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タイムパラドックス

 ここに至り、美桜のトロッコ問題の指摘、もしかしたら正しいのかもしれない、という結果を生みつつあった。


 日本軍が善戦し米軍の空爆態勢整備が()()より大きく遅延したため、1945年に至っても東京、大阪への大空襲はなかった。沖縄戦も()()行われていない。


 あれから、こちらの時間で三ヶ月ほど、とうとう日記は1945年8月分、最後の一ページとなった。おそらく、これで、僕が曽祖父に送る手紙は最後だろう。別れの挨拶を丁寧に書き硯箱に入れた。


 翌日、さあ、最後の日記、曽祖父の返事に希望がありますように、そう願って開いた最終ページ、そこには……。


 空白、何も記されていなかった。


 ど、どういうことだ? 僕はネットで歴史の改変状況を調べまくった。ところ、なんと!!!


「1945年8月、世界初の原子爆弾が()()に投下された」


 ああああああ! なんてことをやってしまったんだ! 僕は大馬鹿者だ! なぜ、広島に原子爆弾が投下されたのか? そこまで深く考えていなかった。当時、大空襲で焼け野原と化した東京や大阪とは違い、広島にはある程度の建造物が残っていた、だから、だからなのだ、核兵器の威力を試すには好適だったのだ。


 東京が大空襲を逃れ無傷なら、当然だろ? 米国は日本にとって最もインパクトのある場所に落とすに決まってるじゃないか。日記の最終ページが空白だった理由も分かった。曽祖父は原爆投下に巻き込まれ、死んだのだ。


 だが、この凶悪な兵器の威力を前にした日本は、()()と同じ8月14日、ポツダム宣言の受諾を決めた。結果、曽祖父が嘆いた、特攻などという愚かな戦術が行われることはなく、彼は自らの命と引き換えに、その悲願を果たした、ということなのかもしれない。


 二ヶ月ほどの時が流れた。予想通り、あれ以来、曽祖父に手紙を送っても、そのまま硯箱にあるだけ、日記が書き変わることもなくなった。だが、歴史の改変は少しずつ現代に近づいているようだ。現時点で1946年までの歴史が変わった。


 でも、それは、劇的なものではなく、むしろ、歴史の修復とでも言えばいいだろうか、45年と46年にあった矛盾点を解消しつつ、僕の知る()()へ収束するように感じる。


 改変の侵食は、僕が毎日書いていた手紙に対し、一週間分の日記が書き変わった速度に準拠しているようだ。七倍の速度、すなわち五十二日経過すると、過去一年分が変わっている。


 これが、現代に()()()()()時、何が起きるのだろうか?


 まず考えられるのは、曽祖父は子を成さず死んだ訳だから、僕の存在が消滅するということだ。だが、僕のいない世界が現出すれば、僕が行った過去改変もなかったことに、なりはしないか?


 前者であれば、僕は神の禁忌を犯した咎人、その罰を甘んじて受け、消え去るしかないのだろう。もう、覚悟はできている。多くの死ななくてもよかった人を殺した僕にはお似合いの最期だと思う。


 後者だとしたら、全てが元通り、僕は許されたと考えていいのだろうか? 反面、曽祖父の望みは叶わなかった、ということになる。


 さらに、さらにだ、僕は歴史を書き換えたと思っているが、僕や美桜が、今、観測できているのは記録や記憶の改変のみだ。記録、記憶にある事象が本当に起きたか否かは、確認のしようがない。


 僕が過去とやり取りができたのは、手紙と日記、文字列=情報だけだった。ならば、情報=記録、記憶のみが改変された、という可能性だってあるんじゃないか? 突き詰めれば、何をもって現実を観測したと言えるのか? という哲学的命題ともなる。あああ、もう、もう、何が何だか分からなくなってきてしまった。


 だけど、一つだけ確かなことがある。僕が行った行為に神の審判が下るのは、まだ十年以上も先の話ということだ。どうなるのか分からぬこと、善悪、正邪すら現時点では判断できぬことを思い悩んでも意味がない。そう、僕の運命は神の御心に委ねるしかない、と思い直した。


 そうなると今度は、美桜のことが気になって仕方がない。今、思えば、美桜との出会い、偶然などではなかった気がする。曽祖父とのやり取りを前提とした、必然だったのではないか? だとしたら、神がリセットを選択した場合、それすらも消え去ってしまうことになりはしないか。


 うん、だけど、このケースなら問題はない、再び彼女とコンタクトを取り、また一から交際を始めればいいはずだ。


 いや、いや、リセットということは、二人の記憶すらも消去されるんじゃないか? ならば僕は、彼女は恋人だった、と思い出すことができない。


 どうすればいい? ああ、そうだ、忘れていた、まだ十年以上の猶予が僕にはあった。これからの十数年をどう生きるか? と考えればいいじゃないか。ならば、答えは一つ! 善は急げだ、明日、指輪を買って美桜にプロポーズしよう。


 僕たちが夫婦として互いを認め合い、暖かい家庭を築けたのなら、神様だって大目に見てくれるかもしれない。僕と美桜の歴史、その消去を思いとどまってくれるんじゃないかな。虫のいい希望的観測だが、今は、これに賭けるしかない!


 うん? 待てよ? そもそも、そもそもだ。彼女は僕の想いを受け止めてくれるのか? こんなところで「ごめんなさい」とかないよね?


 大丈夫、大丈夫だ、彼女はきっとイエスと言ってくれる。だって、僕は「歴史を変えた男」なのだから。












 最後までお読みいただきありがとうございました!


 少々、難しいモノを書いちゃいましたでしょうか? とはいえ、専門家の方々から見れば、穴だらけですよねー でも、SF、フィクションだからご勘弁下さい、というのは逃げだと思います。私として、やれる限りはやりました!


 そもそも、過去とはなんでしょう? 私たちは、記録や記憶でしか過去を知ることができません。たとえ、タイムマシンが実現しても、過去に送れるのは情報のみだと思うのです。ならば……というあたりも、いろいろ考えて書いてみました。


 とにかく、いっぱい、いろいろ、調べて、頑張ったんだからね!


 ということで、では! また、別の作品にて……今度の異世界物はね、18禁じゃなくて15禁予定です。年内には出したいと思っています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 5/5 ・おー。すごい発想 [気になる点] ああ。やっと書きたいことが分かった気がする。 [一言] とりあえずハッピーエンドですね。たぶん
[一言] 終わった!? いやいや、お待ちなさいよ!w 半ばホラー入ってるホラーwww 怖いから! 歴史なのかホラーなのか。 いやある意味、秋に歴史出したのが間違ってる。 どう足掻いても暗くなるの…
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