合同婚姻式
「シンヤ様はわたくしと婚姻したいと思っておりますの?」
「いきなりだね。そりゃあ、ティタニアちゃんさえよければ結婚したいと思っているよ」
「そうですか」
シンヤ様の言葉に、わたくしは近々合同結婚式が計画されていることをご説明いたしました。
そのお話をしましたら、シンヤ様は色々と準備をしないといけないとおっしゃいましたので、わたくしが首を傾げますと、結婚指輪と言うものを用意するのがシンヤ様の元の世界の習慣のようなのです。
わたくしの元の世界ではそのようなものはありませんでしたので、無理に準備しなくてもいいと言ったのですが、これはけじめだからと押し切られてしまいました。
シンヤ様はたまにこのように譲らないところがありますよね。
そう言う所も好ましいと思いますけれども。
ただ、他の方も結婚指輪なるものを準備する方がいらっしゃいますので、鍛冶師の方の予約が埋まってしまっているのではないかと申しましたら、それは問題ないと言われました。
どういうことなのでしょうか?
わたくしはシンヤ様のコネを全て知っているわけではありませんので、どなたかに特別に依頼をなさるのかもしれません。
それとも、既にシンヤ様はもう準備をなさっているとか?
まさかそれはありませんよね?
わたくしが婚姻したいと言ったのはメグミ様に便乗しての事ですし、シンヤ様にとっては突然の出来事のはずですもの。
ただ、シンヤ様は時折わたくしの想像の上を行く時がありますので、全く可能性がないと言い切れないところがあるのですよね。
婚姻するにあたり、お互いの事をよく知っておくべきだとは思いますが、全てをさらけ出していただきたいと思うわけでもありませんので、シンヤ様との関係は今のままでもいいと思います。
教皇様もお互いに些細な秘密があったほうが刺激があって夫婦仲は円満になることもあるとおっしゃっておりました。
その言葉を信じるのでしたら、あまり詮索するような真似をするのもおかしな話ですよね。
その後、シンヤ様はどうやったのかはわかりませんが、結婚指輪と言うものを準備いたしまして、いよいよ合同結婚式の日になりました。
普段は姿を見せない方もお見えになりまして、十一階層は全ての勇者が集まっているのではないかと思えるほどの盛況ぶりを見せております。
メグミ様とハク様もですが、マリア様とメリッサ様も結婚式をなさるという事で、形式は違いますが今回の結婚式の形式で結婚を上げることに満足なさっているようです。
他にも何組も婚姻をなさいますので、本当に盛大なお式になっております。
「えー。それではこれより合同結婚式を執り行います」
ミカル様の掛け声で始まった結婚式は、四周年のパーティーよりももちろん豪華なものになっておりまして、振舞われる料理や飲み物ももちろん無料提供となっております。
わたくしと致しましては、こんなにも数多くの方が婚姻するのだという事に驚いているのですが、シンヤ様はご存じだったのかさほど驚いてはいないようです。
シンヤ様はわたくしよりも多くのスレッドに顔を出しておりましたから、その分知り合いも多いのでしょうね。
わたくしもそれなりに知り合いは多い方だとは思いますが、あまりスレッドに顔を出しておりませんので、一方的に知られていることの方が多いような気がいたします。
ともあれ、ミカル様の言葉で始まった婚姻式ですが、順番にそれぞれ婚姻の誓いを立てて行きます。
やはり、それぞれの世界で違うのか、独特なものもございまして、マリア様とメリッサ様なんてお互いの血を分け合うと申しますか、指先を切って血を交り合わせておりました。
けれども、多くの方はシンヤ様がおっしゃったように指輪の交換をなさる方が多くて、そう言う事をする世界が多いのだと感心してしまいました。
共通するものを交換すると言うものは、多くの世界で行われている儀式なのですね。
わたくしの元の世界では神様に婚姻の報告をいたしまして、それが神様に認められれば婚姻成立となっておりましたので、なんだか新鮮なものを見ている気分です。
この世界において、肉体的成長がない事は確かですので、子供を作るという事は出来ないと思いますが、それでも想い合う人と婚姻をすると言う事は良い事ですよね。
いよいよわたくしとシンヤ様の番になりまして、シンヤ様がわたくしの左手の薬指に指輪をはめていらっしゃいました。
わたくしの瞳の色と同じ宝石があしらわれておりまして、シンヤ様とおそろいの物になっているので、わたくしもシンヤ様の左手の薬指に指輪をはめさせていただきました。
なんともうしますか、こそばゆい思いがいたしますが、これがシンヤ様の元の世界の婚姻式の作法というのでしたら従うのが道理ですよね。
マジックリングの上に結婚指輪と言うものをはめていただきましたが、二つ重ねても違和感がないようなデザインになっておりまして、シンヤ様のセンスの良さをうかがい知ることが出来ます。
合同結婚式が終わっても、解散することなくそのまま二次会と言うものに突入いたしまして、ますます盛り上がりを見せております。
婚姻を行ったわたくし達は主役になっているのか、沢山の飲み物や食べ物を勧められました。
ただ、わたくしはやはりノンアルコールのカクテルばかり頂いておりまして、少しはアルコールも飲んでみたいのですが、シンヤ様にやんわりと止められてしまいました。
わたくし、アルコールを飲むとそんなによろしくないことをしてしまうのでしょうか?
皆様に聞いても教えてくださらないのですよね。
可愛らしくなるとは聞いたのですが、詳しくは教えてくださらないのは、どうしてでしょうか?
けれどもミカル様の作るカクテルはどれも美味しいので、今度是非いただきたいものですね。




