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MIMIC~魔法剣士ミミちゃん~  作者: かっつん
魔法剣士ミミちゃん!
2/10

第2話:鏖の儀

おねがい、どうかゆるさないで。わたしがあいするあなたを。

おねがい、どうかゆるしてほしい。あなたがあいするせかいを。




――――――――魔道省管理部

 魔術を統括する魔道省。管理部の管制室ではけたたましいアラート音が鳴り響いていた。その音に踊らされるかのように、管理部職員は走り回っている。


「状況はどうだ!」


 管制室中央、長官席に立つ大男は、アラート音よりも大きな声で職員に聞く。


「現在、受信した魔力波長から詳細解析中です!」

「急げ!何のために毎日シミュレーションを繰り返してきたと思っている!」


 大男にどやされ職員たちは魔術で生成されたキーボードを叩く。


「マナの定期放出量をはるかに超える魔力反応……ただ事ではないのだけは確かだ」


 大男も長官席から伸びる端末を操作し、発生地点を探る。


「座標解析班!座標分かりました!T地区の30です!」

「T地区の30……聖クリス学園の近くか。あの辺りは居住地区で住民も多い。直ちに統括部に連絡し、T地区の30及び隣接地域に魔術結界を張るよう伝えろ。該当地域住民には魔術結界への避難指示を出しておけ」

「波長解析班!解析結果が出ました!結果を今送ります!」


 次々に長官席の端末に解析結果が表示される。


「波長パターン、魔術レコード10-5!……まさか、みなごろし!?」

「……何だと」


 長官の端末を操作する手が止まる。


「該当地域から円状に放出される強力な魔力波長、また円内部に点在する複数の魔力反応からディスコード発生の可能性もあります!」

「戦闘部に連絡しろ。普通魔術師から魔法戦士までに招集信号を発信するようにな。幸いT地区にはクリスくんもいる。実戦経験の無い者は来るなと伝えろ」

「承知しました!」


 アラート音が耳に慣れる頃、魔道省管理部長官、テイラー・クリフトは誰に言うことも無く呟く。


「鏖の儀。30年ぶりの第二楽章、という訳か……」


 声はアラート音にかき消され、聞いた者は誰一人いなかった。



―――――――――――――――――




 空に、大きな輪が架かっていた。その輪は、ミミ達を中心に広がっている。空気が変わる。春先特有の生ぬるい空気から、まるで真冬のような寒気が襲う。虫のさざめきが止まる。野良犬が吠える。公園の木々にとまる鳥達が一斉に飛び立つ。この異常事態。ミミ達は流石に談笑を止める。辺りを見渡すと、街灯という街灯が赤く点滅し、アラートを発していた。


『緊急事態発生。緊急事態発生。魔道省管理部より通達。一般住民は速やかに魔術結界内へ退避せよ。繰り返す……』

「これって……」


 アラートを聞き、ミミ達は空を見上げる。天に架かる輪を見て、彼女らの瞳孔が広がる。言葉を言い切るのが先か、少し湿ったような物体が10、いや20。高空から落ちてくる。……ドチャッ、ドチャッ、と水気を孕んだ音を立て、高空から落ちてきた「それ」は、赤黒い液体を滴らせながらゆっくりと形取る。人とも、獣とも異なる異形の姿。歪な形をした、漆黒の球体から生える、鋭く尖った4つの足と、赤黒い液体を湛えた口が見える顔らしき突起。この世のどの生物にも当てはまらない、異質な骨格。生物的嫌悪感を催すドス黒い異形が、公園の中でも少なくとも20体は現れたのだ。


「な、何事……っ!?」


 野良犬がひとつの異形に吠え掛かる。形を成した異形は顔らしき突起をぎこちなく動かし、犬を見ると、地につけていた足のひとつを伸ばした。その足が突如三叉に枝分かれし、犬の顔を掴む。犬は藻掻くが、頭をがっしりと掴まれている為逃れられない。


『ケケケ……ケ』


異形は口から赤黒い液体をまき散らしつつ、言語にならない鳴き声を上げた。異形の球体部分から何かが波打ち、足を伝い、犬に打ち込まれる。


「ギャンッ!!」


 犬の悲鳴と同時に、犬は灰色に染まり動かなくなった。異形は犬から足を離し、動かなくなった犬を見つめる。灰色に染まり動かない犬だったものは、音も無く破裂するように砕け散った。


『ケケケケ!!!』

「……ヒッ」


 一連の流れを目の前で見てしまったミミとサキが小さく悲鳴を上げ、先ほどまで座っていたベンチにへたり込む。いち早く立ち直ったミミはサキの手を取り、立ち上がる。


「サキ!逃げよう!アレが何かわかんないけど、ヤバい!」


 サキの手を取ったミミは、サキを引きずるように走り出した。異形は4本の足をぎこちなく動かし、公園にいる者をひとりひとり狙うように散り散りに歩き始めた。その中のひとつが、ミミとサキを狙っていた。


「魔術結界に退避せよって……どこなのッ!?」


 公園を飛び出したミミは辺りを見渡す。辺りは既に異形が避難の為逃げ惑う住民を追う。中には異形に捕まった住民もおり、先ほどの犬のように灰色に染まったのち、音も無く破裂するように砕け散っていった。


「ミミちゃん!あれ!」


 サキが指をさす。天に架かる輪ほどではないが、空高く聳え立つ赤い結界が数本、目に留まった。最も近い結界はミミの学園寮とは反対方向、住宅街を抜けた先の高層ビル街。


「あれが、魔術結界?」

「あんな遠くまで逃げなきゃいけないの……!?」

「……行こう。サキとならいける。あのへんなのがいる道は使えない。確実に、一歩ずつ。遠回りでもいいから」

「うん」


 2人は繋いだ手をそのままに、住宅街を走り出した。

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