえてきて。


 慌てて窓へと視線を向けた私とリーゲル様の声は、とても綺麗に重なった。


「「ジュジュ!?」」







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