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仮宿で君を思う  作者: 幽霊の家
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九羽の矢重

雨やまず、町の中で彷徨いながら自分の体がどうなったのかを確認している。

「濡れないから傘いらないし、疲れないから休みを取らなくてもよさそう」

先から独り言が多い気もするが、一応感情的なものがまだ持っているような気がする。

独り言が多いのも寂しさから由来したものかもしれない。

「幽霊って、どうやって生きるのだろう」

冥府に税金を納めないといけないかな、人間みたいに。

そもそも腹もすかなさそうだし、水もいらないかも。

生き物としてどうかと思うが、幽霊という存在は本当に生き物であればの話だけど。

「これからどうするか」

自分以外の幽霊もいる、とどうしてそう思うのかわからないが、確信に近い感情を持っている。

もしかして幽霊ってある程度の共感能力も持っているかもしれない。勝手の想像だけど。

身体能力を試すために跳んでみたが、どうやらこの体では飛べないらしい。できるのは歩くと走るだけ、意外と不便。

「車も自転車も乗れないし」

街に来る前に試しに墓場の隣にある駐車場の車に乗ってみたが、足が透けてて「乗っている」という状態になれないのを確認した。

幽霊ってなくなる、というより成仏するまでずっと、地面にしか足がつけないかもしれない。

そこまで試していないが、電車を乗ろうとしても多分透けてて電車の下に落ちそう。

というより地平線より高いところに行けないみたい。

「正真正銘の『地』縛霊か」

走れるが歩けるが、それ以外何もできないのも苦行かも。まして今の時代、なにもかも速さが第一で、ゆっくりと歩くのも慣れないものだ。

口にこそ出していないが、文句しか湧いてこないこの幽霊の仕様に頭を抱えたくなる。

生前、幽霊になったら世界一周したいとか思ったが、ここまで不便とは思わなかった。

「というか海渡れるのかこの体」

塩苦手そうだし、海に入ったら即成仏する可能性もある。

ため息をついて、住み慣れた街を見わたる。

九羽くわ市、小さくて、中央の大都市から離れている町だが、一応スーパーも図書館も整備されており、生きるためのものは足りている町である。そして当たり前のように、この町の若者たちも大都市を憧れて続々と町から出ていって、少子高齢化が進んでいる町。自分みたいなこの町から出る気さらさらない若者はそもそもいない気がする。

出たくないではなくそもそも家庭の事情で出れらないのが我が家だけど。

墓場から離れて数十分を歩いて、大きな屋敷の前で止まった。

全体的に荘厳そうごんを意識して黒に染まれた壁で囲まれているこの屋敷はこの離れの町の離れを占拠しており、枯山水の庭が主体となったこの屋敷には集会所以外に住む場所はそこまで多くなく僅か四部屋で、しかも全部書院造りで、面積を占めている割には中身のない家となっている。

「......」

矢重やえ家、この町を作ったと言われた武士の血をうけた一族で、古い思想に染まられただけの没落した一族である。そしてこの古き一族の長は頭が江戸時代の私のおじいさんで、子に自分の人生を選ばせないような人である。運か不運か私は三男坊だからそこまで縛られていないが、それでもこの町から離れないのが定めだった。

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