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MIMIC~魔法剣士ミミちゃん~  作者: かっつん
魔法剣士ミミちゃん!
7/13

第7話:闇夜の魔法剣士

うれしい。うれしい。嬉しい。

ひさしぶりに感じた、このきもち。



 ひやりと、海の方面から冷たい風が吹きすさぶ。ミミとカタちゃんは小さく身震いをしながら、屋根の上に立つ人間を驚愕の表情で見つめる。


「……聞こえなかった?結構な自信ね、と言ったの」


 ハスキーな声色の人間はバイザーで顔ははっきり見えないが、地まで付きそうなロングヘアとレオタードのような魔道衣ではっきり見える体型から、女性であることは明白だった。


「だ、誰!?」

「お前に名乗る名前は無い。けれど、あえて言うなら「邪教団フェ・ル・マータ」の幹部……そう表現するわ。でもそんなことより、自分の今後を気にしたらどうかしらね?」


 刹那、背後から鋭い棘が伸びる。風を切る音で気付いたミミは寸前でしゃがみ込み回避し右へと跳ねるように飛びのく。振り向くと、棘の正体は人型の異形だった。鏖の儀で現れたそれとは異なり、身長2m弱の赤黒い人型のシルエット。腕にあたる部分が幾重にも枝分かれ、その1本1本が鋭い棘を備え液体を滴らせている。


「これは……!?」

『こいつもディスコード!破壊タイプや!』


 カタちゃんの声がペンダントから聞こえる。どうやら実体はどこかに隠れ、ミミの意識に声をかけているようだった。


『気を付けや。あやつは前の丸っこい形してた接収タイプと違って攻撃特化型や。前みたいに逃げりゃ勝ちって考えじゃアカン!』

「前までとは違う……」

『そら来るぞ!!』


 破壊タイプと呼ばれるディスコードの攻撃をかいくぐる。……が、ミミはさっきの決意はどこへやら、攻撃に転じることなく、ただひたすら逃げ回るだけだった。


『お、おいっ!?攻撃せな!?』

「だ、だって……っ!」


 ミミはちらちらと屋根の上を見る。不敵な笑みを浮かべる女は、何かをする訳でもなく屋根の上で佇んでいる。

 ミミの視線に気づいたのか、女は両手を上げ笑いながら話し始めた。


「あら、私がアレの助太刀で攻撃してくると思ったの?お生憎様。私はアレを連れてきただけ。命令に無い事はしませんわ。それともなぁに?私にアレと一緒に襲い掛かって欲しかったの?」


 人型のディスコードの攻撃を掻い潜りながら、ミミは聞く。


「どうして!どうしてここに来たの!?」

「私は「あのお方」の命に従ったまで。それ以上でもそれ以下でもない」


 ミミはディスコードの右の振り下ろしを受け、吹き飛ぶ。1回転、2回転。派手に転がったミミは、擦りむいた膝を押さえ立ち上がる。


「ディスコード!孤児院を破壊してしまえ!」


 女はディスコードに命じる。ディスコードの表面が水面のように揺らぎ、動きが一瞬止まる。ミミから顔を逸らし孤児院を見つめ、歩き出す。


「やめてっ……!」

「やめさせたいのなら、止めて見せることね」


 ミミは走り、ディスコードの前に踊り出て剣を構える。ディスコードは手を振り上げ、ミミを払いのける。孤児院の目の前に立ったディスコードは、手を変形させ、鋭い棘を孤児院へ向け射出しようと構える……が、突如ディスコードが動きを止める。その身体には、1本の刀が突き刺さっていた。


「えっ……!?」

「……あら、やっと来たのね。面白くなりそうだったのに」


 屋根の上で退屈そうに腰掛けていた女は立ち上がり、口元だけを妖しげに曲げ、笑う。人型の脇腹に突き刺さった刀が銀の筋となり振りぬかれると、ディスコードは胴体と足を真っ二つに斬られ倒れ込んだ。消滅するディスコードの向こうには、1人の少女が立っていた。その少女はミミと瓜二つであった。違う所と言えばショートボブの髪型、和服を改造したような鎧、右手には先ほどディスコードを貫いた日本刀、青色の生気のない瞳くらいだった。いつの間にか屋根から飛び降りていたフェ・ル・マータの女は少女の肩に手を置き、愛おしそうに顔を撫でた。


「紹介するわ。この子は魔法剣士レイラ・Cクリス・ノクターン」

「……!!」

「えぇ。お察しの通り、貴方の双子のお姉さん。我々フェ・ル・マータに属する魔法剣士よ」


 薄気味悪いにやけ顔をそのままに女は笑う。


「生き別れの双子同士、どうぞ再会の抱擁でもしてて頂戴な。全てが終わった後に……ね」


 女は黒い靄と共に宙へと消える。女の低い笑い声だけがこだまする中、ミミの正面に立つ少女レイラは瞬きもせずミミを見据え、正面に刀を構えた。


「おねえ、ちゃん?」


 存在だけが聞かされていたためか、実感が沸かず複雑な表情を浮かべるミミをよそに、レイラは生気のない瞳を閉じる。


「……やっと会えた」


 終始無言だったレイラが漸く口を開く。言葉とほぼ同時に、レイラは音も無く踏み込む。


「っっ!!」


 ミミは咄嗟に手に持つ剣を体に引き寄せ、防御の姿勢を取る。金属の擦れる音と共に、首筋すれすれでレイラの刀を受け止める。刀が引き抜かれると続けざまに斬撃を繰り出す。


「おねえちゃんっ!やめてっ!」

「……、……」


 瞬きひとつせず、ただ確実にミミの急所を狙う。ミミは叫び、攻撃を避ける事しか出来なかった。


「おねえちゃんッ!!」

『話し合いは無理や。操られとる。ブッ叩いてでも目ぇ覚まさせるしかないで』

「でも……!」


 戸惑うミミをよそに、鋭い突きを繰り出すレイラ。ミミの脇腹を掠め、魔道衣が裂ける。


『魔道衣は魔力には強いが、物理的な攻撃はそこそこ頑丈な服くらいの強度しかない!相手は本当に姉かもしれんが、邪教団が連れてきた魔法剣士や!打ち合うんや!』


 ミミの脳裏にサキの姿がフラッシュバックする。生気が感じられず、魔力で濁った瞳。目の前にいるレイラも、同じ色の瞳をしている。


「……そうだ。私のお姉ちゃんを……操るなんて許せない!」


 ミミの目に光が宿る。熱気で毛が少しだけ逆立つ。レイラの剣閃を左手の甲で受け止め、受け流す。レイラは流れた身体をすぐさま立て直し、ミミの追撃を逃れ後ろに飛びのく。


『エンジン掛かるの遅すぎやでホンマ……』


 ミミの剣が空を斬る。足取りはド素人のそれだが、気迫でレイラの攻撃に食らいつく。右肩を狙う袈裟斬りに対し右手を下ろし刃同士を打ち合わせ、返しの刀に対して一歩前進し腕を掴む。


「っ!!」


 レイラはミミの手を振りほどく。少女の腕力とは思えない力がかかり、ミミは後ろに弾かれるように後退する。が、それはレイラも同じことだった。


「隙ありッ!」


 ミミがいち早く体勢を整え、一気に踏み込み剣を下から振り上げる。その剣先が狙うはレイラの刀の柄―――――――――


 カンッ。


 高い金属音と共に、レイラの刀が宙を舞う。柄の先に付けられた馬の尾のような飾りが風に靡く。レイラは驚きもせず、無表情で両手を上げたままミミを見つめていた。


『今がチャンスや!なんか大技出せ!』

「大技!?そんなの無いよ!?」

『なんかあるやろ!出せ!』

「そんな無茶な……でも、ぶっつけ本番、やるしか!」


 ミミはさらに後ろに飛びのき、剣を胸の前で構える。彼女の決意と呼応するように、剣が光を放つ。


「はあッ!」


 デュランダルの光が数mの高さまで伸びる。剣を掲げ腕を回す。光の軌道が円を描くと同時に、魔法陣が現れる。


『アンタ、魔力を生成したんか……!?否、違う。これは……』

「やああぁぁぁぁぁッッ!!」


 一回転し再度掲げた剣を振り下ろすと、陣の中心から光線が放たれた。放たれた光線はミミの幅を超え、地を抉りまっすぐにレイラの元へ飛ぶ。


「お姉ちゃんを助ける為ッ!今の私を全部、出し切るッッ!」


 ミミはもう一度大きく叫ぶ。身体中に迸る感情を、全てを剣に集中させる。光線は強く、太く、相手の元へと熱量を保ちながら飛ぶ。







 剣からの光線がゆっくりと萎み、勢いを窄めつつ天へ伸びていく。


「はぁ……はぁ……!」


 肩で息をするミミ。顔を上げると、そこにはレイラが立っていた。


「……!!」


 レイラの身体は少し魔道衣が焦げた程度で傷一つ無かった。生気を纏わぬ冷たい目でミミを見つめつつ、一歩一歩歩み寄る。


「……児戯に等しい」


 一閃。後退も間に合わず攻撃を受けたミミは剣を弾かれ、孤児院の庭に突き刺さる。レイラは刀をミミの首筋に狙いをつけつつ、ゆっくりと間を詰める。ミミはへたり込むように膝をつく。


『何しとん!?早う逃げな!』

「逃げない。私は逃げないよ」


 レイラが刀を振りかぶる。このまま振り下ろせば剣筋はミミの頭と胴体は分離させられるだろう。だが、こんな時でもミミはレイラの顔を見て、不敵に笑っていた。




「……いち。ゼロ」


 静寂から突如爆音と共に何かが炸裂する。2人の間に砲弾のようなものが着弾したような衝撃が走る。レイラは咄嗟に後ろに飛びのき衝撃から逃れる。





「おおーい!大丈夫か!」


 20m程先、東の方角から声が聞こえる。人影が3人。それぞれが羽織るローブには、魔道省のエンブレムが沈みゆく夕日に照らされ重苦しく輝いていた。


「……ちょうど10分。持たせました」

『魔道省からの援軍や!』


 ミミは剣を引き寄せ立ち上がり、レイラの方へと向き直る。体勢を整えたレイラは駆け寄ってくる魔術師3人を一瞥した後、ミミを見つめると無表情のまま口を開いた。


「……此度はこれまで」


 左手を上げると、一瞬だけ小さな牝馬の姿が見えレイラの姿は跡形もなく消え去った。残ったのはミミが繰り出した光線で派手に抉った土煙と、それと同等に先ほど魔術師が放った砲弾のようなものが着弾した際の土煙が風に揺られているだけだった。







 東側から魔術師が歩み寄る。大人の魔法戦士。男性と女性の3人組だった。


「ミミ・C・マーティンだな」

「は、はい。貴方たちは……?」


 聞き覚えのある声。


「俺は先ほどまでお前と通信していた、魔道省管理部所属転移魔術師の糸絹。糸絹レオーネだ」

「私達はU地区担当の魔道省公認普通魔術師のミライとカルディナ。間に合って良かったわ」

「応戦してるのは30年ぶりの魔法剣士って聞いたからどんな子かと思ったが、まだガキじゃねぇか。それに、俺らの方角へ飛ばした魔術砲。どうやったかは知らないが、出力も曖昧で術式も未熟。そんなんでよく魔法剣士になれたな」

「でも、よく持ちこたえたわね。怖かったでしょう?不安だったでしょう?もう、大丈夫よ」


 女魔術師のミライがミミを抱きしめる。ミライの胸に包まれ、ミミの顔が歪む。


「あ、あの、ありがとうございまふ……」

「……で?俺達の合体魔術、魔術迫撃砲は相手に当たったのか?」


 ミミはミライの胸から抜け出し、カルディナの問いに答える。


「それが。着弾直前に後ろへ飛びのいて当たりませんでした」

「かぁーっ!やっぱり命中精度悪いな!帰って鍛錬のし直しだ。帰るか。おいレオーネ、送ってくれ」

「わかったよ……ミミ、貴女にはこの足で魔道省へ向かってもらいたい。彼らを転移させたのち貴女を転移させるから、しばし待っていてくれないか」

「はい、わかりました」


 転移魔術師レオーネが、男女の魔術師の肩をつかむ。


「皆さんありがとうございました!」

「気にすんな。俺達も30年前はガキだった。そんときは同じように魔術師に助けられてばっかりだったんだよ」

「そうね。恩は次の代に返す。ミミちゃん、貴女も同じように困ってる人に手を差し伸べてあげてね」


 魔術師達はそう言い残すと地を蹴り飛び上がった。瞬く間に姿が見えなくなっていく。ミミは空を見つめ、深く頭を下げた。








『……ふぅ』


 ペンダントが小さく光り、中からカタちゃんが飛び出す。


『周辺に魔力反応もなさそうや。奴らは一旦退いたようやな』

「うん」

『一時はどうなるかと思っとったが、10分数えてたなんてな』

「10分持たせろ、って命令だったから。まさか、私達の間に着弾するような攻撃だとは思わなかったけどね」

『さっき出したビーム。あれなんのつもりやったんや?』

「わかんない。負けたくない!って気持ちと、お姉ちゃんを返せ!って気持ちと、ここを絶対に守る!って気持ちを込めたらあんな光が出たんだ」

『……ふーん。なるほどな』

「……?」

『あぁいや、こっちの話や。気にせんでええ』

「とりあえず。ここが壊されなくてよかった」


 ミミは変身を解除する。小さな光に包まれ元の衣服に戻る。辺りを見渡す。アレグロ孤児院跡は辺り一部が抉れるなどはしたが、孤児院そのものは壊されることなく、静かに佇んでいた。


『せやな』


 カタちゃんがミミを見上げる。ミミは孤児院跡をぼーっと見つめていた。


「お姉ちゃん……」

『やっぱり、悲しいか?実の姉が、あんな風になってしもうて……』

「悲しい?ううん、嬉しいよ」

『嬉しい?』

「豪族襲撃事件で死んだって言われてたお姉ちゃんだもん。形はどうあれ生きてるってわかったなら、嬉しいに決まってるよ」

『そう、か』


 ミミは胸元のペンダントを握りしめ、悲しげな表情で空を見つめた。


「でも、やっぱり怖いよ……操られてるとはいえ、お姉ちゃんに剣を向けるなんて」

『それはきっと、レイラとやらも同じこと思ってるはずや。そんなことも気付かんと目ぇ回してるんなら、ブッ叩いてでも目ぇ覚まさせたるのが身内ってもんや。安心せぇ。今日の決心ついたミミちゃんなら、きっとやれる』

「……そっか。そうだよね!」


 ミミは笑顔を取り戻し、カタちゃんに笑いかける。少しぎこちない笑顔ではあったが、ミミのその笑顔は本物であった。


「もっと力をつけて私も誰かを守れるようにならなくっちゃ!ね、カタちゃん!」

『せやな』







―――――――――某所

 暗室のような空間。そこに1人の少女が立ち尽くしている。立ち尽くす一糸纏わぬ少女のその目は淀み濁っており、生気を感じさせない。暗部から、ずるり、ずるりと湿った物体を引きずる音が聞こえる。全貌は見えないが、巨大な何かである事は間違いなかった。


『時が来た』


 物体が思念を発し、大きく胎動し蠢く。物体から伸びる触手が、少女を絡め取る。少女は抵抗することなく、その赤黒い触手を受け入れる。やがて、少女の身体に絡みついた触手達が、次第に鎧の形を取り始める。


『私の愛を受け目覚めよ。愛しき我が子よ』

「……、……」


 新たに目覚めた「偽りの子」がゆっくりと瞬きをする。淀み濁った眼で、物体を見つめる。先程まで淀んでいた瞳の中にひとつ、紋章が刻まれていた。


『お前に与える使命は一つ。愚かな人類共という原罪。それを刈り取るのだ』


 「偽りの子」は物体に小さく礼をすると、だらんと垂らしていた右手を横へ伸ばす。するとどこからともなく少女の身の丈程の巨大な得物が現れる。S字を描くシルエットの得物は暗室から差し込む光に照らされ全貌が明らかになる。鎌。一般的な鎌とは異なり、大きくカーブを描き、柄の両端に付けられている西洋鎌だ。


『……行け。我が子よ』


 少女は言葉に応じ頷くと、鎧から生えている翼を大きく広げ、暗室から飛び立った。

 ひとつ残された物体は身震いすると、形が保てなくなったのか大きく崩れ落ちた。


『この身体も……最早これまでか。完全な復活まではこれまで通り予備スペアを使うとしよう』


 物体は崩れる身体を揺さぶりつつ、暗部へと戻っていく。


『―――――待っていろ人類げんざい共。第2楽章は、もう始まっている』

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