落ちこぼれ魔法使いとドラゴン
その日、フィルは心臓のドキドキがとまりませんでした。なぜなら成績の悪いフィルは今日受ける試験に失敗したら魔法学校を追い出されてしまうからです。親もおらず、おともだちが一人もいないフィルはそんなことになったら行き場所がありません。
「ああ、どうしよう。うまく出来るかな」
どんなにいやでも試験の順番はまわってきます。とうとうフィルの順番がやってきました。
「よお、フィル。お前には無理だろうな」
同級生がフィルを覗きこんで馬鹿にしてきます。彼の肩にはキャットシーが乗っています。
「さあ、この召還陣に手を置いて」
フィルは先生の言うままに、召還の魔方陣に手を置きました。意識を集中させると、体中の血がてのひらに集まってきます。
「先生、熱いです」
フィルは怖くなって先生に聞きました。でも先生はふるふると顔を横に振りました。
「フィル、やりなさい」
フィルは涙目になりながら、召還の儀式を続けました。その時です。ミシミシと音を立てて召還陣を書いた石畳が悲鳴をあげました。
「わぁ」
フィルは慌てて手を離しました。試験会場の中庭はしんと静まり返りました。
「おい、やっぱり失敗したな」
さっきの意地の悪い同級生がフィルに言いました。するとその途端、石畳がバン! と音を立ててはじけ飛びました。降り注ぐ石つぶてに同級生も先生も逃げまどいます。
「いてて……あれっ痛くない」
フィルは頭を抱えましたが、石つぶてが飛んでこないことを不思議に思って、おそるおそる目を開けました。
「ふふふ、大丈夫? ぼうや」
そこには真っ黒な翼を広げた巨大なドラゴンがいました。硬そうな鱗がピカピカと光っています。
「あわわわ……」
今度こそ、フィルは腰を抜かしました。ドラゴンの登場にみんなは逃げ回っています。
「逃げろ、フィル!」
先生が叫びます。フィルが逃げようとすると、ドラゴンの爪がフィルを捕まえました。
「どこに行く気? 私を召喚したのはぼうやでしょ」
「えっ、ぼくが?」
フィルは驚いてドラゴンを見つめました。ドラゴンの目はいまいちどういう表情をしているか分かりません。
「そうよ、私はあなたの召喚獣よ」
「そ……それじゃあ、とりあえず降ろしてくれる?」
フィルが震えながらそう言うと、ドラゴンはすぐに降ろしてくれました。
「フィル! 大丈夫か」
先生がそう言って駆け寄ってきました。
「さあ、ここは危ない。すぐに離れるんだ」
「先生、あれはぼくの召喚獣です」
「ばかを言うんじゃない」
先生達はフィルの言う事を無視してドラゴンに魔法を浴びせかけました。
「しょうがないわね」
ドラゴンが身震いすると先生が吹き飛びました。尾っぽをふると、中庭に面した壁がくずれました。
「うわわ……」
先生も同級生も逃げ回ります。フィルも一緒に逃げようとしましたが、先程と同じ様にドラゴンに捕まってしまいました。
「どこへいくの。私はあなたの召喚獣なのよ」
フィルは頭がくらくらしました。
「おい、フィル……! 本当にお前の召喚獣なのか」
「そうみたいです!」
「どうしてくれるんだ、これを!」
フィルが見渡すとそこはがれきの山。同級生には怪我人もでているようです。
「ごめんなさい……」
「あやまって済むか、ドラゴンなんか召喚しやがって。出て行け!」
先生の声に同級生も出て行け! と叫びました。
「……ごめんなさい」
こうしてフィルとドラゴンは学校を追い出されてしまいました。
「追い出されちゃいましたね」
あてもない道すがら、ドラゴンは呑気にいいました。
「しかたないよ。ところで君は帰らないの」
「帰りませんよ」
「どうして?」
「こんなにかわいいご主人様が出来たんですもの、帰りません」
ドラゴンがあんまりきっぱり言うので、フィルは恥ずかしくなりました。
「とりあえず、西へ行こうか」
「はいご主人様」
こうしてドラゴンとフィルの旅がはじまりました。この時フィルは気づいていなかったのですが、ひとりぼっちのフィルはもうひとりぼっちではなかったのです。
ちょっとファンタジー筋を鍛えたくて童話調の短編を書いてみました。




