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MIMIC~魔法剣士ミミちゃん~  作者: かっつん
魔法剣士ミミちゃん!
12/13

第12話:偽りの力

いらない。いらない。いらない。

貴女が私を否定するなら、私なんていらない。

私がいらない貴女なんて、いらない。




――――――――――聖クリス学園体育館。


 魔術決闘マジ・ファイトの第3試合が行われている。音こそ障壁に阻まれて聞こえないが、振動と光から相応の魔術戦闘である事は察せられる。


「頑張れー!」

「あっ!危ない!!」


 生徒たちは思い思いの言葉で、魔術障壁の中で戦う生徒を応援する。第1試合のサリア・ミミ戦の迫力には劣るが、どの生徒も一生懸命であることに変わりは無かった。


<ミミ・C・マーティン、聞こえるか>


 ミミ・C・マーティンの魔道衣クロスのヘッドギアから、通信が入る。ミミは隣にいるサリアに怪しまれぬよう、声を潜め応答する。


「は、はい、聞こえています」

<魔術通信は念じるだけで伝わる。声に出さずとも良い。授業中のところすまないな、テイラーだ>


 音波として届いていない筈なのに、ミミの頭蓋を揺らすような低い声の主は、魔道省管理部テイラー長官。


<君が魔道衣を纏ってくれていて助かった。周囲の生徒には聞こえぬよう、無闇な混乱を招かぬよう、君との通信を利用している。余計なリアクションは取らなくて結構だ>

「はい。何か、あったのですか?」

<……鏖の儀だ>

「!!」


 ミミの表情が強張る。それと同時に、校長が振り向く。ミミの通信に少しだけノイズが走り、校長は口を動かさず通信に割り込む。


『クリスです。テイラー、それは本当ですか?』

<本当だ。ここで嘘をついてどうする>

『……それもそうですね』

<まだ発生はしていないが、先日と同じ波長を観測した。エリアはT地区の25。既に付近に居る魔術師には魔術結界の用意をするよう連絡を取っている>

『先日はE地区に出ていたので直接は見ていませんが……またしてもこの地区で発生するのですか』

<いや。実は公表していないだけで他地区でも小規模の『儀』は発生している。現地の魔術師に対応してもらって、いずれも被害は最小限に抑えられているのが現状だ>

『そうですか……』

<そこでだ。今回は魔法剣士であるミミ君、君にも作戦に参加してもらいたい>

「私ですか?」

<ああ。今回は、用意が出来ていなかった前回とは違う。現在そちらに魔術師を派遣した。ミミ君、君には彼らと共にディスコード殲滅の任務を命ずる>


 ミミはその言葉を聞いて小さく身震いした。


<あまり身構えなくて良い。賢者の石によると、今回の儀は先日のよりも小規模との予測だ。ディスコードの発生量は十数体。いずれも小型で大型発生の兆し無し、だそうだ。君の魔力波長やバイタルはこちらでモニタしているし、先達もいる。彼らの胸を借りるつもりで初陣を飾ってほしい。いけるかね>

「……わかりました。やります、やってみます」


 ミミの目には、決意の光が宿っていた。


『安心しました。先ほどの魔術決闘、あの時のように動けるのなら、心配はいりません』


 校長はミミに向かって優しく微笑む。それと殆ど同時に、第3試合が終了した。


『必要とされているのなら、貴女は活躍すべきです。やれる事を、やれる範囲で。その為の資格を、貴女は持ち合わせていますから』

「わかりました。テイラー長官、よろしくお願いします」

<うむ。まずはそちらに向かった魔術師と合流して欲しい。細かい事は後ほど指示をする>


 通信が切断される。校長は何事も無かったかのように、試合が終わった生徒達への労いの言葉をかけていた。


「みなさん、お疲れ様でした。初めてとは思えないくらい、良い動きでしたよ。それでは時間となりましたので今日はここまで。魔術体育では今回のように、何度か練習試合を行います。各自魔術の鍛錬を怠らないよう。ヨハン先生、あとはよろしくお願いします」


 校長は踵を返し、整列する生徒の間を立ち去る。ミミの横を通り過ぎるとき、ミミにしか聞こえないよう、密かに囁いた。


「気を付けて」

「……はい」







――――――――――聖クリス学園校門


 授業を終え、他の生徒達と同様に着替えたミミは更衣室から直接校門へと向かっていた。


『正式なデビュー戦、やな』

「うん……ちゃんと出来るか心配だけど、やってみせなくちゃ」


 カタちゃんがミミに語り掛ける。ミミの表情は緊張か、恐怖か、どことなく強張っていた。昨日の初めてのディスコード戦、姉レイラとの戦闘、エリー長官との模擬戦、そして今日のサリア戦。四度よたびの戦闘を経ても、やはり「恐れ」が残るのか、彼女の手は震えているが、目だけは決意の光で満ち溢れていた。


「ミミ・C・マーティン、昨日ぶりだな」


 校門から、2名の魔術師が顔を出す。昨日の孤児院襲撃の際に駆けつけてくれた、ミライとカルディナが、そこにいた。


「ミライさん!カルディナさん!」

「よう、よろしくな」

「あれ、着替えちゃったの?あの魔道衣、可愛かったのに……でも、クリス学園の制服も可愛いわね。私も着たかったわぁ」


 そういうとミライはミミを抱きしめる。昨日のお礼を言おうとしていたミミは問答無用でミライの胸に埋められる。カルディナは呆れた様にため息をつく。


「わぷっ……むむむ」

「そういうとこだぞ。ミライ」


 ひとしきり挨拶が済んだのを見計らっているかのように、テイラー長官からの通信が入る。


<揃っているな。作戦を説明する>

「はい」

<鏖の儀はこれより1時間後に発生する。発生地点及び規模は先ほど伝えた通り、T地区25、ディスコード十数体、大型発生の見込み無し。この地区は居住区でもある。このブリーフィングが終わり次第、魔術結界への避難勧告を行う>


 テイラー長官の通信と同時に、通信機から魔術結界を記したマップが表示される。


<作戦は大きく分けて2つ。①避難出来なかった住民の守護、魔術結界への誘導。②接収に動くディスコードの撃破・撃退。1つめの作戦については今送った地図に魔術結界の位置を記しているから、そこへ案内するように。2つめの作戦については言葉の通りだ、儀で区切られると通信も断絶される。そこからは各自の判断、各自の技術に任せる>


 テイラー長官の言葉に、カルディナの魔術回路が少しだけ反応する。ミミの視線に気付いたのか、カルディナは照れ臭そうに笑った。


<これはミミ君の初陣でもある。大丈夫だ、練習通りやれば出来る>


 テイラー長官の声色が少しだけ柔らかくなる。が、一瞬で元に戻った。


<……ところでミミ君。魔道衣はどうした>

「それが。さっき通信が終わった後、急に変身が解けてしまって……多分魔力切れだと思います」

<……、……。刀獣カタナリックビーストは何をやっている。仕方ない、とにかくマナが確保出来次第変身するように。いいな>

「わかりました」

<作戦は以上だ。あとは各自マップを頭に叩き込め。時間までは所定の待機場所で待機せよ>

「「「了解!!」」」



 簡易魔道具から発せられる避難勧告を横耳に、カルディナが用意した自動車で待機場所へ移動中のミミは、ミライ達の昔話を聞いていた。


「カルディナとは同郷の幼なじみでね」

「そうなんですか!?」

「うん。私達が子供の頃……まだ魔道省による地区制になって間もない頃なんて、魔術なんておとぎ話みたいなモノだとされてたの。でも、あの儀式が、おとぎ話じゃなくて現実だって分かったときは怖かったわ」

「あの時の俺達はただ魔術師に言われるがまま、逃げて逃げて逃げ続けた……今でこそ俺達も魔術師にはなったけど、あの時の魔術師達とは違う。実はさ、俺達のような若い魔術師って、実戦経験は無いんだ」

「そうなんですね……」

「見ただろ?昨日の迫撃砲。俺達普通の魔術師はあれを一撃かますのがやっとなんだよ。体力だって奪われちまう。今だってこうして後輩にカッコイイ所見せようと張り切ってるだけ」

「きっと、あの時の名前も知らない魔術師さん達も同じ気持ちだったのかしら」

「……かもしれないな」


 カルディナが車を停止しつつ、後部座席のミミに向かい微笑む。


「でもさ、あの時俺達がしてもらってきた事、同じ事を次の世代に出来るって、きっと良い機会なんじゃないか、って思うんだ」

「そう。私達が助けられた時のように、今度は私達が皆を助ける番なんだ、って。その為の魔術の修練だったんだ、って。もちろん、出番が無いのが一番ではあるんだけどね」


 ミミは2人の言葉を聞き、笑顔で頷く以外何も出来なかった。


「……さ、時間だ」




 車を降り、空を見上げる。数週間前、ミミが見たものよりも小さいながらも禍々しい気配を放つ環が天に架かっていた。

 環から放たれた黒い物質が、ドチャリ、ドチャリと赤黒い液体を撒き散らしながら地に落ちる。物質が異形へと形成す姿を、魔術師3人が迎え撃つ。


「ミミちゃん、魔道衣は展開出来そう?」

「……、駄目です。展開出来ません」

「仕方ないわ、戦闘は私達が。ミミちゃんは逃げ遅れた人達を誘導して」

「すみません」

「戦場では謝ってる余裕はない。行くぞ!!」


 カルディナの言葉を受け、2人は後に続く。以前よりも小規模とはいえ、相対す敵はディスコードである事に変わりはない。いくら魔力に強い魔道衣を纏った魔術師といえど、何度もディスコードの攻撃を受ければ無音分解されてしまう。

 ミミ達はエリア内を走り、ディスコードを、逃げ遅れた一般者ノルマルを探した。



「あそこだ!」


 カルディナが指を指す。その先には、ヨタヨタと歩く老翁がディスコードに追われていた。


「……やるぞ」

「えぇ。カッコいいところ、見せないとね」


 ミライとカルディナは並び立ち、互いの右手と左手を近付ける。カルディナの魔術回路が車のエンジン音のように駆動する。ミライも同じように電子音のような音を立て魔術回路を稼働させる。周囲の空気が少しだけ熱を帯びる。マナが集まり、2人の手の間に魔力が充填されていく。

 ミミは老人を保護する為、2人の射線に入らないよう大回りで走り出す。


「おじいちゃん!!」


 ミミの声に反応して、老人は振り向く。ディスコードの存在に気付いた老人は驚き転ぶ。


「っ!!間に合え……っ!」

「!!危ないっっ!!」


 ミライの悲鳴に近い声と同時に、ディスコードの鋭い足が振り翳される。ミミは咄嗟に、老人に飛びつき、覆いかぶさる。


 ザンッ。ドンッ。


 静寂の中、ディスコードの斬撃と、少し遅れてミライとカルディナの魔力弾の音が響く。魔力弾を受けたディスコードは赤黒い液体を撒き散らしながら数m先へ吹っ飛ぶ。


「ミミちゃん!!?」

「っつつ……」


 老人を庇う体勢のまま、ミミは痛みで顔を顰める。遅れて状況が掴めてきた老人は、目の前の子供に声をかける。



「お嬢ちゃん……?」

「おじいちゃん……無事?」

「あぁ……でも、お嬢ちゃんは」

「平気……少し、痛いけど……」


 老人の無事を確かめると、ミミは痛みで顔を歪めつつも安堵の表情を見せる。攻撃を受けた背は、制服ごと大きく切られて、そこから止めどなく血が滴る。


「嘘。少しじゃない。めっっっっちゃ、痛いけど」


 ディスコードの球体は抉れ、満身創痍ながらも立ち上がる。老人とミミよりも、攻撃をしてきた方に狙いを定めた。ミライとカルディナは魔力弾を撃った反動で動けない。


「クソッ、急所を外したか!」

「ミミちゃん!私達はいいから逃げて!」


 ディスコードがゆらり、ゆらりと歩みを進める。一部の足は折れ、断絶的に血飛沫の如く赤黒い液体を撒き散らす。


「もう、私の目の前で誰も死なせないって決めたから」


 やっとのことで立ち上がったミミは胸に手をやる。


「それに……斬られたおかげで……」


 その右手には、デュランダルの柄が握られていた。走りながら剣を振り抜き、魔道衣を展開する。


「ディスコードッ!私が相手だッッ!!」


 ミライに爪を振り下ろそうとしたディスコードが気付き振り向く間もなく、一閃。両断されたディスコードは音も発せず、消滅した。


「遅くなりました!魔法剣士ミミ、ここに推参します!」










 老人を無事魔術結界に送り届ける。

 ミライとカルディナは魔道衣に付いた土埃を払う。ミミは治癒魔術をかけてもらった背中をさする。少し痛むが、出血は収まっている。


「傷、痛む?」

「いいえ、大丈夫です。ミライさん、ありがとうございます」

「こちらこそ、さっきは助かったよ。すまなかった」

「お互い様ですよ、カルディナさん。戦場では謝る余裕なんてないんでしょ?」

「……ははっ、後輩に言われちゃ、世話ねぇよな」

「さぁ、残りのディスコードを探し……!!」


 ミライの言葉は続かなかった。探す必要が無かった。残党のディスコード、その数10体。うち少しだけ膨れ上がっている4体の足には、逃げ遅れた一般者の衣服が付着していた。何が起こったのか察するのは容易かった。


「ケケケケケケケケ!!」


 ミミの決意を嘲笑うかのように、ディスコード達は声を上げる。青ざめていたミミの表情が、次第に怒りの形相へと変化する。


「……こンのぉぉッッ!!」


 ミミは強く剣を握りしめ、振りかざす。1体、1体、向かってくるディスコードを斬り伏せていく。






――――――――――少しだけ離れたビルの屋上。

 ディスコードを斬り伏せていくミミ。その様子を、遠くで見ている少女が居た。


「本当に……」


 少女は首に掛けたペンダントを胸の前で掲げ、ペンダントから飛び出た刀を手に取る。


「私の言葉が聞こえるならば……おいで。ミミ・C・マーティン」


 魔法剣士は妖しく微笑む。薄ら空の月光に、刀が奇しく反射していた。



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