個性的なそれぞれの部屋
ツバキの話によると、ツバキの事は眷属にしたので倒した扱いにはならず、十階層をクリアするには三時間待って次の九尾の狐が現れるのを待つしかないそうなのです。
三時間で一体現れる、しかも広いダンジョンのどこに現れるかわからないというのは、経験値稼ぎ的に微妙なのではないかと思いますが、スマートウォッチで見る限りでは経験値稼ぎによいとあるのですよね。
まあ、フォックスを狩るのでも十分によい経験値稼ぎになりますからそれもあるのかもしれませんね。
「九尾の狐は基本的に火に耐性が強い、狐火と言うものを使うぐらいじゃからな。これといった弱点は、そうさな、光や闇属性は有効じゃな」
「ならネーロの出番でしょうか? わたくしも光魔法は使えますけれども、闇魔法はさして得意ではないのですよね」
「そうさな、妾ほどレベルの高い九尾の狐はあの階層に現れることはないから、ネーロでも十分に勝てるであろうな」
「ですってネーロ。期待しておりますわよ」
わたくしの言葉にネーロはテーブルの上でピョンピョンとやる気満々と言った感じに飛び跳ねております。
わたくしも闇魔法は使えるのですけれども、聖女という役職のせいか闇魔法よりも他の魔法の方を重点的に覚えたのですよね。
別に闇魔法を否定するわけではありませんし、枢機卿の中には闇魔法の使いても数名いらっしゃいました。
ただ、どうしても優先順位が他の魔法に取られてしまったのですよね。
ちなみに真っ先に覚えさせられたのはアイテムボックスなどの生活魔法です。
これも聖女である事におごらず、自らの事は自ら出来るようにする為だという教会の教育方針からきている物です。
それでも数代に一人は必ずと言っていいほど自分勝手な行動をとる聖女が現れるのですから不思議ですわよね。
そんな彼女達が居なければ、教会の権力は今頃ずっと大きなものになっていたのでしょうけれども、世の中うまくいかないものですわね。
わたくしにはわかりませんが、美男美女を侍らせて何が楽しいのでしょうか?
特に何か有益な事をしていたという記録もありませんし、子供をなしたという記録もありませんでした。
いや、本当にどうして意味のない事をしたのかわかりませんね。
美しいものを愛でたいという気持ちからかもしれませんが、それならばせめて宝石の類にしておけばまだましだったでしょうに、難しいものです。
願わくば、わたくしの後に選ばれた聖女がそうならないことを祈るしかありませんね。
食事の支度をしてツバキから十階層の構造などを聞いてフォックスの対策やモンスターハウスと言われるモンスターが大量発生する場所のことを聞いたりしておりましたら、三時間経ちましたので、わたくし達は再度十階層に向かいました。
索敵に早速大量のフォックスが引っかかりましたので、わたくしはナティルにありったけの防御魔法をかけてもらってから狩りに向かいました。
火に耐性があるのはフォックスも同じだそうなので、より効率が良いように旱魃を使って狩る事に変更いたしました。
フォックスのドロップ品は毛皮に狐肉、核とそれなりに売値がよい物なので、後でモンスターハウスという所に行って大量に狩るのもいいかもしれません。
もしピンチになったらナティルに出てもらえばいいですしね。
あ、この場合はツバキでもよいのかもしれません。
ネーロは弱いとは思いませんけれども、ナティルやツバキに比べればやはりステータスが低いのは事実ですからね、仕方がありません。
けれども、ツバキのステータスを見て改めて思ったのですが、ナティルのステータスはおかしくありませんか?
四桁って、やっぱり異常ですわよね。
チートですわ、わたくしの周囲にどんどんチートが増えていくのは良い事なのか悪い事なのか。
主人はわたくしなのに、わたくしの存在意義っていったいなんなのでしょう。
とりあえず、フォックスに関してはわたくしだけで対処することに何の問題もないようですので、このままわたくしはフォックス狩りを続けながら九尾の狐を探すことに致しましょう。
索敵にはまだ引っかかりませんわね。
普通のフォックスなら引っかかるのですが、やはりボスともなるとそう簡単には出てこないという事なのでしょうか。
ツバキの場合は運がよかったという事なのか、ツバキがわたくしを待ち構えていたから出会えたのかもしれません。
「まあ、九尾の狐もこの森を動き回って居るゆえ、そう簡単には出会えぬじゃろう」
「この森ってどのぐらいの広さがあるのですか?」
「ふむ、妾の足で端から端まで歩くのに丸一日、一周回るのに丸二日と言った所じゃな」
「随分広いのですね」
「ご主人様、お望みなのでしたら僕が九尾の狐を今すぐにここに引きずり出してまいりますよ」
「え」
まったく悪気のなさそうな笑顔で言うナティルに、ナティルなら出来るかもしれないとは思いましたが、そこまでして急いでこの十階層をクリアしたいわけではないので丁重にお断りいたしました。
その後、日付が変わるまで森の中を歩き回りましたが、九尾の狐に遭遇することなく、この日は終わり、ただ経験値がたまりレベルが上がるだけでした。
拠点に戻りますとお風呂の準備です。
わたくしとネーロ、そしてツバキ、最後にナティルの順番で入ることに決定いたしました。
ナティルが「レディを優先するのは当然ですから」、という言葉で、まさかネーロも女性なのでは? と思って聞いたところ、スライムは無性なのだそうです。
ツバキは尻尾を洗うのが大変なので、ダンジョンに出ているとき以外は尻尾をしまっていて、月に一度の頻度で尻尾も洗うと言っています。
その程度でいいのでしょうか?
激しい戦闘もしていないハイキングのようなものばかりですのでそれでいいのかもしれませんが、激しい戦闘になったら問答無用で洗わせようと心に誓いました。
体を清潔に保つと心も清潔になったような気分になりますものね。
わたくしがお風呂から上がると、見慣れない衣装を持ったツバキが入れ替わりにお風呂に入って行きました。
ナティルに聞いたところ、普段ツバキが来ている物は着物というもので、先ほど持っていたのはその中でも浴衣と言われるものなのだそうです。
尻尾の部分はどうなっているのか気になりますが、特に穴が空いているわけではなく、霊力で作り出している物なので、尻尾を出している時はその部分が透過するようになっているのだそうです。
霊力で衣装を作るというのは便利ですわね。
「ご主人様の防具も魔力で出来たものですよ」
「え、そうなのですか?」
「はい。幾代前の聖女かは忘れましたが、そう言った魔法に長けている者が居りまして、沢山の鋼糸で出来た防具ドレスを作り出したのですよ。教皇はその全てをご主人様に渡しましたね」
「……ということは、わたくしが普段着に来ているドレスも?」
「いえ、それは普通のドレスです。万屋に不用品として売ったドレスにそう言った物が含まれていましたね」
「そうですか」
なんだかものすごい罪悪感に苛まれてしまいます。
しばらくして満足そうな表情のツバキがお風呂から上がって来まして、冷蔵庫から水出しのアイスティーを出すとコップに注いで一気に飲み干しました。
ツバキの着ている浴衣と言うものの柄は髑髏の模様であまり縁起がいいとは言えない気がするのですが、妙にツバキに似合っているのですよね。
それに、浴衣にも椿の花模様がはいっていますし、椿の花が好きなのでしょうか? 他にも見たことの無い花がありますね。
「その浴衣の花の模様は椿以外はなんなのですか?」
「これは曼殊沙華というのじゃ」
「まんじゅしゃげ」
「死人花ともいうの」
「髑髏の模様と言い、不吉な柄なのではないのでしょうか?」
「ふふ、こういった柄物を着こなしてこそ真の洒落者というものじゃ」
「そうなのですか。わたくしにはわからない世界ですわね。ところで、ツバキの部屋ですが、要望通り和風? というものにしましたし、ベッドではなく布団と言うものを買いましたが、本当によろしかったのですか?」
「うむ、ベッドも悪くはないが、妾には和室に布団の方が性に合って居るのじゃ。小物も和風の物で揃えてもらったしの」
和風の部屋がよいと言われてよくわからずに基本的には丸投げしたのですが、ナティルの部屋を作った時よりも少ない金額でしたので大丈夫なのか不安なのですが、本人がいいと言っているのでいいのでしょう。
部屋の中を見せていただきましたが、見知らぬ道具ばかりで一つ一つ説明を受けるのが楽しかったです。
この拠点には外がないので窓という概念がわたくしには思い浮かばなかったのですが、円形の窓にはめ込み式の障子というものをつけて外があるように錯覚させるという方法を取っていたので、わたくしも自室に窓ではありませんが、壁にカーテンをつけて外があるように錯覚するように改築をしました。
ちなみにナティルの部屋は、ベッドと必要最低限のワードローブ以外はすべての壁が本棚で埋まっております。
眷属とはいえ無償というのもなんですので、お小遣い制にするといいましたら、月に一冊本を買って欲しいと言われましたので、ナティルに関してはそうすることに致しまして、ツバキに関しては月に一度アクセサリーなどの小物を買うという事で話が付いています。
ネーロは欲しい物がわからないので月に一度特別に豪勢な料理を頑張って作るという事で納得してもらいました。
「そういえば、ナティルは寝る必要がないとかで寝ませんし、わたくしは三時間も寝れば満足なのですが、ツバキはどのぐらいの睡眠時間が必要ですか?」
「妾もそんなに眠りを必要とする方ではないの。ぬしさまと同じ三時間ほど眠れば大丈夫じゃ。まあ、たまに休日を作ってまったりするのも良いと思うのじゃがな」
「それはいいですわね。この十日間ダンジョンに出ずっぱりでしたし、明日は休日にしましょうか」
「それはまた急じゃな。まあ、妾は構わぬが」
さて、明日はなにをしてすごしましょうか。




