日記が燃やされた日の日記
妙な熱さで目を覚ました。どうやら寝ている間に何らかの火炎系の攻撃をくらったようだった。そのとき俺は、自分が魔術師だったことを思い出した。
俺は自身に【火が大丈夫になる魔術】と【怪我が完璧に治る魔術】を唱えた。攻撃をやり過ごすことに成功したものの、状況が呑み込めなかった。
とりあえず辺りを見渡すと、戦闘態勢になったドラゴンがいた。その数は10匹程度、それぞれが小山程の体を持ち、ドス黒い何かをまとっている。
どうやらこのドラゴン達が、俺に火のブレス攻撃を仕掛けてきたようだ。
尚も唸り声を上げ、敵意を向けてくるドラゴン達。
俺はドラゴン達に【ドラゴンが死ぬ魔術】を唱えた。
ドラゴン達はその場に倒れ、動かなくなった。俺の勝利だ。
それはそうと何故、自分がここにいるのか思い出せない。
ふと左腕を見ると、入れ墨か何かで複雑な模様が書かれている。暗号だろうか?
俺は【全ての暗号を解読する魔術】を唱えた。
そこには“1、俺は忘れっぽい。2、そのことを他人に知られないようにする事。3、必ず日記を付ける事。”と書かれていた。
何の事かさっぱりだが、どうやらどこかに日記があるようだ。日記を読めば俺が何故ここにいるのかがわかるはずだ。
鞄の中を漁るとその日記らしき本を見つけた。
しかし残念なことに先程のブレスで、日記の表紙は残っているものの、中身は大半が燃えて読めなくなっていた。
俺は日記に【壊れた物を元に戻す魔術】を唱えた。
破片が足りないのだろうか、読めるようになったのはほんのわずかだった。
そのわずかな紙片を読むに、どうやら俺の名前はアークで、全ての魔術を行使できるようだ。
ドラゴンを一撃で倒したことだし、それに加えて全ての魔術を行使できるのなら、俺は最強の魔術師かもしれない。
そんなことを冗談半分で考えつつ、辺りを観察する。
石の壁、ジメジメした空気、少し高めの魔力の濃度。
ドラゴンもいたことだし、どこかのダンジョンの中かもしれない。
ふとドラゴンは財宝を貯めこむ習性があったことを思い出した。
試しに俺は【財宝がどこにあるかわかる魔術】を唱えた。
反応があった方向に進むと、そこには金銀財宝、そして大量の魔導書があった。
魔導書を適当にペラペラとめくる。全て知っている魔術ばかりだった。どうやら俺が全ての魔術を使うことができるというのは、本当のようだ。
そしてこの魔導書は、俺にとってはただの紙束だ。そう思うのと同時に良いアイデアが浮かんだ。
俺は魔導書に【ドラゴンのブレス程度の火の魔術】を唱えた。
ちょうど日記に使う紙が欲しかったのだ。しかしまた今回のように燃えてしまっては困る。
そこで魔導書を燃やすことで、燃えない紙だけを選別しようという考えだ。そして目論見通り、わずかな数の魔導書が残った。
俺は残った魔導書に【紙を真っ白にする魔術】を唱えた。
真っ白になった魔導書を日記の表紙で挟めば、燃えない日記の完成だ。これで日記を書くことができる。
他に何か使えるものを探して物色を続けると、強い生命の反応を感じた。
その反応は1つのクリスタルからだった。どうやら何かが封印されているようだ。
俺は【封印を解く魔術】を唱えた。
クリスタルから不思議な雰囲気の可愛らしい少女が現れ、風の精霊シルを名乗った。
彼女は住んでいた精霊の森で突然クリスタルに封印され、気が付いたらここにいたとのことだ。勝手に封印するなんて悪い奴もいたものだ。
シルは一通りお礼を言い終えると、ここはどこか?何者なのか?と質問攻めをしだしたが俺は適当に笑ってごまかした。
“2、忘れっぽいことを他人に知られない方が良い。”
確かにその通りだ。あることないこと吹き込まれたらたまったもんじゃない。とりあえずは忘れっぽいことを知られないよう、適当に笑ってごまかそうと思う。こうすれば、記憶が無いせいで話に矛盾が出るのを防ぐことができるだろう。
シルは故郷の精霊の森に帰るという。
忘れっぽさを何とかしたい俺は、何か方法が無いかダメ元で彼女に聞いてみることにした。
しかしそのまま伝えたのでは、俺の忘れっぽいことがバレてしまう。俺は少しぼかして、頭を良くする方法を知らないか?と尋ねた。
シル自身は知らないが、シルのママなら知っているかもしれないとのことだった。
不確定な情報だが、俺も彼女と一緒に精霊の森へ向かうことにした。
俺は何の情報も持っていない。頼みの日記は燃え、当てなどないのだ。
今日は色んな事があった。いや、“今日も”かもしれないが。
正直この忘れっぽさは不便だ。
疑問は多々あるが、とりあえずはこの忘れっぽさを何とかしていきたい。
以上、日記が燃やされた日の日記。