シンヤ様にお会いしました
昼食の時間になって、散らばっていたナティルとツバキが集まって来ますと、敷布を引いて昼食に致します。
本日はアラビアータスパゲッティーとシーザーサラダ、レモネードとデザートにアップルパイを用意しました。
アップルパイはちゃんと小ぶりのものを焼きまして四等分に切り分けております。
贅沢な事を言えば、アップルパイだけでもいいのですが、栄養のバランスを考えてしっかりとした食事をとるように神殿のコックに口酸っぱく言われましたので、そのおかげかこの半年間、食事を疎かにしたことはありません。
わたくし、元々いくら食べても太らない体質と言いますか、食べたら食べ多分動きますので太らないのですけれども、その事を話したらクインゼル様に羨ましいと言われてしまいました。
お二人もたまにはダンジョンに出て体を動かしては如何ですか? とだけ言っておきましたが、あのお二人が動くかは微妙な所だと思います。
完全に鍛冶で生計を立てることが出来ておりますし、レベルも順調に上がっているとのことですからね。
デザートのアップルパイを食べながら今日のアップルパイは、今まで作った中でも最高の出来かもしれないと自画自賛しておりますと、索敵に引っかかる気配がありました。
知らない気配ですので思わず目を細めると、ナティルとツバキも手早くアップルパイを食べ終えると、気配を先ほどまでのまったりしたものから鋭いものへと変えます。
わたくしも急いでアップルパイを食べ終えると食器などをバスケットにしまって気配を殺して皆に岩陰に隠れるように言いました。
しばらく待ってみると、紫の髪の長髪の青年がいらっしゃって、キョロキョロと周囲を見渡してから、ふとわたくし達のいる方を見てきました。
「隠れてないで出てきなよ」
あら、気配を消しているはずなのですが、どうしてばれたのでしょうか?
けれどもばれてしまったのでは仕方がありませんので、潔く四人で出ますと青年はきょとんとした顔をしておりました。
「あれ、三人とスライム一匹? てっきり一人だと思ったんだけどな」
「どういうことですか?」
「殺気がね、ちょっと感じられたんだ」
「殺気ですか」
その言葉にナティルが少しだけ視線をそらしましたので、ナティルが殺気を向けていたという事で間違いないでしょう。
「改めて、はじめましてこんにちは。俺はシンヤだ。君はティタニアちゃんでいいのかな?」
「はじめまして。ええ、わたくしがティタニアですわ」
「神様からね、君に会いに行って欲しいって言われたんだよ」
「まあ! それはお手数をお掛けして申し訳ありません。メッセージを下されば出向きましたのに」
「いやいや、いきなり知らない男からメッセージを貰って会いたいって言われても困るだろう? 女の子一人じゃ不用心だしって言いたいけど、しっかりボディーガードがいるんだね」
「あ、この者達は」
「まあ、そこの狐耳の人と肩に乗ってるスライムは噂に聞くモンスターの特殊変異種かな、とは思うけど、そこの褐色の青年はただ人じゃない感じだね」
「そう、ですわね」
「大丈夫だよ、君が何をしようと言いふらす気はないから」
「そうですか」
じっと様子を見ますが、嘘を言っている感じはありませんね。
それにしても、神様にわたくしに会いに行くように言われたとのことですが、神様は本当にシンヤ様推しですね。
「それにしても、神様はどうしてわたくしにシンヤ様を会わせようとしたのでしょうか?」
「様付けはなんだか慣れないな」
「もうしわけありません。けれども生憎これがわたくしの慣れている呼び方のものですから」
「そっか、まあ無理に変えて欲しいとは言わないよ。神様が俺に君に会いに行けといった理由まではわからない。ま、俺も今は一人ぼっちだし、ボッチ同士仲良くやれってことなのかも? 君はボッチじゃないみたいだけどね」
「そうですね、わたくしにはネーロ達が居りますので一人という感覚はありませんね」
「ネーロっていうのがそこの褐色の人のことかな?」
「いえ、ネーロはこの黒スライムですわ。こちらはナティル、こっちがツバキになります」
「そっか、改めてよろしく」
「……ご主人様に何かするようならすぐさま消し炭にするぞ」
「ナティルに同じくじゃ」
「物騒だなぁ。何もしないって」
本当に物騒ですわね。
ネーロもわたくしの肩にしがみついて威嚇? のようなものをしておりますし。
わたくしの勘ではこの方はそんなに警戒する必要がないと思うのですよね。
まあ、ただの勘なのですけれども。
「三人とも、あまりシンヤ様を威嚇してはいけませんわ。神様が遣わしてくださったのですから、何か意味があるのかもしれません」
「ご主人様がそういうのでしたら、今は引き下がります」
「ぬしさまは平和主義じゃな」
ネーロも肩の上で大人しくなりましたし、わたくしは改めてシンヤ様を見ます。
一般的な防具というよりはちょっと特殊な普段着のような防具を着ておりますが、わたくしは見慣れ無い衣装ですので、どこかの鍛冶師の手の物かもしれません。




