みんながハッピーエンドの三枚のおふだ
第4回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞応募作品です。テーマは「おふだ」。
昔々、ある所に高名な和尚と、彼の元で修行する小僧が居ました。
小僧は不真面目だったので、修行をサボる口実を常に考えていました。
折しも季節は秋。小僧は隣の山で栗を拾ってくると言い、和尚は反対しました。近所では山姥が出るという噂を聞いたからです。
「でも僕はどうしても美味しい栗を和尚様に食べさせたいんです!」
「仕方ないな。では日暮れ迄には帰ってくるのだぞ。それと万一の時はこれを使え」
和尚はそう言い、三枚のお札を小僧に持たせました。
さて、隣山に来た小僧はこれで修行がサボれると喜んで昼寝を始めました。
目が覚めるともう日が傾きかけています。慌てて栗を拾い始めますが間に合いません。
と、そこへ一人の老婆に出会いました。
「!?」
老婆は痩せて落ち窪んだ目でギラギラと小僧の手元を見つめています。そして、もう日暮れで危ないから家に泊めてやると言いました。
小僧は躊躇いましたが、あまりにも老婆が痩せて弱々しいので彼女よりも夜道の獣に出会った方が危なそうだ、と判断して素直に泊まる事にしました。
御礼に拾った栗を渡すと、老婆は大喜びでその栗を使って料理を作ります。
美味しい栗料理を腹一杯食べた後、老婆は恥ずかしそうにこう言いました。
「実は小僧さんがテキパキと栗を拾っているのを見て、それを分けて貰えないかという下心で声をかけたんじゃ」
「僕の手を見ていたのはその為ですか」
「うちの畑は狭く土壌が悪いから作物も育たん。せめて栗を拾おうとしたがこの年では思うようには動けず……。お陰で久しぶりに御馳走が食えた。ありがとう」
老婆の言葉に、サボり魔の小僧は自分が恥ずかしくなりました。懐から一枚のお札を取り出し柱に貼ります。
「お札よ、知恵を貸してくれ」
なんとお札は言葉を話すようになりました。小僧はお札とボソボソと話した後、外に出ます。
「お札よ、炎の壁になれ」
お札は山の一角を四角く焼きました。それを見た老婆は慌てました。
「ああ、山火事になってしまう!」
小僧は最後の一枚を使います。
「お札よ、川になれ」
お札は炎を消しました。後に残ったのは四角く焼かれた土地とその横を流れる川。
「お婆さん、これは焼畑農法と呼ばれる方法だそうです。これで作物を育てる事が出来るでしょう」
小僧は老婆の為に畑を耕し、川に罠を仕掛け魚を捕れるようにしました。
老婆は涙を流して喜び、小僧はその後、和尚の元で修行に励み立派な僧になりましたとさ。
めでたしめでたし。
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