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私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした  作者: 迦陵れん
第二章 旦那様の様子が変です

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小石による不幸

 今日は、待ちに待った舞踏会! ということで、早起きしてしまった。


 舞踏会は夜からだというのに、朝の五時に目が覚めるってどういうこと。


 楽しみなことの前日は、いつも眠れず時間ギリギリになって寝落ちして、結局遅刻──ということが過去何度かあったから、今回は絶対に遅刻できないと思って昼寝をし過ぎたのがいけなかったのかしら。


 でもせっかくの舞踏会に遅刻は絶対できないし、寝不足のせいで不細工な顔に更に不細工の上書きをするのも嫌だし……と思って昨日は一日中昼寝を勤しんだのだけれど。


 ちなみに昼寝って勤しむものなのかしら?


 ふと考えるが、すぐにそれを振り払う。


 ま、まぁいいわ。とにかく寝坊しなかったし、折角だから朝のお散歩でも楽しもう。


 と、着替えをするためにサイドテーブルのベルを鳴らそうとして気が付いた。


 こんな早い時間じゃ、ポルテもまだ寝てるんじゃない? と。


 だとしたら、こんな時間に無理矢理起こすのは可哀想だし、かといって寝巻きで外へ出るわけにもいかない。自分で着替えようにも、公爵夫人としてのドレスは全て背中にファスナーがついているため、体の硬い私ではファスナーが上げられず、まず無理。


 となると……悩みに悩んだ末、結局私は寝巻きの上にマントのようなコートを羽織って庭園へと出ることにした。


「ん〜……気持ち良い! やっぱり早朝は空気が清々しいわね」


 朝の空気を胸いっぱいに吸い込んで、大きく伸びをする。


「今日はとうとう……待ちに待った舞踏会なのよね? 私、日付を間違えてないわよね? 本当に今日で合ってるわよね?」


 わりと大きい声で独り言を呟きながら、軽やかにダンスのステップを踏む。


「間違ってもリーゲル様のおみ足を踏むわけにはいかないもの。公爵夫人として完璧なダンスを披露しなくちゃ」


 実のところ、私は結構ダンスが得意だ。


 見た目で馬鹿にされることが多かったから、見た目以外の部分は努力に努力を重ねて、頑張りまくってそこらの令嬢なんて目じゃないぐらい、今では色んなことが得意になっている。


 勉強はもちろん、淑女の嗜みであるダンスは言わずもがな。


 舞踏会で会場中の視線は当然見目麗しいリーゲル様が独り占めしてしまうだろうから、私の役目はそこで更に彼を格好良く見せるため、難易度の高い曲を完璧に踊ることだ。


 幾ら完全無欠のリーゲル様でも、流石にダンスを一人で踊ることはできない。


 だからこそ、難易度の高い曲を存在感の薄い私が彼と完璧に踊ることで、傍目にはリーゲル様が一人で完璧なダンスを披露したように見える──はず。


 そのために私はリーゲル様だけが目立つよう、自分のドレスは極力地味目なものを選んである。


 地味で不幸そうな顔の女が地味なドレスなんて着た日には……誰にも存在を認識されないんじゃないだろうか。と思ってしまうけど、私が目立ったところで良いことなんて一つもないから、これで良い。


 逆に私が目立つと、結婚前の夜会の時みたいに嫌味や虐めの標的にされかねないから、影に徹した方が自分的に平和でいられそうだ。


 私はリーゲル様の妻兼影として、舞踏会では最高に彼を輝かせてみせるわ!

 

 決意も新たに、舞踏会で踊るリーゲル様と自分の姿を想像し、ニヤつきながらターンしようとした瞬間──。


 何の恨みがあったのか、軸足となる左足のすぐ側にあった小石が、私の足首をへし折りにきた。


 正しくは、そこにあった小石を踏んで、華奢な私──自分で言う──の足首が、グキっとなっただけなのだけれど。


「いっ……!」


 足首を捻った反動で二、三歩よろけ、太い木の幹に手をついてことなきを得る。


 丁度いい所に木があったお陰で転ぶのは免れたけれど、足は挫いてしまったかもしれない。というか、滅茶苦茶痛いから絶対に挫いてる。


 リーゲル様と夫婦になって、初めての舞踏会なのに……。


 何で私はいつもこうなんだろう。毎回毎回、まるで呪いにでもかかっているかのように、ここぞという時に限って物事が上手くいかない。


 たまに上手くいってると思っても、調子にのるとすぐこうなるのだ。


「私ははしゃぐなって言いたいの? 見た目通り不幸でいろっていうこと?」


 誰にともなく、そう尋ねる。


 リーゲル様と結婚できた時には、人生最大の幸せを手に入れたと思った。


 けれどもしかしたら、私はそれで一生分の幸運を使い果たしてしまったのかもしれない。


 リーゲル様という、身に余る幸運を貰った時点で。


「そうよね、それ以上を望もうとした自分が烏滸がましかったんだわ。リーゲル様と結婚できただけで、満足しなきゃいけなかったのに」


 ぐっと歯を食いしばり、涙を堪えて空を見上げる。


 だけどやっぱり、そんなの悔しい。私だって幸せになって良いはずだ。目下のところ、不幸へと一直線になっているけれど、この先ずっと不幸しかないなんて耐えられない。


「大丈夫よ。病は気からっていうもの。こんな足の痛みなんて、気にしなければなんてことはないわ。ちょっと捻っただけだから、きっとすぐ治るわよね。気にしないのが一番よ」


 自分に言い聞かせるかのように言い、できるだけ自然に歩いて部屋へと戻る。


 捻った足を地面に着いた瞬間、鋭い痛みが走ったような気がしたけれど、こういうのは庇うと良くないとも聞くから、あまり体重をかけないように慎重に。……でも、やっぱりかなり痛いかもしれない。


 手当を頼むとポルテが心配するだろうから、自分でやった方がいいかな。でも、薬箱は何処にあるんだろう?


 邸内が広すぎるため、未だ色んな部屋や物の配置を覚えきれていない私は、痛む足を引き摺りながら、室内と庭園を繋ぐバルコニーで途方に暮れた。


 












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