お花畑二人目
とある夜会、エスコート役をとある枢機卿が引き受けてくださって参加しましたら、ファーストダンスを踊り終えて休憩しておりますと、エドワルド様と大きくなり始めたお腹を抱えたシャーレがやってきました。
そろそろお腹が大きくなってきたので夜会などの社交に出るのを控える時期になってくるので、もしかしたら出産前の最後の夜会なのかもしれません。
「お姉様酷いです!」
「いきなりなんです?」
本当にいきなりなんだというのでしょうか?
突然の大声に周囲に居た貴族の方々も何事かと注目し始めました。
「私は身重なのに、聖女という立場を利用して私を他の令嬢から仲間外れにするように指示を出したり、わざと私とエドワルド様の婚姻を遅らせるようにしているなんて、人の気持ちを思いやれないんですか!」
「一切覚えがない事を責められても困りますわね」
「だって、最近お茶会に行っても、私は他の令嬢から避けられているんですよ。身重なのに、エドワルド様の子供を妊娠しているのに、もっと私の事を敬ってもいいはずなのに、お姉様がそれを邪魔しているに違いありません!」
「まあ、お茶会に誘われれば参加しておりましたが、そのような指示を出した記憶はありませんし、基本的に最近は忙しくしておりますので、社交行事への参加も控えめにしておりますのよ。そのようなわたくしにどうしたらそんな真似が出来ると言いますの?」
「もしお腹の子供に何かあったらお姉様のせいですからね! 私は今大事な時期なんですよ!」
「でしたら夜会になど参加せずに、家で大人しくしていればよろしいのでは?」
「私はお姉様と違って社交的なんです! お誘いを断るような酷い真似なんて出来ません! そもそも、聖女の仕事だとか言ってエドワルド様を後回しにしていたお姉様が悪いんじゃないですか!」
「あら、わたくしに聖女のお仕事はすごい事だから、最優先に行うようにと言っていたのはお父様と国王陛下、貴女はそのお二人の言葉にさからうつもりなのかしら」
「それはっ、お姉様がちゃんとやればいいだけの話じゃないですか」
「ですからちゃんと聖女としてのお勤めを果たしておりますし、色々と忙しくしておりますので、シャーレを仲間外れにするように指示するとかそんな時間はありませんの。お茶会に誘われれば参加しますけれども、皆様気を使ってくださって貴女とかち合わないようにしてくださっておりますわね」
「どうしてそんなことしなくちゃいけないんですか。私はやましい事なんてありませんよ! お姉様が何かやましい事があるのでしょう!」
「人の婚約者を寝取った事がやましくないとは、随分なお花畑な脳みそをしておりますわね」
「なんですって!」
シャーレが顔を真っ赤にしてわたくしにつかみかかろうとする勢いで迫って来ますが、わたくしは手にしている扇子をシャーレに向けてまっすぐに伸ばしてその動きを止めました。
「とにかく、わたくしは忙しいので貴女にかまけている暇などありません。心安らかに過ごしたいというのであれば、部屋に籠って子供の事を思っていればよろしいのではなくて?」
「お姉様が何かを言ったから! エドワルド様が王太子の地位から外れたんじゃない! 私は将来王妃になる予定だったのに!」
「聖女であるわたくしとの婚約を一方的に破棄したのですよ、教会がエドワルド様を後押ししなくなったのですから、いつまでも王太子の地位にいる事が出来るはずもないでしょう」
「お姉様が私に聖女の地位を譲ればいいんですよ!」
「エドワルド様にも言っておりますが、人間が譲る、譲らないでどうにかなるような地位ではありませんのよ」
「あんな辛気臭い場所に引きこもっているから、考えにカビが生えちゃっているんですよ、聖女なんて所詮はお飾りじゃないですか」
「聖女とは、生まれながらに神様に選ばれし尊き存在であり、存在するだけで近隣に神様の恩恵を与える事の出来る稀有な存在。それは常識なのではないかしら?」
「そんなのおとぎ話です!」
「では、今この国が栄えているのに神様の恩恵は全く関係ないというのかしら?」
「そうです! 全ては人の努力によって得られたものです! 神様なんて得体のしれない存在、教会が都合よく自分達にお金を集めるために作り出した虚像だわ!」
教皇の前で言ったら速攻で捕まって異端審問にかけられるような言葉ですこと。
わたくしは別に神様の事を敬愛しておりますが狂信的に信じているわけではないですし、何だったら独善的で自分勝手なお方だと知っていますので別に構いませんが、神様の熱狂的な信者が聞いたら顔を真っ赤にして掴みかかられても文句は言えませんわ。
こう言ったらなんですが、わたくしの言葉一つで神官兵が動く事だってあるのですから、発言には十分に注意していただきたいものですわよね。
神官兵が動く時なんて、相当の有事の際ですので、そう簡単に動かそうとは思いませんけれども、あまりにもひどい言動が続くようでしたら考えてしまいます。
ああ、でも出産後に体調が戻ったら異世界に強制召喚されてモンスターと戦う日々を強いられるのですから、今ぐらいは自由にさせていてもいいかもしれませんわね、どうせあと数ヶ月の自由ですもの。