個人情報保護法
本人からは情報は得られない。それなら、周りはどうだろうか。俺は、中央受付まで行き受付係の1人に声を掛ける。
「なんでしょうか?」
「あそこに座っている女性について聞きたいことがあるんです」
例の女性を指差してふんわりと聞いてみる。受付係はその先を確認し、俺に向き直る。
「何を聞きたいんです?」
「名前とか.....どうして入院しているのかとか.....」
「失礼ですが、あなたは?どういった関係の方ですか?」
訝しんだ顔で追及される。もう1人の受付係も、探るような視線を俺に向けていた。
しまった。この世界でも、個人情報保護法は健在なのか.....
「一応知り合いなんですよ.....でも、覚えてないんです。その、彼女も教えてくれなくて.....」
「申し訳ありませんが、御家族の方以外にはお教え出来ません」
食い下がってみるも、当然納得してもらえる訳もなく追い払われた。
仕方がない。俺は一旦外に出ることにした。
その間、何故だろうか。
前を向いているはずの彼女の視線が、病院を出るまでずっと、俺を見続けていた、そんな気がしたのは.....。
外に出た俺は、そこで初めてここの病院の名前を知った。今の俺が住んでいるアパートから2駅程離れた所にある、有名な大学病院だ。
ゲーム内と現実世界との地理関係はほぼ同じ。つまり、俺の場合は自分の部屋に帰ることが出来るということか。
外は17時前でも暗くなっており、季節はこの世界に合わせてあるようだった。しかし、寒さはさほど感じない。説明でも、痛みや体感などは鈍感になっていると言っていたことを思い出した。
凍死することはないだろうが、ここにいつまでもいても何もならない。1人でゆっくり考える時間も欲しい。
俺は病院の中には戻らず、コンビニで夕飯を買って、アパートへ向かうことにした。
ゲームの中でも腹は減る。