僕の使命(ナティル視点)
僕は神様より元の世界に与えられた禁書。
その前は他の世界で過ごしていたけれども、その内容の危うさから同じように何百年と封印されていた。
その世界が破滅する前、神様に救い出されて世界を移動したけれども、やはり禁書として扱われ、僕を読み解くことが出来る人間は現れなかった。
あのまま永遠に誰にも扱われることなく過ごすのかと思っていたら、ある日教皇によって時の聖女に手渡された。
彼女は婚約者と妹に裏切られた聖女だった。
禁書であった時も、意識はあったので神殿の中で起きていたことは視ることが出来ていた。
聖女は、ご主人様は歴代の聖女の中でも強い力を持っていたし、盲目的に神様を信じているのではなく、自分なりに神様を受け入れて肯定していた。
ご主人様の事はそれこそ生まれて間もない時から視ていたから、歴代の聖女と同じように親しみを持っていた。
教皇がご主人様を守ってくれと言って、禁書庫から僕を持ちだしたことには驚いたけれども、教皇はきっとご主人様になら僕を読み解くことが出来て使いこなせると信じていたのかもしれない。
だが、この世界に来て状況は一変した。
ご主人様は初めから一人で行動しなければいけないことになり、そのフォローとして僕が選ばれた。
神様の元に渡った僕は、神様に特殊な術を施されて、一定の経験値をためれば人型に顕現することが出来るようになった。
ご主人様の元に戻され、数多くの武器や防具を吸収していく中で、僕はダンジョンの中で活躍するご主人様を視ていた。
ステータスが高いという事もあったが、ご主人様はすぐに戦いと言うものになれ、視ているこちらが気持ちよくなるほどに爽快にモンスターを倒していった。
そうして一週間ほど経ち、僕は人間として顕現することになった。
禁書の時も視ていたけれども、実際に人の姿を得て見るご主人様は美しい。
長い銀の髪も、神に愛されている証であるオッドアイも、何もかもが僕を魅了してやまなかった。
僕の前にすでに眷属が居るのはいささか納得いかない部分もあったが、それでも僕がご主人様の眷属である事にかわりはないから構わないと思うようになった。
チュートリアルをクリアする際に、また新たに眷属が加わったが、僕程の能力があるわけではなかった。
それでも、その頃にはご主人様を守る仲間が増えることは喜ばしいと思うようになった。
二十階層の主と言われるほどに特定の階層に留まっていた主様が友人の依頼により狩場を変えると知った時は驚いたが、それでもご主人様の能力と僕達がいればなんの問題も無かった。
当面の狩場と決めた八十階層は広大な草原だったが、僕の索敵はこの階層の全てをカバーできるから問題はなかった。
ご主人様はいつものように三手に別れて狩りをするように言ったので、護衛をいつものようにネーロに任せて狩りに出た。
僕にとってこの階層に出てくる程度のモンスターは指先一つで葬ることが出来る存在で、僕はモンスターが大量発生している場所を選んで率先して狩りをするようにした。
ご主人様がシンヤという勇者に教わった瞬間移動も大いに役に立った。
しかしながら、あのシンヤという勇者はご主人様との距離感が近い。
他にもご主人様と仲の良い勇者はいるが、どれも同性であり気にしていないが、ご主人様が異性で仲良くしている勇者はシンヤという勇者のみ。
ご主人様は気が付いていないけれども、シンヤという勇者の事を特別に思っているように僕には思える。
拠点に招き入れる異性の勇者はあの勇者だけだ。
それに、必要な事だと言ってネーロすらおいて二人でダンジョンで過ごしたり、ご主人様に連絡して狩場に来て一緒に食事をとったりしている。
最近では眷属一同ご主人様とシンヤという勇者の関係性にやきもきしてしまっているのだが、ご主人様は恋愛に関しては鈍いのか、全く自分の中にある淡い感情に気が付いていないようだ。
その事に安心していいのか逆に不安になっていいのか、本体が禁書である僕にはわからない。
ツバキなどはご主人様を取られてしまう気がして面白くないと言っていたし、ネーロも同意見のようだ。
僕としては、シンヤという勇者がご主人様の役に立つことが出来るのならそれでいいと思う気持ちもあるが、ツバキ達と同じようにご主人様を取られてしまうのかもしれないという複雑な気持ちもある。
長い間眠っていたに等しい僕を活用してくれるご主人様には、多大なご恩を感じている。
これからもご主人様の役に立ちたいと感じている。
必要なら、ツバキ達がしたように神様に願ってステータスを上げてもらう事も考えなければいけない。
僕の場合じゃ呼び出す供物はともかく、生贄は一万体じゃどう考えたって足りないだろうけれども、必要な事ならばそれも仕方がないと思う。
眷属として、ご主人様を守るのは当然の事。
ご主人様の周囲にあるあらゆる危険を排除して快適な生活を送ってもらう事こそが、僕に課せられた使命だ。




