幼馴染短編小説~夏編~
夏の夜空に轟く打ち上げ花火。その音を聞きながら、スーツを脱いだ。
上京して三年。すっかり都会の暮らしにも慣れ、そこそこ一人暮らしという自由を謳歌していた。
仕事も今日で一段落着き、明日から夏休みだ。とはいえ、社会人の夏休みは短いし少ない。だから毎年有給休暇を取り、一週間地元へ帰るようにしている。別に家族が恋しいってわけでもないし、恋人がいるわけでもないけど、俺にとって一番大事なやつが待っているから…。
あの日の夏もこんなふうに暑く、花火の音が轟いていた…。
~三年前~
俺の幼馴染、木下悠とは幼稚園から大学までずっと一緒だった。家も近くで親同士も仲が良く、大学に進学しても相変わらず一緒だった。それは四年生になっても変わらずで、あの日も授業が終わった後、近くのマックで昼飯を済ましつつ、何気ないことを話していた。
「なあ、竜司~」
「ん?どうした?」
「お前さ、就職先決まった?」
「いいや。まだだよ。悠は?」
「俺もw地元の企業でいいとこなくてさ」
「まあ、こんな片田舎じゃ仕方ないよな」
「なんだよ~、お前、地元愛足りねえぞ」
「はいはい」
悠は自分が生まれ育った場所で就職して地元を盛り上げたいと昔から言ってたから、よく俺も付き合わされていたし、俺も地元が好きだったこともあり、この時は地元に就職すると決めていた。
「てかさ、竜司は昔から頭良かったんだし、あの大手の会社入れると思うぞ?なんで入らねえの?俺の姉貴もあそこ勤めてっけど、、むっちゃホワイト企業ってきいたぜ?」
「あー…。んー…。せっかく一生をかけて働くなら俺が一番やりたいって思えた場所がいいなって思ってさ。もちろん、福利厚生も大事だけどね」
「へえ~…。そんなもんか?」
「まあね。だから変に折り合いつけれなくてさ」
「お前って昔から割とこだわり強いとこあるもんな」
そうニッと笑いながらマックフィズを手にする。俺も少し笑いながらアイスコーヒーを口に流した。
そのあとも他愛もない会話をしつつ、お互い帰路についた。今日は夏祭りがあるからどうせまた夜に会うのだが、悠がこのあとバイトのため、一旦別れることになった。
「ただいまー」
「あ、おかえり兄ちゃん」
そういって出てきたのは俺の四つ下の妹。現在高校三年生だ。
「お、梨花か。母さんは?」
「お母さんは今、回覧板ご近所さんに持ってってるからいないよ」
「そっか。分かった」
「あ、兄ちゃん」
「どうした?」
「なんか東京から郵便届いてたよ」
「東京?」
「うん。はいこれ」
そう言われ、渡されたのは確かに俺宛の郵便物。差出人を見てみると、株式会社夢工房と書かれていた。心当たりがない俺は自分の部屋に戻りながら封を切る。
中に入っている物を出してみると、選考通過のお知らせが入っていた。そこで俺は思い出した。四年生になったばかりの頃にそこの会社が開催していたデザインコンテストに応募していたことを。興味本位だったし、どうせ受からないだろうと思っていたから遊び半分で出していた。
確か履歴書や職務履歴を出さずにこのコンテストの結果次第で最終面接までいけるとか書いてあった気がしたが…。まさか受かるとは…。嬉しさがこみあげてくると同時にどうしようかと悩む気持ちも大きくなっていた。
確かにデザインの会社は地元にもいくつかあるが、どこもパッとしなかった。だけど、ここは凄く面白そうだと一年生の頃から目を付けていた。その一方で悠とこっちで一緒にいたいという思いもあった。
ひとまず、落ち着こうと郵便を机に置き、下に降りる。
台所から包丁の音が聞こえるから、きっと母さんが帰ってきたんだろう。居間へ行くと父さんが珍しく早く帰ってきていた。
「おかえり父さん」
「ああ、ただいま」
「・・・・。」
「どうした?何か浮かない顔をしているな」
「え?あー…。実はさ…」
とさっき届いた結果のことを話し、自分が悩んでいると話してみた。まだ大学生とはいえ、成人済みの男が男親に相談とはなかなか気恥ずかしいものがある。
その話を聞いた父さんは今の今まで読んでいた新聞を机に置き、俺のことをまっすぐ見ながら口を開いた。
「まあ、仲のいい友人と一緒にいたいというお前の気持ちも分かるがな、父さんも母さんもお前が一番やりたいことを応援したいと思っている。本当にお前がそこへ行きたいのなら俺は何も言わない。悠もそうじゃないのか?自分のためにやりたいことを我慢させるくらいならお前のやりたいことをやれと言ってくれるはずだ。自分の友人を信じないでどうする」
そう言った父さんの目はとてもまっすぐで、さっきまで悩んでいた自分が馬鹿らしくなった。そうだ。悠は昔からそういう奴だったと。
中学で部活に入部するときも一緒に入るって約束をしていたのに、俺がどうしてもやりたい部活があると言ったら、お前がやりたいことをやってくれるのが一番だと言ってくれた。一度だって応援はされども、責められたことはなかった。
「なんだか気が楽になった。ありがと父さん」
「俺は別に何もしていない。それよりそろそろ待ち合わせの時間じゃなかったのか?」
父さんに言われてふと今の時計に目をやると午後六時。確かにそろそろ家を出る時間だ。
「本当だ。じゃあいってくる」
「ん」
「母さーん悠と祭り行ってくる」
と台所に届くくらいの声で言い残し、家を出た。財布とスマホがポケットに入ってるのを確認し、待ち合わせ場所まで自転車で向かった。
到着して駐輪場に自転車を停めてると背後から声をかけられた。
「おっと…びっくりした。悠かよ…脅かすなっての」
「へへ、わりいわりい」
「ったく。バイトお疲れ様。終わるの早かったな」
「まあな~。店長が今日は早上がりでいいって言ってくれてさ」
「そっか…。あのさ、悠」
「ん?どした?」
「実は…話したいことがあって…」
と家に帰ってからのことを話した。
「それで…。俺、そこの会社に入ってみたくてさ…」
「…そっか。お前がやりたいっていうんじゃ仕方ねえよな。俺は精いっぱい応援するぜ!」
そう言って笑ってくれた。
「悠…ありが「おっと。ただし条件があるぜ?」
ありがとうと言おうとした言葉を遮り悠が言った。
「条件?」
「そうだ。お前が東京の会社へ行くことを応援する代わりの条件」
「なんだよ?条件って」
「それは、年末年始とお盆は必ずこっちに帰ってきて、俺と遊べ!」
「へ?」
条件と言われ身構えてた俺は、少しというかかなり間の抜けた返事を返してしまった。
「アッハハ。なんだよその間の抜けた返事w」
「う、うるせえな。お前がもったいぶるからだろ?どんな条件かと身構えてたんだぞ!」
「はいはい。お前可愛いな。大親友ともあろう俺がお前に難しい条件なんか出すわけねーだろw俺のことなんだと思ってんだよ」
ぷくうとふくれっ面する俺のことを楽しそうにいじってくる悠。だけど、お前のそういうとこが大好きだと改めて思った。
「ほら、もうすぐ祭り始まるぜ!早くいこう」
俺の手を取り、悠が走る…。
祭囃子の音が心地よく、胸に響き渡った。
いつの間にか眠っていたらしい。毎年夏まつりの時期になるとあの日のことを思い出していた。ふとスマホに眼をやるとアイツからLINEが入っていた。今年も手土産楽しみにしているとのこと。
くすっと笑いつつ、今年の帰省する際の手土産を何にしようと考えつつ、遠くで聞こえる祭囃子に耳を傾ける。