初めからトラブル発生?
次に目が覚めた時、そこは知らない素材でできた白いつるりとした繋ぎ目も角もない壁に囲まれた部屋の中でした。
あたりを見渡すと、同じように異世界から召喚されたのであろう人々が不安そうな顔で周囲を見渡していますが、周囲にあるのは壁ばかりで、事情を知らない方がいらっしゃったら誘拐されて監禁されているのだと思ってしまうのではないでしょうか。
あまり外れてはいないのですけれどもね。
周囲を見渡すと、寝乱れた夜着を纏ったエドワルド殿下とシャーレもおりまして、お互いに手を握り合ってオロオロとしております。
わたくし達のように夜着だと思われる服を着ている方や、神様に見せていただいた異世界の服を着ている方など様々な服装の方がいて、これを見ているだけでも楽しいですわね。
見たことの無い服装の方もいらっしゃって、なんだか周囲に怒気ともうしますか、いら立ちをまき散らしていらっしゃるようですけれども、そのような事をしても問題は解決しないのですよね。
だって、今回の原因は言ってしまえば神様の暇つぶしですから、それが終わるまでは神様は解放してくれるとは思えないのです、そもそも解放してくれる気があるのかすらわかりません。
お話を聞いている限りでは解放する気はなさそうですけれどもね。
わたくしのように状況を聞いている方は他にいらっしゃらないようで、皆様不安そうな顔や怒りをあらわにして周囲をみわたしていらっしゃいます。
「ティタニア! お前のせいだな!」
「なんのことでしょうか?」
「お姉様酷いです! 私達は明日婚姻式なんですよ! いくらエドワルド様が私を選んでお姉様を捨てたからってこんな真似をするなんて、あんまりです」
「わたくしのせいではないのですけれどもね」
しいて言うのであれば自業自得なのですが、わからないでしょうね。
「この俺に婚約破棄されて捨てられた恨みか? このような真似をして醜いとは思わないのか! 本当に性根の腐った女だな!」
「なんと言われようとも、わたくしのせいではありませんもの。無関係とは申しませんけれどもね」
「やっぱり! お姉様のせいなんじゃないですか!」
「エドワルド様を貴女がわたくしから寝取って、挙句の果てに妊娠してわたくしとの婚約破棄、それにお怒りになった神様が貴女達をこの世界に召喚した、それだけのことですわ」
「そんなのおかしいです! 私とエドワルド様は真実の愛で結ばれているんです! お姉様との婚約を続けていてもエドワルド様は幸せにはなれませんでした! 真実の愛の相手である私こそがエドワルド様に相応しいんです!」
「そうだ! 聖女の皮を被った悪女が! 貴様がキチンと神に事情を説明しなかったからこんな目に合っているのだろう! 今すぐに俺達を元の場所に戻せ!」
「無理ですわねえ、わたくしも神様によってこの世界に召喚された一人ですもの」
「この性悪女が! だからこそお前のような女と婚約破棄をしたんだ! 自分勝手で根暗で、人を見下し、加虐し、蔑む、本当にお前のような女は存在していることこそがおかしいんだ!」
「事実ではないことでわたくしの評価を下げるのはやめていただけますか?」
「全て事実じゃないか!」
胸を張って言うエドワルド様の言葉に、周囲の方々は疑いの目を向けてわたくしを見てくる方が多いですわね。
確かに、一見いかにも王子様という感じのエドワルド様の言葉の影響は大きいかもしれません。
シャーレも一見儚げな美少女ですので、シャーレの味方に付く方も多いのかもしれませんが、幾人かの方は、わたくしの言葉の寝取ったという言葉に引っかかりを覚えているのか、シャーレ達に疑いの視線を向けております。
面白いですわねえ、既に派閥ではありませんが、召喚者同士で意見の相違が出てしまうなんて、神様も今頃大爆笑しているかもしれません。
いえ、いまだに登場していないという事は笑いを抑えるのに必死なのかもしれません。
その後もエドワルド様とシャーレからの罵詈雑言は続き、わたくしの周囲からは少しずつ人が離れて行きます。
まったくこんな状況で今後一緒に行動する人を見つけるなんて、大丈夫なのでしょうか?
そんな風に悩んでおりますと、頭上から光が降り注ぎ、その中から神様が現れました。
黒いローブを羽織った神様は、神様というよりも物語に出てくる悪役のようで、威圧感はありますけれども親しみはあまり湧かない格好ですわね。
『やあ! 様々な世界から召喚した勇者の諸君。君達を召喚したのは他でもない、この新しい世界でモンスターと戦って生きてもらうためだよ。終わりはあるかもしれない、ないかもしれない。君達は終わりの見えない牢獄のようなこの世界に閉じ込められたんだ。逃げ出すことは叶わない。そう、君達はもうこの世界で生きていくしか道はない』
「ふざけるな!」
神様の近くにいた青年がそう言って神様に殴りかかろうとした途端、ザクロを握りつぶしたように赤をまき散らしてはじけ飛び、跡形もなく消えてしまいました。
湧き上がる悲鳴、神様はその悲鳴を楽しむように笑みを浮かべて聞いているようです。
性格悪いですわね。
悲鳴が収まり始めたころ、神様が周囲を見渡してニヤリと笑います。
『他に文句のある人はいるかな? いるんだったら今この場で言ってくれる? 僕も面倒な事は手早く済ませたいんだ』
しかしながら、今まさに人が一人死んでいるわけですので、文句を言う人はおりません。
皆様この短時間の間に神様がどれだけ危険な存在かわかったのでしょうね。
『いないね? じゃあ、まずは二人一組になってくれるかい? そうしてあの扉の向こうにある施術室でこの世界に適合出来るように施術を受けてくれ』
そう言って神様が指をさすと、そこに円形の取っ手のない扉が出現しました。
なるほど、組み合わせは神様が選ぶのではなく自主的にするのですね。
そうしていると迷っている人々の中から、まず二人動きました。
雰囲気的に親子のようでして、子供を庇うように円形の扉を押し開けて中に入って行きましたが、特に叫び声や大きな音などは聞こえませんでした。
そうして、一組、また一組と扉の向こうに消えて行き、最後にわたくしとエドワルド様、シャーレが残りましたが、当たり前のようにエドワルド様とシャーレは二人で手を取り合って扉の向こうに消えて行きました。
なるほど、先ほど一人お亡くなりになったのであまりが出てしまったというわけですか。
さて、どういたしましょうか。