マッサージ施術
『うーん、これは予定外だなぁ』
「そうですわねえ、どういたしましょうか?」
神様は困ったように頬を指でかくとしばらく考えたり、誰かと念話をしているのか黙ってしまいました。
しばらくすると、何度か頷いてわたくしの方を向き直りますと、にっこりと微笑みました。
『他の勇者なら『ざまぁ』って笑って見送るところだけど、ティタニアだしね。ちゃんと一人でも大丈夫なようにしっかり施術を施してあげるよ』
「そうですか」
わたくし以外だったらこのまま放り出されていたという事ですわね。
神様の聖女をしていてよかったですわ。
『ティタニアには色々教えているけど、この世界の道具とか、魔法について何となくわかるようにするのと、この世界に馴染むようにする施術、要するに生活するのに困らないようにする施術だから必要なものだよ。痛かったり怖かったりは多分ないから大丈夫』
多分なのですか、なんというか、不安しかありませんが、扉の向こうに消えて言った方々の悲鳴なども聞こえてきませんでしたし、大丈夫でしょう、多分。
「それでは、わたくしはこれよりこの世界で生きていくための施術なるものを受けてまいります。またお会いできますでしょうか」
『うん、一人でダンジョンに放り出すわけだからね、アフターフォローもばっちりしておくよ。教皇から貰った禁書があったでしょう』
「ええ」
『それ貸して』
「? よろしいですわよ」
その言葉にわたくしはアイテムボックスから禍々しい禁書を取り出しますと神様にお渡しいたしました。
神様は『これなら大丈夫』とおっしゃってご自分のアイテムボックスにしまいました。
さてはて、何をする気なのでしょうね。
悪いようにはされないでしょうが、何をされるのかわからないというのも恐ろしいものですわ。
『じゃあ、施術を受けておいで、可愛いティタニア』
「はい、いってまいります」
わたくしは神様に頭を下げてから、円形状の扉を押して中に入って行きました。
中は神様に見せていただいた異世界の施設の一つのエステと言うものに似ておりまして、よい香りのする部屋でございました。
白衣を着た女性が顔の部分に穴が開いたベッドの横に立っておりまして、わたくしに向かってにっこりと微笑みかけてくださいました。
『話は聞いているわ。早速施術をしたいから着ている物を全部脱いでこの施術台の上にまず仰向けに寝てもらえるかしら』
「全部脱ぐのですか?」
『ええ、そうよ』
少々ためらいはありましたが、医療行為のようなものを受けるのだと思えば仕方がないと思って、着ている夜着を脱いで、施術台の上に仰向けになりました。
そうしますと、女性が手にボトルのようなものを持って中を手に取ると揉みこんで、わたくしの足をなぞるようにマッサージをしてきました。
特に足の裏などは念入りにマッサージされ、気持ちがいいところをぐいぐいと押されました。
その調子で仰向けで見えている部分を全てマッサージされますと、長い針のようなものを取り出されまして、『じっとしててね』と言われてサクッと体に刺されてしまいました。
痛くはありませんでしたが、なんと言うか自分の体から針が生えているというのは何とも言えない違和感がありますね。
しばらくそのままでいると、針が外され、今度はうつぶせになるように言われましたのでその通りに致しましたら、今度もまた同じようにマッサージをされて気持ちがいい場所を何カ所も押されました。
そしてやはり同じように長い針を取り出されて何カ所にも刺されてしまい、はたから見るとわたくしはハリネズミに見えるのではないかと思えるほどに針が刺さっているような気がします。
しばらくして針が抜かれると、ゆっくり起き上がってベッドに腰かけて座るように言われましたのでそうしますと、肩から首、頭をマッサージされて、特に頭は念入りにマッサージされ、ぐいぐいと何カ所も指で押されました。
『はい、終わりよ。体についたオイルをふき取るからゆっくりベッドから降りて頂戴』
「はい」
ベッドから立ち上がると、女性は暖かい濡れタオルで丁寧に全身を拭いてくださって、ぬるぬるとした感触が無くなったところで、改めてもう一度全身を拭いて、夜着を着るように言われました。
素直に夜着を着ていると、背後から『やりすぎちゃったけどいいわよね』という言葉が聞こえて来て一瞬不安になりましたが、終わってしまったものをどうこう言っても仕方がありませんので、聞かなかったことにして夜着を着終わりましたら、女性の方を振り向きました。
『じゃあ、これでここでの施術は終わり。さっきまでと違ってこの世界で生きていくための基本的な知識なんかが刷り込まれているでしょう?』
「そうですわね。これから行く拠点の事等が頭の中に浮かびますわ」
『結構。拠点にある道具の使い方もわかるようにしてあるから安心してね。もっとも、貴女の場合は神様に色々と事前情報を貰っているみたいだけれど』
「この世界に来るとわかってから時間がありましたからね」
『まあ、なにはともあれ。これからこの世界で生きていくんだから、色々と頑張ってという感じね。神様もこの遊びに飽きたら解放してくれると思うけど、いつ飽きるかわからないし、飽きて解放されたらどうなるのかもわからないわ。もしかしたらずっと飽きずにいた方が貴女達の為なのかもしれない、まさに神のみぞ知るという所ね』
「そうですわね」
『じゃあ、あっちの扉を開けて中に入れば拠点になる部屋に到着するわ。幸運を祈っているわね』
「ありがとうございます。では、失礼いたします」
わたくしは女性に頭を下げてから扉を押して中に入りました。